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第二話「激動」

 日下部先生を先頭に、私たち一年四組の生徒は第一演習場に向かっていた。日下部先生は移動中に説明すると言っただけで、どうして第一演習場に向かうのか聞いていない。


「第一演習場って、確か悪鬼との実戦をする場所よね?」

「うん、そうだと思う。話を聞いたことがあるだけ」


 後方にいる私の隣に並んで歩いている桜の言う通り、第一演習場は悪鬼と戦う場所と聞いている。演習場は祓魔高等学校の広大な敷地内にあり、周りの被害を気にすることなく戦うことができる場所だと聞いた。


「今まで一ヶ月間、祓魔師としての心構えや祓魔師としての基礎中の基礎などを学んできました。ですがそれは今日で終わりです。今日からは本格的に悪鬼との実戦を行ってもらいます」


 顔だけを後ろを向けてそう言う日下部先生にクラスメイトたちはざわついていた。そういう話を今まで全くしていなかったこともあるのだと思っているが、そのざわつきは驚き、不安、そして興奮の三種類に分けられた。


「マジかよ! 急すぎるだろ!」

「ハハッ! 腕が鳴るなぁ!」

「えぇ……急に言われてできるかな……?」

「ふふっ! ようやく……!」


 そのクラスメイトたちの反応を見ながら、私は気付かれないように日下部先生を見た。日下部先生はクラス全体を見ているのではなく、誰か一人を見ていることに気が付いて誰を見ているのか見た。


 そこには私たちと同じように後方で黙々と歩いているさっきの吉備に絡まれていた男子生徒がいた。日下部先生が男子生徒の身を案じているのか、それとも何かあるのか分からないが、男子生徒を見ていることだけは分かった。


「保乃花、楽しみね……!」

「悪鬼を祓うことがそんなに楽しみなの?」

「それはそうよ。だって今まで体を動かしていない分、ストレスを発散できるわ」

「そうですか……」


 人を喰らう悪鬼を倒すことが楽しみだと言う人の気持ちがイマイチ分からない。だが、好戦的になって倒すことは良いことだと思っている。すべての悪鬼を完全にこの世から消し去ることは不可能でも、その数を減らすことはできるから、それだけで一般人の被害が少なくなると聞いた。


「さぁ! ここが第一演習場だよ!」


 日下部先生の言葉で前を見ると、高い鉄柵がされている先に木々が数多生えた場所があった。出入口になっている開閉可能の鉄柵には〝第一演習場〟と書かれている。


「これから〝四月末第一試験〟の説明を始めます」


 私たちの方を向いた日下部先生はそう宣言した。そしてこれが授業ではなく、試験であることを認識した。突然試験が来るとは思わなかったのは私だけではないと思っている。


「これからこの学校の仕組みとこの試験の説明をしていきます」


 生徒たちがざわついているが日下部先生はいつもの笑顔はなく淡々と説明を始めた。


「この学校では、最低月に一回のペースで大規模試験が行われます。大規模試験は様々で個人試験からクラス試験、学年試験まで様々な形で行います。そして試験に応じて、生徒一人一人の内申点が与えられます。その内申点によって祓魔師としてのランクを上げるポイントとなり、この学校がいわば祓魔師昇格試験の代わりとなっています」


 祓魔師昇格試験は、本来なら昇格する条件を満たした上で昇格する祓魔師ランクの最低条件をクリアすることが必要となると聞いた。だからこの学校にいればその条件を抜きにして実力次第で祓魔師のランクが与えられることになる。


「……初めて聞いた」

「そうね。この学校は祓魔師になるための教育機関としか聞かされていなかったから、まさかこんな特典が付いてくるとは思わなかったわ」


 私たちの認識では、一握りの人は現状で祓魔師の資格を持っている人がいるが、この学校を卒業すれば実力次第で最低ランクの下位祓魔師(アルケー)前位祓魔師(エクスシア)になると思っていた。


 しかし、それが在学中でも資格を取得することができるのだと聞けば、桜のような実力や自信がある人にとっては吉報だと言える。


「内申点がなくても特にお咎めはありません。ここにいられる限りは卒業すれば下位祓魔師や前位祓魔師になることができます」


 日下部先生の何か意味のありそうな言葉を表情を変えずに聞き流し、騒ぎになるクラスメイトたちの声で聞き逃さないように続きを聞く。


「静かにしてください! ……学校の仕組みについてはここで終わります。次に今回の試験内容を説明したいと思います」


 浮足立っている生徒たちに大きな声で注意した日下部先生は説明を続ける。


「今回の試験分類は〝学級試験〟となります。つまりここにいる一年四組の全員で試験に対応してください。自分自身ができることを行ってください」

「質問です!」


 日下部先生が話している途中で一人の女子生徒が手をあげて声を発した。


「はい、どうぞ」

「この試験では活躍すれば活躍するほど内申点は高くなるのですか?」

「それが適切であれば、それ相応の内申点は与えられます」

「ありがとうございます! ……よしッ」


 先生の解答を聞いた女子生徒は小さくガッツポーズをしているところを見る辺り、実力に自信があると見える。だが私はそう簡単なものだとは思っていない。


「話を続けます。試験分類は個人、学級、学年と試験に当たる生徒が増えれば増えるほど内申点の幅が大きくなってきます。今回の学級試験は限界まで内申点を貰えれば個人試験の何倍も得ることができます。頑張ってください」


