安倍晴明の式神に転生して分かった平安京妖怪事情。
なろうラジオ大賞用小説第十四弾。
「お~い晴明~」
「俺の話を聞いてくれ~」
「阿呆。儂のが先じゃ」
「あたしのが先だ」
眼前に広がるは大行列。
しかしそれは人が成したモノではない。
人とは異なる、此の世ならざる存在――妖怪の行列だ。
私が生きてた時代では百鬼夜行と呼ばれてたそれは、騒音の事など考えなしに夜の平安京を練り歩き、最終的に私の主・安倍晴明様の屋敷へと続いていた。
主と言うが夫ではない。
まぁ容姿端麗な晴明様と添い遂げたい気持ちはあるが……残念ながら私は晴明様とは絶対結ばれない存在だ。
式神。
晴明様の術で創られた人型妖怪の一体。
さらに言えば私はそれに転生した……逆行転生者だ。
かつて私は平成生まれの女子だった。
だけどファンタジー系ラノベを買いに行った帰り道、ひったくりに遭って鞄ごと引きずられて電柱に頭ぶつけ……逆行転生。
そして現在、私は、百鬼夜行を構成する多くの妖怪に整理券を配るという地味な仕事を命じられていた。
それもこれも、陰陽師の中で妖怪の言葉が分かるのが晴明様だけだったからだ。
そしてその晴明様に聞いてもらいたい妖怪達の話とは、力のある人間が妖怪達に着せた濡れ衣の事。
晴明様が言うには、そもそもこの平安京で起こる怪異の原因は、妖怪ではなく、幻術で妖怪に化けた人間だという。
そして晴明様の仕事とは、それに怒った妖怪達から怪異の犯人の目撃談を聞き、その犯人を捕まえるというものだ。
除霊ものでよくあるお札とかを使った退魔アクションを期待してたのに、なんで私は行列の整理をしなきゃいけないんだ。悲しすぎる。
もう嫌だ。
こうなったら出てってやる。
みんなの目をこっそり盗み、私はその場から逃げようとした。
だが次の瞬間、
「ゴホゴホッ! ゴホッ!」
突然晴明様が咳き込み、机に突っ伏した。
「晴明様!」
私は反射的にすぐ駆け寄った。
同僚の式神達もすぐに集まる。
「わ、私に構うな……仕事に戻れ」
けど晴明様はそう指示した。
と同時に私は思い出す。
晴明様が、かつて仰っていた事を。
自分は半妖だから、人間と妖怪、それぞれの世界の病気に対する免疫がほとんどない。だけど妖怪を放っておけない。だから自分の補助のため、式神を創ったと。
彼が半妖だという異説は知ってた。
けどそれが原因で病気に弱い事は……今ようやく実感した。
「……晴明様、肩をお貸しします」
そしてこんなに妖怪を思ってくれる優しい方を、私は放っておけなかった。
だから、もう少しだけ……ここにいようと私は思った。
個人的には、恋愛ものにしていいかもだけどロー・ファンタジーにしました。