第103話「事態は想像を超えている」
「失望した?」
暗い過去を聞かせただけではなく、恩を仇で返すような人間だと打ち明けた俺に対し彼女が失望してもおかしくない。
だから聞いてみたのだけど、優しい彼女はゆっくりと首を横に振った。
「いいえ、失望なんてしません。優しい明人君でさえそうなってしまうほどに追い詰められていたんだと私は思いますし、あなたがされたことを聞いて余裕がなくなってしまうのも仕方がないと思います」
そう言うシャーロットさんは、俺の頬へと手を伸ばして優しく撫でてくれる。
今傷ついているわけではないが俺を慰めてくれているようだ。
そんな彼女の温かさに包まれ、俺は身を任せたくなってしまう。
しかし――。
――ピンッポーン!
まるで邪魔をするかのようにインタホーンが俺の部屋の中で鳴り響いた。
「もしかして、エマちゃんが帰ってきたのかな?」
この時間にインタホーンを鳴らす人物が他に思い浮かばず、シャーロットさんにそう聞いてみる。
「でもあの子の場合ですと、泣き声が聞こえてくると思うのですが……」
それは泣いてないと聞こえないのでは?
そもそも、ドア越しに聞こえるものなのだろうか?
そんなふうにシャーロットさんの言葉に疑問を抱きながら、俺はインタホーンに出てみる。
すると――。
『おい明人! どうして電話に出ないんだよ!』
そこにいたのは、サッカーの練習着を着た彰だった。
ドア越しに誰がいるのかわかった俺とシャーロットさんは思わず顔を見合わせる。
そしてシャーロットさんは恥ずかしそうに俺の腕に顔を埋めてきた。
おそらく今回の件で彰は俺の家を訪れたのであり、話を短く切り上げるのは不可能だろう。
そうなれば部屋の中に入れないわけにはいかなくなり、シャーロットさんを連れ込んでいることがバレてしまう。
いや、そもそも一緒にいることなんて彰はわかっているだろうな。
「スマホがうるさくてな……」
『そりゃそうだろ! お前、今や日本中で有名人だぞ!?』
いや、彰。
おそらくスマホがうるさい理由はそっちじゃなく、シャーロットさんと付き合ってることだぞ。
俺はそんなツッコミを胸の中でしながら口を開く。
「あぁ、知ってるよ。理玖のせいでSNSで俺の話題が飛び交ってるんだろ?」
これはもうどうしたらいいのかわからないくらいに悩みの種だ。
ましてやシャーロットさんがみんなを煽ったところもあるし、あのキスをされている画像もSNSで拡散されているだろうからな。
しかし――どうやら事態は、俺の想像を遥かに超えていたらしい。
「いや、それだけじゃなくてお前テレビでも取り上げられているからな!?」
「は……?」
俺は一瞬親友が何を言っているのか理解出来ず、またシャーロットさんの顔を見てしまうのだった。