初夜
冒険者御用達の古宿の小汚いベッドの上に私は居る。
勇者は酷く興奮しており、その血走る瞳から知性は消え失せており、獣臭を漂わせている。
私は半分諦め、半分悲しくなり、そしてどこかの半分で寂しさを覚えていた。
「天上のシミの数を数えている間に終わります故……!!」
私は顔を背け――――
「待って…………あれは……何かしら?」
朽ちた机の上に置かれたテレビの脇に、灰色の魅惑的なボディ。丸みを帯びたフォルムにカラフルなボタン。あれは一体……。
「ん?ああ、あれはスーパーファミコンですよ。先日発売されました」
勇者は、もう待てない様子で私のドレスへと手を掛けようとした。
――――ドガッ!!
会心の一撃!勇者に80ポイントのダメージ!
勇者をやっつけた――――
「あのドラゴン野郎!まさか!?」
私は鎧を砕かれ倒れる勇者に目も暮れず、一目散に宿を飛び出し洞窟へと舞い戻った!
――バァン!!
「!?」
洞窟の扉を蹴破ると、そこにはスーパーファミコンでゲームに興じる包帯グルグルのドラゴンが居た!
「ちょっと!アンタスーパーファミコンの存在を隠してたわね!!私を差し置いて遊ぶつもり!?」
「て言うか死んでないじゃない!!アンタまさか死んだふりしてたの!?スーパーファミコンやるために死んだふりしてたの!?」
次々とまくし立てる私にドラゴンは焦りながら目を白黒させている。その間にもテレビ画面では面白そうなゲーム画面が流れていた。
「まあいいわ!今やってるのは何?」
「え、あ、はい。スーパーぷよぷよです」
「よし!私も一緒にやるわよ!アンタに拒否権は無いわ、いいわね!?」
「……ふふ、吾輩のデスタワーに適うとでも?」
ドラゴンの目の色が戻り落ち着きを取り戻すと共にいつもの口調……
「さあ、やるわよ!とりあえずルールを教えなさい!今日は徹夜よ!」
二人は朝までぷよぷよをぷよぷよした。
「ぷよぷよの初期案では、ぷよは人型だったらしいぞ。でも『同じ色同士じゃないと繋がらない』のはマズいと人種差別的な意味で、ぷよになったそうだ」
「へぇ~。まぁ、何でも良いわ」
暗い洞窟に静かに響くゲーム音
「これで良かったのか?」
「ええ、イケメンが来るまでは……ね。アンタは黙って私の相手をしてればいいのよ」
「ふ、ありがたくそうさせて貰おう」
ドラゴンはテレビ画面から目を離さぬまま返事をした。
その顔はどことなく笑顔であったという………………
―End―
スーパーファミコンで一番遊んだゲームは『極上パロディウス』次に『ロマサガ3』かな……。