サンサーラ・ナーガ
「で? 今日の勇者は?」
ポテチを食べながら欠伸をし、ドラゴンへ頭だけを向けて話し掛けた。例の如くファミコンをしながら……。因みに私は手が汚れないように箸でポテチを食べる派だ。
「2人ほど王様送りにした」
ドラゴンが得意気にニヤリと笑う。
「違うわよ!イケメンかどうかって聞いてるのよ!!」
「…………普通?」
ドラゴンは困った様に首を捻った。
「ならいいわ。もしイケメンが来たらやられたフリでも良いから適当に倒れときなさい」
箸でドラゴンを差すと、私はファミコンへと意識を戻した。
「いや、吾輩も仕事だからそれは…………」
ドラゴンは困った顔をした。
「……で、今日は何をやってるんだ?」
ドラゴンが首をこちらへ向け興味ありそうな感じで話し掛けてきた。
「サンサーラ〇ナーガ。何とも言えないシュールさが売りのRPGよ」
「最初の村出た瞬間から敵は強いわ、ラスダンはノーヒントで無限ループの繰り返しだわで古き良き時代の鬼畜ゲーよ」
「一応ダルマの鎧とか救済措置があるじゃろ?」
「動けなくなるからあまり意味ないじゃ無い。可愛いイラストに騙されて当時の子ども達が何人泣いたことやら……。ラストのスイカ割りゲームはマジで意味が分からなかったわ……」
「大丈夫だ。恐らく当時のプレイヤーの殆どが、あのイベントの意味を理解できないだろうからな」
「個人的には村人を無差別にやっつけてストレスを発散するゲームだと思っているわ」
「……楽しみ方はそれぞれで良いと思うがな」
その時、扉の開く音がした。
「おっと、次の犠牲者が来たか」
ドラゴンが勇者と対峙する。今度の勇者はそこそこイケメンの様な感じがした。
――――チラッ
縛られたフリをしている姫の方を一目見ると、姫は静かに首を振った。
――――ゴオォォォォ!!
ドラゴンの口から放たれた火炎が勇者の身を焦がしていく。勇者は為す術無くその場に倒れてしまった。
ドラゴンが輸送隊を手配すると、様々なモンスターに担がれて、勇者は王様の元へ送り返された……。
「ま、中の上ってところね」
姫はしゅるりと縄を解き、ファミコンを再開する。
「ところで、吾輩を倒した相手が醜男だったらどうするつもりだ?」
ドラゴンの質問に背筋が凍る思いがする……。
「恐ろしい事を言わないで頂戴!どうせ勇者の大半は私と『昨夜はお楽しみでしたね』をする為に頑張ってるのよ!そこに夢も希望も無いわ!ゴリラみたいなのが来たら全力で応援するから死ぬんじゃないわよ!!」
「……何だか不本意だが、お前さんの気持ちも分からん事もない」
ドラゴンはクルリと姿勢を戻すと、いつもの仕事へと戻った……。