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時間男  作者: 芦屋奏多
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楓の香り

 学校という場所は時間を拘束する事に特化した場所だと思っている。

 様々な理由を付け、学校に縛り付ける。それが学校だ。

 僕は窓際の一番後ろの席に座り、授業を受けていた。

 窓の向こうでは楓の葉がはらはらと散っていくのが見えた。

 僕は椅子から腰を上げた。

「おい、古田。授業中だぞ。どこへ行く」

「んー、楓の香りが気になるので外に出てきます。失礼します」

 簡潔に述べると先生は「まったく。牧瀬」と言っているのが聞こえた。でもしょうがないじゃないか。気になるものは気になるのだから。

「多紀!」

 後ろから追ってきたのは美琴だった。僕が授業中に教室から出ていくと、美琴が僕に付いてくる。先生もわかっている事だった。

「多紀。なーんで、無視するかな?」

「美琴だからいいかなと思って」

「質が悪いなぁ」

 美琴はゆっくりと歩幅を合わせてきた。

「多紀は、やっぱり学校楽しくない?」

 僕は廊下を歩きながら腕を組む。廊下には各教室で行われている授業の声と、僕たちの上履きの擦れる音だけが響いていた。

「んー、なんでこんなに自由な時間が無いんだろうとは思うけど、それと楽しいかどうかは別問題だから。んー」

 首を捻っても答えは浮かんでこない。美琴は不意に笑った。

「多紀は学校なんかにいても無駄な時間、って思っちゃうんでしょ? わかるよ。幼馴染だもん」

「だったら……」

「だったら、そんな質問するなよ、とか思った?」

「無駄な時間だ」

 美琴は僕の隣に並び歩く。外は晴天で雲の影もほとんど見えない。こんな日の空気はおいしいのだろう。なぜ、『空気のおいしさ』を授業で教えてくれないのだろう。

「無駄な時間かぁ。私は多紀との時間が無駄だとは思わないよ。でも、それを無駄だって言っちゃうのも、多紀の時間論に反するんじゃないの?」

「時間は全てのものに与えられた消耗品だからね。例えるなら、一生というたった一つだけ与えられた電池のようなものだからね。だったら、それが切れてしまうまで、少しでも有意義に過ごしたいんだよ」

「じゃあ、こうやって私と一緒にいるのも無駄な事?」

 美琴の質問に思考する。

「無駄ではない……。けど、時間は無限じゃない。今は校舎の外の楓の香りが気になるから、そこに行きたい。ただそれだけだ」

「ふーん……。じゃあ、わたしも一緒に行こうっと」

「美琴まで授業を抜ける必要は無いだろう。僕に付き合っていたら時間の無駄になる」

 美琴はため息を一つ吐いて、前を歩き始めた。

「多紀が楓の香りが気になるように、私も多紀の行く場所が気になるの。だから、行こう」

 ふむ、それならば、仕方ない。

 外の楓の香りはどうなのだろう。

 期待を上回る事無く、案外期待外れものなのかもしれない。

 まあ、美琴が一緒ならば、それも良いだろう

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