迷子になっていた幼女を助けたら、お隣に住む美少女留学生が家に遊びに来るようになった件について【8巻発売決定!!・コミック1巻発売中!!】

第2章『支え合う二人』

第87話「すれ違う想い」

　俺がシャーロットさんにゾッコンになってしまってる事は誤魔化しようのない事実。

　なぜか本人からはそう思ってもらえていないようだけど、俺にとってはシャーロットさんが一番だ。

　絶対に傷付けたくなくて、悲しんでほしくない女の子だと思ってる。

　……そして、本当は気が付いていた。

　俺が別れると言えばこの子をどれだけ傷付けるかという事を。

　やっぱり、そんな事できるわけがない。

　それに俺だってこの子を放したくないのだ。

「ごめん、シャーロットさん……」

「ですから、明人君は……！」

　シャーロットさんは俺の手から離れて顔を覗き込んでくる。

　その顔は拗ねた子供のように小さく膨れていて申し訳ないけどかわいく見えてしまった。

「違う、そうじゃないんだ。少しでも馬鹿な選択を取ろうと考えていた事に対して、謝りたかったんだ」

「えっ……？」

　笑顔で言った俺の言葉を聞いてシャーロットさんの瞳が大きく揺れる。

　何も知らないはずなのだけど、天然系に見えて実は結構鋭い彼女の事だ。

　口にしないだけで何か気が付いていたとしてもおかしくはない。

「ごめん、急にこんな事を言ったら驚くよね」

　だけど俺はシャーロットさんが何か気が付いていそうな事には触れず、唐突な事を言ってしまった事に対して再度謝る。

　すると、なぜかシャーロットさんは俺の頬に手を添えてきた。

「………………ごめんなさい、明人君」

「えっ？」

　そして突然謝られた俺は、どうして自分が謝られたのかわからない。

　そんな俺に対し、シャーロットさんは目を見つめてきながらゆっくりと口を開く。

「本当は、明人君がお話ししてくださるまでお待ちしているつもりでしたが……ごめんなさい、我慢できませんでした……。お願いです、もう無理に笑わないでください……」

「――っ！」

　目から涙が流れそうなほどに悲しそうな表情をするシャーロットさんに言われ、俺は思わず息を呑んでしまう。

　彼女が俺に起きた事を知る事はなかったはずだ。

　シャーロットさんが家に帰った後に有紗さんは現れ、有紗さんが帰って俺が意識を失うくらい時間が経ってからシャーロットさんは戻ってきている。

　だから鉢合わせはしていないはずだし、俺が何を言われたかも知らないはずだ。

　もしかして、先程のドタキャンメッセージが影響しているのか？

　彼女はその事について触れてきていないが、いつもの俺がしない事をした事で違和感を覚えさせてしまったのかもしれない。

　だけど、それが無理に笑うという事に繋がるのか？

　それならむしろ、嘘をついてまでドタキャンをしようとした理由を聞いてくるはず。

　となれば、他に理由が――。

「――理由を、探そうとしないでください。あなたが何を隠しているのかまではお尋ねしません。ですが、無理に笑うのはもうよしてください……」

　消え入りそうなほどに小さくか細い声は、不思議と俺の耳にはっきりと聞こえた。

　今彼女がどういう思いを抱いているのかなんて見ていて明らかだった。

　俺は、ちゃんと彼女の前で笑えていなかったのか。

「…………何言ってるんだよ、シャーロットさん。俺は無理になんて笑ってないよ？　かわいい彼女を抱きしめられてるのにどうして無理に笑う事になるんだ？」

　今度はうまく笑おう――そう考えた俺は、出来るだけ明るい声を出した。

　彼女に心配なんてかけられない。

　彼女にはずっと笑っていてほしい。

　そういう思いからの行動だった。

「そう、ですか……。ごめんなさい、勘違いをしてしまいました」

　俺の言葉を聞いたシャーロットさんは少しだけ言い淀んだ後、ニコッとかわいらしい笑みを返してくれた。

　少し強引な気はするが、仕方がない。

　このまま押し切ろう。

「それよりも、折角だからデートに行こうよ。眠気が凄くてさっきはメッセージを送ってしまったけど、シャーロットさんのおかげですっかり目は覚めたからね」

　俺は空気を変えるためにもシャーロットさんにデートを提案する。

　本当はこのまま家でイチャイチャするという手もあるのだけど、家に残っていると俺が色々と思い出して表情を作れなくなるかもしれない。

　だから、外の空気を吸う意味も込めて遊びに行く事を俺は提案した。

「明人君……あまり無理はよろしくないですよ？　睡眠はきちんと取らないとだめなのです」

　シャーロットさんももう先程の事には触れず、冗談交じりに笑顔で返してくれた。

　睡眠を取らないといけないと言いつつもシャーロットさんは俺から離れようとしないので、多分言葉だけで彼女も遊びに行きたいのだろう。

「付き合って二日目だからね、やっぱり彼女と遊びたいよ」

「ふふ、ありがとうございます。ですが、家庭教師のお仕事のほうはよろしいのですか？」

「あぁ、それは予め休みをもらってるから大丈夫だよ」

　シャーロットさんの様子から告白はうまくいく可能性が高いと思っていた俺は、亜紀には悪いけど翌日も休みをもらっていた。

　付き合い始めだからシャーロットさんと離れたくなくなると思っていたからだ。

「そういえば、今日はボーイッシュの恰好なんだね。シャーロットさんは女の子の代表ってくらい女の子らしいのに、不思議とボーイッシュの恰好も似合うから凄いよな」

　普段シャーロットさんが着ている服よりもかなり大きなダボダボとした白のドロップショルダーのトップスに、下は同じく大きめの紺色のハーフパンツ。

　そして頭には黒色の帽子を被っている。

　おしとかやな彼女がチョイスするとは思えない服装――それなのに、不思議と目が奪われるほどに魅力的だ。

　どうやら彼女は昨日買った服を早速着てくれたようだ。

「もう、褒めても何も出ませんよ？」

「いや、本当に似合ってるよ。というか、かわいすぎると思う」

「そ、そうですか……」

　かわいいと褒めると、シャーロットさんは腕の中で恥ずかしそうに身をよじる。

　なんというか本当に彼女といると幸せだ。

　傷ついていた心でさえ彼女といると不思議と癒されている気がする。

　そのおかげか、段々と前向きになれた。

「それじゃあ遊びに行こうか」

「は、はい……！」

　声をかけるとシャーロットさんはとても嬉しそうに頷いた。

　本当に純粋な子でかわいい。

「どこか行きたいところある？」

「明人君とでしたらどこでも嬉しいので、明人君のお好きなところでお願いします」

「そ、そっか、そうなるとどうしようかな――」

　――今日は朝から嫌な事があったけれど、シャーロットさんと話していて気が楽になった俺はかわいい彼女に抱き着かれながら、どこに行こうか頭を悩ませるのだった。