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第三話「前座」

 巨大な悪鬼が登場したことにより、ほとんどの生徒が驚いてその場から動こうとしない。おそらく名家の生まれでも良くて地獄の悪鬼しか見たことがないというのがほとんどだと思っている。


「修羅って、とんでもないものを持ってきたわね。笑えるわ」

「笑っている場合ではないと思うよ?」


 悪鬼には六種類ランク付けされており、生まれたての≪畜生の悪鬼≫、弱っている人間を喰らうようになる≪餓鬼の悪鬼≫、通常の人間を喰らうことができる≪地獄の悪鬼≫、ここからランクが桁違いに強くなり祓魔師でもある程度のレベルでなければ祓えない≪修羅の悪鬼≫、そして祓魔師の上位数パーセントしか祓えない≪人の悪鬼≫、最後に祓うことが困難だとされる≪天の悪鬼≫の六つだ。


「桜は修羅の悪鬼をここのメンツで祓えると思う?」

「行けるんじゃないのかしら? そうでないと試験の意味がないと思うわよ」

「確かに……」


 桜の言葉に私は納得しながらも、それは私たち一年四組の全員が万全の状態であればの話ではないかと思ってしまった。自信満々だった人たちでも、悪鬼の大きさと本能で分かる強さで腰が引けてしまっている。


 それでも吉備たちは戦う気満々で武器を構えていた。名家でも上層にいる人たちは悪鬼に慣れているのだと判断して、これなら行けるのではないかと思った。そう思った瞬間、悪鬼から強大な咆哮と陰の気がまき散らされた。


「グヲオオオオオオオオオッ‼」


 その開戦の合図で動ける人たちは修羅の悪鬼に向かって行った。私たちはその場で様子を見ることにして動かなかったが、吉備たちは悪鬼に走っていく。


「ハハッ! てめぇみたいな力の塊だけの存在なんざ楽勝なんだよ!」


 大剣を持った吉備が霊力で身体能力を強化して修羅の悪鬼の顔まで跳んだ。そして大剣に霊力を流し込むことで術式が発動して大剣から黒い光が出て巨大な光の大剣が完成した。


「はぁぁぁっ!」


 その巨大な黒い光の大剣が振り下ろされ、修羅の悪鬼は避けることができずに頭から股まで吉備の大剣が通ったことで、修羅の悪鬼が真っ二つになった。


「ハハッ! 何だ雑魚じゃないか!」


 笑いながら降りていく吉備と、それを見て周りの人たちが自分が倒すことができなかったから吉備に文句を言っていた。


 確かにあの巨大な大剣の攻撃はすごいと言わざるを得ない。あれほどの霊力を操ることができ、それを安定させているから、さすがは普段から偉そうにしているだけはあると思った。ただ、相手は悪鬼だ。目で見える肉体の死は死ではない。


「まだね、笑っている場合じゃないのに」

「うん、まだ」


 悪鬼の魂は未だに大きく存在感を示しており、それを桜も分かっているようで、いつでも攻撃に対応できるように構えながら私は周りをチラリと見ている中で、一人だけ違和感があった。


「ふわぁ……」


 他のクラスメイトたちは真剣な表情や顔をこわばらせていたりしているが、イジメられていた男子生徒は大きなあくびをして眠たそうにしていた。


「彼、緊張していないのかな?」

「……どうかしら? 何も感じられないのか感じられても安心しているのか、それとも余裕があるのか分からないわ」

「まぁ、そんなことよりも悪鬼か」

「もう少しで動くわよ」


 桜がそう言うと真っ二つにされた状態で止まっていた修羅の悪鬼が動き始めて真っ二つにされた場所がみるみるうちに元通りになった。そして修羅の悪鬼は大きく腕を上げて、倒したと油断していた吉備に向けて腕を振り下ろした。


 巨大な体なため腕を振り下ろしただけで凄まじい衝撃が私のところまで来た。感知術式で吉備がどうなったのか確認すると、生きていることが確認できた。視覚で吉備を確認して、直撃は免れてその大剣で防いだらしくそれほどの怪我ではない。


「てめぇ……! やってくれたなぁ……!」


 怒りの血相をしている吉備に怪我はないが、どうやら霊力をごっそりと持っていかれたらしく少しだけ疲労の色が見える。


「絶対に、ぶっころすッ」

「少し回復した方が良いっしょ!」

「そうだよ、少し休んでいようよ!」


 怒りでまた修羅の悪鬼に向かおうとしている吉備を吉備の集団にいるチャラい男とビッチな女に止められているが、それでも向かおうとしている。


「まずいわね……、クラスがバラバラになっているわ。これじゃあ倒せるものも倒せなくなるわよ」


 周りを見た桜がそう言ったため、私も周りを見ると吉備の代わりに走り出そうとしている女子生徒やさっきの攻撃に腰を抜かしている人、そして逃げ出している人もいる。


 逃げ出している人に関して言えば、それでも名家の生まれなのかと言いたくなる。この程度で逃げ出すようなら祓魔師にならない方が良いと思えるくらいだ。


「とにかく、今は動きを封じるわよ。志穂」

「はい、お嬢さま」


 今まで私と桜の後ろで立っていた志穂さんが桜に呼ばれたことで私たちの前に出た。志穂さんは修羅の悪鬼に向けて手を上げて手のひらから一本の糸が出てきた。その糸は勢いよく修羅の悪鬼に向かい修羅の悪鬼の首に巻き付いた。


