許すまじき泥棒猫
【坂梨美織】
最近、私は幼馴染の壮太の事が気になって仕方がない。
昔の壮太はとにかく子供っぽくて、だらだらと部屋でテレビゲームばかりしている様な印象しかなかった。
でも、最近の壮太は何というか……上手くは言えないけど、私は彼が時折見せる大人っぽい表情に、胸をキュンとさせられる事がある。
それに、着こなした制服、清潔感のある髪型も凄く似合っている。ちょっとだけ、かっこいい……かも。
これが“恋”だと、自覚してから、私の気持ちはどんどん壮太に惹かれていった。
壮太が時折、切なそうに考え込む表情が好き。
壮太が大人っぽく……だけど、無邪気に笑った顔が好き。
壮太が私の事を「美織」と呼んで、見つめる時の瞳が狂おしいほどに好き。
いつの間に私は、こんなに壮太の事が好きになっていたんだろう……。
ある日、私は何気なく廊下の掲示板を見た。
そこには普通科の中間テストの結果が張り出されていた。
上位10名の名前が記されたその結果を見ると、2位以下を大きく引き離した1位の欄には“平壮太”の名前があった。
中学の頃まで、ロクに勉強もしていなかった壮太が何故?そう思った私は後日、壮太に理由を尋ねてみる事にした。
「壮太。最近、勉強頑張ってるみたいね。どうしたの?」
「そりゃまあ、ネトr……勉強すれば、国立大学へも行けるかもしれないだろ?やるに越した事はないさ。」
「え……!壮太、国立大学を受けるの?!」
私は驚いた。私の知る限り、壮太は勉強嫌いのはずだ。
突然、壮太が国立大学を目指すことにした理由は解らないけど、その後、彼が発した言葉に私は全てを理解した。
「そうだな。そうすれば、また、美織と一緒に学校へ通えるかもしれないな。」
私は理解した――壮太は私の為に勉強してるんだ。これからも私と一緒に歩む為に。
中学の頃、私は友達からこう揶揄われた事がある。
『平ってさ、もしかして、美織の事、好きなんじゃないの〜?』
その時、私が「冗談やめてよ~」と軽く流したあの言葉が、もし真実だったら……?
あの頃から、壮太が実は私を好きで、同じ高校に通っているのも、偶然じゃなかったとしたら?
……そんなに想われていたなんて……。
ごめんね、壮太。気が付いてあげられなくて。ごめんね。
目の手術をしてから、少し変わったと思っていた壮太の行動は、私の為だったの?
壮太……壮太、壮太壮太壮太!好き!しゅき~!!
しかし後日、私はある光景を目撃してしまう。
その日、バレー部顧問の都合で偶々、部活を早く終えた私は、いつもより少し早く帰路に着いた。
夕焼けの帰り道、私の少し前を歩く男女の姿が目に留まる。
その男女の一人、女性の方は私のクラスメイトである橋爪志緒で、男性の方は――
(そ…壮太?)
私には解かる。橋爪さんが壮太に向ける瞳は“恋する乙女”のものだ。
橋爪さんは隠れ美少女として、一部の男子から騒がれていて、何より、その大きな胸が特徴の女の子だ。
内気で大人しい印象だった橋爪さんだけど、今、彼女が壮太に向けている表情は、そう、完全に“メス顔”だ。
今も、橋爪さんは壮太に密着するように歩いていて、時折、その胸をさりげなく壮太の腕に当てているように見える。
(あの……泥棒猫!壮太を誘惑するなっ!)
私は橋爪志緒を睨みつける。血が滲むほどに噛みしめた奥歯からは、ギリッと鈍い音が響いた。
私はこの時、初めて本物の〇〇を知った。
みおりん覚醒……。