満たされない愛情
冷房の効いた店内で俺は芹ちゃんと一緒に、女児用の衣服コーナーを見て回る。
芹ちゃんの今日の目当ては下着。
時折、芹ちゃんから「お兄ちゃんは、どれが好き」と訊かれて色々な下着を見せられるものの、正直、女の子用……特に、芹ちゃんくらいの女の子の趣味が全く分からない俺は、とりあえずプレキュラのキャラクターがプリントしてある下着を勧めた。
だが、残念。それはどうやら“ハズレ”だったらしく、プレキュラの下着をチョイスした俺は、少し不貞腐れた芹ちゃんから「子供じゃないもん」と、非難を受けた。小学生だよ。普通に子供じゃん!
まぁ……でも、あれかな。芹ちゃんくらいの年齢って、背伸びしたい頃なのかもしれないな。
でもね、芹ちゃん。プレキュラはNTRの無い、良いアニメだと思うよ。
ちなみに、美織と橋爪さんも店内で自分達用の服を見て回っている模様。
俺は服をウネクロで買うと決めている為、特にここで見るものはなく、芹ちゃんの服を一緒に見て回っている。
女児服コーナーをうろついていると、不審者と間違われるのではないだろうかと少し不安だったが、それは杞憂だったようで、周りの客や店員からは普通に“兄と妹”と見られているようだ。
芹ちゃんの様子を盗み見ると、彼女はキラキラとした瞳で、次々に下着を手に取っては「う~ん、こっちの方が可愛いかな」と、可愛らしく小首を傾げながら吟味している。
もしかしたら……こうやって、親から買い物に連れてきてもらった記憶があまり無いのかもしれない。
そう思えば、少し恥ずかしい程度の事には我慢して付き合ってあげられそうだ。
芹ちゃんと初めて夕暮れの時の公園で逢った時、彼女が寂しそうに笑う顔を見て、何かしてあげたいと思った。それと同時に、それが俺の義務であるとも感じた。
おかしい話だ。俺と芹ちゃんは赤の他人。俺には彼女を扶養する義務もなければ、保護する義務もない。
『パパなの?』
芹ちゃんからそう問われた時、微かに……ほんの微かに“デジャヴ”のような感覚を得た。
苦しくて懐かしい……そんな感覚を。
「お兄ちゃん、こっちとこっちなら、どっち?」
両手に持った下着を見せながら、意見を求めて来る芹ちゃんの笑顔に、あの日のような陰は無い。
「どっちも可愛いけど……こっちかな。」
俺が、リボンの付いた女児用ショーツを指すと、芹ちゃんは「やっぱり?だよね」と、嬉しそうに喜んだ。どうやら今回は“アタリ”を引き当てたようだ。
女の子の買い物が目的の品だけで終わるはずもなく、今度は浴衣コーナーに興味を示し、意気揚々と歩いて行く芹ちゃんの後ろ姿を見て思う。
艶々の長い黒髪と、華奢な身体、ぷりぷりのお尻が可愛ぃ……ではなく、彼女の財布の中に入っている紙幣の数が、一般的な小学生よりもあまりにも多すぎる気がした。
アルバイトをしている俺と同じか、それ以上の金銭を今、彼女は所持している。
芹ちゃんの話では「ママがくれた」らしいのだが、初めて芹ちゃんと出逢った時、彼女は殆ど金銭を持ってはいなかった。
つまり、彼女の母親は要求すれば金銭を与え、逆に要求が無ければ金銭を一切与えないという思考の持ち主なのだろうか。あるいは……単に無関心。
子供に金銭を与える事は、一つの社会勉強であるとも言える。
金銭を何に、どうやって使うのか。それを学ぶ機会が“お小遣い”だとする場合、芹ちゃんの母親は、そういった教育には無関心、又は別の思惑があると考えられる。
ただ、俺は芹ちゃんの母親を前者だと考えている。
夕方、誰もいない公園で一人帰りを待つ芹ちゃんの心配もろくにしていないような親だ。芹ちゃんに対して関心が無いのだろう。
何故だ?再婚するにあたって、子供を邪魔に思うようになったのか?……解らない。
ただ、間違いなく芹ちゃんは愛情に“飢えている”ようだ。
満たされない愛情への欲求は間違いなく危険因子として、彼女のネトラレリスクを増大させる事になるだろう。
まして、彼女は幼いとはいえ“美少女”だ。目鼻立ちが整った彼女は、将来、間違いなくかなりの美少女に成長を遂げる事であろう。
そして当然だが、成長する過程で芹ちゃんは色々な人と出会う事になる。その中には下心を持って近づいてくる輩も多く存在する事だろう。
そんな時、満たされなかった愛情欲求は、彼女を“騙されやすく”する。
愛情を与えてくれそうな相手に依存してしまうのだ……それが例え、口先だけの愛情だったとしても、それに固執し、身体が目当ての最低のヤリ〇ン間男達の甘言に弄されて、大切なもの失ってしまう事になる。
そうならない為にも、彼女へは愛情を与えてあげなければならない。
だが……本来、そうすべきなのは、俺ではなく、“ママ”の役割だ。
芹ちゃんに愛情を一番与えていた“本当のパパ”が亡くなってしまった以上、彼女の成長に母親の存在は必要不可欠だ。
(一度、ママに会ってみるべきか……。)
はたして、芹ちゃんママは……。