最初の町まで
サスティルがそう言うと同時に一瞬で異世界に転移したのであろう。目の前にはどこまでも青草の平原が広がっていた。
「わしがこの世界に長くいることはあまりよくない。とりあえず生きていくために必要なことはこの紙に書いておいた。少々乱暴な説明ではあるがわしはここでおさらばじゃ。じゃあの。」
「あっ!」
もう少し聞きたいことはあったが話しかける前にサスティルは目の前から消えてしまった。
かくして俺はこの異世界リステに一人ぼっちで残されてしまったのである。
「ここが異世界か・・・、見た感じでは地球と変わらないな。とりあえずサスティルさんが残した紙を見よう。」
サスティルさんの手から落ちた紙を拾ってみるとそこにはいろいろな情報が書かれていた。
簡単にまとめると、
・リステでは日本語が用いられている
・魔法や剣を用いてモンスターと戦う冒険者と呼ばれる職業が存在する
・料理の技術はそれなりに発達している
・農業は魔法によりそれなりに発達している
・“メニュー”を意識することで自分の情報を見ることができる
・「収納」にさらにメモを入れてある。その他のことは自分で見て感じて知見を深めてくれ
そのようなことが書いてあった。
フムフムなるほどとりあえず今できることはメニューを確認してみることか・・・。
「メニュー」そう頭の中でとなえると目の前に半透明の画面のようなものが現れた。
名前:安良田陽太
レベル:10
特技:火魔法、光魔法、料理、収納
チート:農業授業閲覧
これはすごい。情報量は多少少ない気がするがなんとも地球では見られないような不思議なものが見えた。
名前はそのままだ。レベルが10というのはまあそこまで高くはないのだろうが、特技に火魔法と光魔法、収納さらに料理がある。これは後で確認してみよう。チートの項目には農業授業閲覧と書いてある。これは俺が大学で農学部に所属していたからだろ。名前からするに農業関連の授業が受けられるのだろうか?これも後で確認してみよう。
まずは順番的に火魔法と光魔法を確認してみよう。といっても魔法などというものは使ったこともない。使ったこともないのにどうやって使えばいいのか教えてもらってもいない。「火よ出ろ」
何となく呪文っぽいものを唱えてみるがなんともならない。というか周りに人がいないとはいえ恥ずかしい。今は使うことができないのだろうか?
じゃあもう一つ使えそうな「収納」とやらを使ってみよう。
「収納」
そう言うと箱のようなものが出てきた。あれ?これは使えるのか。箱の中を覗くと何やら紙のようなものが入っていた。これがサスティルさんの言っていたメモのことか。
なになに?
拝啓陽太君
「収納」を使ったようじゃな。「収納」には名の通り様々なものを入れたり出したりすることができるのじゃ。容量はレベルに応じて大きくなり、成長すれば時間の経過速度も設定できるようになるのじゃ。
先の手紙に書き忘れたのじゃが「収納」にある程度のお金を入れておいたのじゃ。街にはこのまま道なりに進めばよい。1時間ほどで突くはずじゃ一応最初の町までは目印を用意しているのじゃ。
またなにか言い忘れたことがあれば手紙を陽太君の「収納」に入れておくのじゃ。
敬具
「収納」の中を探すと袋に入った500円玉代のコインが出てきた。金と銀のものだ。これは金貨と銀貨というものだろうか。まあ金貨や銀貨がこの世界でどのくらいの価値があるかは皆目見当がつかないが・・・。
というかこのまま平原にいて日が暮れてしまってはよくないさっそく街に向かって歩こう。
歩き出そうとすると目の前に光のようなものが現れた。光は道に沿って先のほうに続いている。これが最初の町まで続いているのだろう。
歩き始めて気づいたのだが「農業授業閲覧」というのを確認するのを忘れていた。
「農業授業閲覧」
そう言葉にすると目の前にまた画面のようなものが現れた。
基礎
・農業の歴史1
1つしか選べないのだが使うことができた。今は歩いているのでそのまま閉じておいた。どうせ夜になれば暇になるだろうから夜また確認しよう。
少し歩いていると道端の草むらから青くて透明なサッカーボールほどの大きさのものがゆっくりと出てきた。そいつはのそのそと進み道の真ん中あたりにいた。そこら辺にあった棒きれで恐る恐るつついてみると棒きれが吸い込まれてしまった。そのまま中心のあたりまで棒きれは吸い込まれ徐々に溶かされていってしまっているようだった。だがそこまで消化能力は強くないのか減っている量はほんの少しずつだった。
「不思議な生物?だな。地球ではスライムとか呼ばれるやつっぽいな。」
何となく攻撃してみようかとも思ったが生態も強さも分からないのに攻撃するのは危険だと思ったためほおっておいてまた光の方向に歩き始めた。
体感で1時間ほど歩いたろうか道の先に壁のようなものが現れ始めそのまま歩いていると門が見え始めた。おそらくあれがサスティルさんの言っていた最初の町だろうと思い門の前まで歩いて行った。
門は両開きになっており、大きなトラックでも通れそうなくらいには高さと幅があった。今は完全に開いており門番のような人が2人端のほうに立っていた。