 内申点の与える上限があるのかと思いながら、内申点が加点式とか減点式とか教えてくれないのは当たり前かと話を聞き続ける。


「試験内容については試験が始まってからお知らせしますから、安心せずに頑張ってください」

「……いやらしいわね」

「いやらしいね」


 先生の言葉に桜と私が反応した。始まってからということは作戦を立てる時間があまり作れないということになる。学級でなら考える時間はまだ作れるが、個人になるとその人の状況判断能力など祓魔と関係ないところで差が出てくると思った。


「今からみんなから預かっていた武具を返還します。呼ばれた人は取りに来てください」


 この学校に入ったら許可がない限り武具を回収されてしまっている。私の武器も回収されてしまっている。わざわざ武器を持たせておいて治安を悪くさせる必要はない。


「次、伊能保乃花さ~ん」

「はい」


 日下部先生とは違う人が一年四組の武具を持ってきて渡していく中で早めに私の名前が呼ばれた。私は前に出て日下部先生から黒い塊である二丁の拳銃を受け取った。


「拳銃を使うのね。銃身か弾丸のどちらに術式が入っているの?」

「どっちもだよ」


 桜と志穂さんがいる場所に戻った私は、次から次へと武具を生徒たちに返していっているところを見ていると、剣や槍や籠手、札が入っているケースなど様々なものがあった。隣に戻ってきた桜は二本の剣を携え、志穂さんは何も持っていない。


 ただ、悪鬼を祓うためには特別、武具が必要なわけではなくサポートするものだとされている。メインは己の術式や魔法であるため、武具を持っていない人はいる。さっきからずっとボーっとしているイジメられていた男子生徒が素手で戦うように。


「武具の返還は終わりましたので、一人一個この腕輪を配りますね。配られた人はどちらの手でも良いので手首につけてください」


 日下部先生が見せてきたのはミサンガくらいに薄い銀色の腕輪だった。生徒全員に配られて私は右手首に銀の腕輪を付けた。おそらく何かの術がかけられているのだろうが、私では分からない。


「それではこれより〝四月末第一試験〟を開始します。……頑張ってね、みんな……!」


 第一演習場の出入口は開け放たれ、その近くに先生が立っていることから日下部先生は私たちと一緒に来ないのだと察した。そしてその真剣な表情から何か嫌な予感がしてならない。死ぬことはないだろうが、それでも油断だけはできない。


「よしっ! 俺に付いてこい!」


 そう言った吉備が先行して向かった。彼が先に行けば彼に付いて行くことに強制的になってしまうため、それが嫌な自信がおありなクラスメイトたちは吉備に負けじと向かった。


「私たちも向かいましょうか」

「そうだね。まずどんな試験になるか分からないから確認しないと」

「それに関して言えば、彼が確認しに行ってくれるから楽ね」

「ははっ、まぁ諮らずもそうなってしまったわけだから誰にも文句は言われないよ」


 私は桜と志穂さんの三人で固まって第一演習場に入っていく。他の人たちも吉備の後ろに付いて行く人やマイペースに向かう人など様々であった。


 周りに警戒しながら森の中を進んで行くと、開けた場所に出てここで何か行われそうだということは予想できた。前にいる吉備の集団は止まる気はなく進んで行くが、最後尾の人が開けた場所にたどり着いた瞬間に、全身に剣が突き刺さっているのかと錯覚する殺気が来たことにより全員がその場に止まった。


「……ふっ、第一試験でこれなの?」

「本当に勘弁してほしいかな……」


 驚くほどの殺気に、桜は冷や汗を流しながら笑みを浮かべて二本の剣を抜き、私は二丁の拳銃を手に持った。


 そして次の瞬間、空からあり得ないほど大きな物体が降ってきたことで大きな揺れが起きて砂埃も舞っている。巻き込まれた生徒はおらず、全員が私たちの方に退避していた。


『〝四月末第一試験〟の試験クリア条件、修羅の悪鬼を祓うこと』


 日下部先生の声でここら一帯に声が響き渡り、砂埃が晴れた先には人型であるが体の色は黒く、体中に棘がむき出しになっている何十メートルもある巨大な悪鬼がそこにいた。

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