二人の邂逅
朝のまだ涼しい空気の中、俺は机に向かい、淡々と夏休みの宿題を片付けていく。
そんな時、不意に鳴り出したスマートフォンの着信音に集中力が寝取られた。(意味不明)
「あー、もしもし。美織か?」
着信は美織からであった。彼女の明るいソプラノボイスが電話越しに耳に響く。
「壮太、今日、買い物に付き合ってくれない?」
買い物かぁ……ぶっちゃけ、面倒ではある。
大体、買い物なんてアメゾヌでいいじゃないか。迂闊に街に出たって、ネトラレリスクが上昇するだけだろう。
ちなみに、俺はヨドゥバセ派である。
「ネットショップじゃ駄目なのか?」
「駄目っ!実際に試着しないと、分かんないじゃん。」
試着という単語が出て来るという事は、目当ての物は服か靴、又は帽子や小物類であろうか。
厄介な……。確かに今日はエアコン工事のアルバイトが休みとはいえ、俺とて暇というわけではない。
「普通に女友達と行った方が楽しくないか?」
「嫌……なの?」
そう来たか。最近、美織の態度が何処となくおかしい。
かと言って、俺が調べた限り、美織の周りに怪しい男の影は見当たらなかったので、そっち系のトラブルに見舞われているわけでもなさそうだ。
何というか、最近の美織は“あまえんぼう”だ。某有名ゲームのように性格の変わる本でも読んだのか?
性格の変わる本、それは現実にも多々存在する。
例えば俺の場合は、NTR本を読み過ぎて“ねとられきょうふしょう”になったし、穴山はスポーツ漫画ばかりを読んでいた為“ねっけつかん”になったようだ。
橋爪さんは推理小説や恋愛小説が好きなので……何だろう?分からん。
まぁ、それはともかく、嫌かと言われれば割と嫌なのだが、それよりも……。
「嫌じゃないけど、今日は先約がある。」
「……ダ・レ・と?」
あれ?電波障害か?今、美織の声がまるで怨霊か何かのように聞こえたんだが。
「芹ちゃんと、だ。」
「……誰よ。その女ァア!」
今度は激昂し始めたぞ!どうした、美織。今日はやけに情緒不安定だな?!
確か、美織はつい先日、あの日だったはずだから、次の周期はまだ先のはず……。
美織は重い方らしく、俺にはすぐに分かる。いや、まぁ、流石に本人には言わないけどな。
「近所の小学生だよ。最近、仲良くなったんだ。」
「仲良く?小学生の女の子と?まさか……壮太――
「いや、違うぞ。事案みたいな事はない。ただ、一緒に芹ちゃんの下着を買いに行く約束をしているだけだ。」
「あ……なるほど。女児の下着をね~。」
「………。」
「………。」
「壮太、家に居なさいよ……イマカラ・イクカラ。」
「平くん、こんにちは。」
「あ……うん。いらっしゃい、橋爪さん。」
何だ?何がどうなってやがる?
俺、確かさっきまで美織と電話してたよな?で、今、家の玄関先に立ってるのは橋爪さん。
「ごめんなさい、いきなり来ちゃって……迷惑だったら……帰ります。」
「あ、いや、大丈夫だよ。」
全然大丈夫ではないのだが、仕方ないので俺は橋爪さんを玄関の中へ迎え入れる。
それにしても、いつから、美織は橋爪さんになったんだ?(混乱)
まさか……催眠系間男の催眠攻撃で、気が付かない内に認識を入れ替えられいるのか?!
俺は引き攣った笑みを浮かべつつ、それを悟られないように橋爪さんを部屋へ招き入れようとする。
橋爪さんが「お邪魔します」と行儀良く、靴を並べた時、本日2度目の来客を告げるチャイムが鳴り響いた。
「お…おう。美織。早かった、な?」
「………。」
「………。」
いや、マジでどういう事?!助けてダビデ様!
嵐の予感?