「そのまま倒しなさい!」

「はい」


 そして志穂さんは全身に霊力を纏わせて修羅の悪鬼に巻き付いている糸を両手で引っ張った。あまり太い糸ではないから切れるのではないかと思ったが、そんなことはなく修羅の悪鬼が引っ張られていることに気が付き、そして跪いた。


「お嬢さま、攻撃と防御はお任せします」

「任せなさ~い!」


 志穂さんの言葉で桜は二本の剣を両手に装備して悪鬼に向けて走り始めた。私にできることは何もないと思い、桜が悪鬼に走っているのをただ見ているだけだった。


 首に巻き付かれている糸を取ろうとしている修羅の悪鬼が走って向かっている桜に気が付き、桜に向かってまた腕を振り下ろそうとした。だが、桜は赤い剣をその場で振ったことで悪鬼の振り下ろそうとしている腕が取れて吹き飛んだ。


「もう一発よ!」


 反対の青い剣を振り抜き、反対側の腕も吹き飛ばしたことで志穂さんの引っ張りに耐え切れずに修羅の悪鬼はうつ伏せに倒れた。


「今がチャンスだわ!」

「俺がやる!」

「いいや、俺だ! お前らは引っ込んでろ!」


 修羅の悪鬼が倒れたと知ると、周りでチャンスを伺っていた生徒たちが一斉に倒れている修羅の悪鬼に襲い掛かった。だが、修羅の悪鬼は大きすぎるから、普通の攻撃では攻撃にはなっていない。せいぜい蚊に刺されたくらいにしか悪鬼は思っていない。


 その場にいた桜の表情は見えないが、後方にいる私たちの方に戻ってきたことでその表情を見ると鬱陶しいものを見るような顔をしていた。


「最悪だわ、まさかあそこで邪魔が入るとは思ってもみなかった」

「彼らも必死なんじゃないの?」

「必死で邪魔されるのは本当に嫌よ。適材適所を分かっている保乃花を見習ってほしいわ」

「それって何もしていないことをディスっているの?」

「そんなわけないじゃない。褒めているのよ」


 そう言っている間に、少し休んでいた吉備が修羅の悪鬼の攻撃に戻っていた。他のクラスメイトたちも攻撃をしているが、吉備の大剣を巨大にして攻撃する方法以外意味がないように見える。


「ダメね、全く霊力と気が減っていないわ。このままだと彼らの体力が先に尽きるわね」

「それならどうするの?」

「……今の私でも、おそらくあれを倒すだけの術式をコントロールできていない。だから全員で協力する以外に倒す方法はないわよ」

「結局そこに帰結するみたいだね。それじゃあ他の人に声をかけて――」


 どうにかして自信家の塊たちの協力を取り付けようとしたその時、倒れている修羅の悪鬼から膨大な陰の気が放出され、私たちのところにまでその強大な陰の気が襲い掛かってきた。


「ハァッ‼」


 桜が私たちの前に立ってその陰の気を防いでくれたが、衝撃をすべて受け止め切れずに私たち三人は吹き飛ばされたが、霊力を纏っていたことで全員が無事であった。


 だが近くにいた生徒たちはそうはいかず、近くにいなくても気にやられて倒れており、吉備でさえも倒れていた。陰の気を放出した修羅の悪鬼は体を元通りにして立ち上がった。


「さすがは修羅の悪鬼と言ったところかしら。これだけ陰の気を放ってもそこまで消費していない。これで知性と術式があれば、修羅の悪鬼の上位として君臨できるわけね」

「そんなことを悠長に言っている場合?」

「保乃花、分かっているでしょ? この試験はもう無理よ。私たちの潜在能力があいつに上回っていたとしても、それを私たちが使いこなせていない。それに私たち三人だけでは絶対に勝ち目はないわ」


 桜が完全に術式を使いこなしていれば、この修羅の悪鬼は簡単に倒すことができる。そして私が人目もはばからずに力を使えば簡単に倒せる。だけど、今ここでやるのは普通に考えてなしだ。これは単なる試験なのだから、ここで私の存在を公表する意味がない。


「んんんッ! ようやくか」


 私たち以外にも無事だった人がいたのかとそちらを向くと、そこにはさっき大きなあくびをしていたイジメられていた男子生徒が微かに笑みを浮かべてそこに立っていた。

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