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鋼鉄少女(アイアン・ガール)大冒険  作者: グレイ(休暇モード)
3/3

3話 少女下山

 周囲は山岳地帯、魔物もさした存在はおらず、軍も滅多に来ない田舎のゼク地方。しかしこのゼク地方は比較的平和的である。


 盗賊もしばしば出没するとはいえ、険しい道のりと強力な物は少ないが、音や匂いに釣られて襲撃に現れる魔物により馬車での移動が困難な為、略奪と言っても旅人から金目の物を奪い取ったり、遭難者に食料を法外な価格で売り付ける位の物である。


 村を襲撃すれば、成否に関わらず、いかに田舎村であろうと本国が重い腰を上げて討伐隊が派遣される。なので盗賊達は村を決して襲撃しないのがゼク地方の盗賊達の暗黙のルールである。


 ……しかし盗賊も所詮は自己中心的な悪党に過ぎない。今まさに、その暗黙ルールを破らんとせん盗賊団が小さな村を山の麓付近で見下ろしていた。



「くっくっく。見える見える。呑気に余裕かましてる奴等がな」



「こちとらいつでも行けますぜお頭」



「まさか討伐隊に怯えて今迄コソコソしてるだけの山賊が突然襲撃しようなんて思わねぇだろうよ」



 こんな辺境な村でも事件があれば本国から解決策として警備隊、討伐隊が派遣される。あくまで治安維持の警備隊ならばともかく、敵性障害を排除する為に本国で厳しい戦闘訓練を受けた討伐隊相手では盗賊側が十人いようと一人倒せるかどうか、それだけの力の差がある。


 その後ろ盾があるからこそあの村の住人は大いに油断している。魔物が出没しようと盗賊が出ようと何とかしてくれるという慢心が……



「今あの村の男共の大半は狩りに出て不在。残りは女子供を人質に取って即排除。後は金品食料略奪して山の中に隠れりゃ山賊様のモンよ‼︎」



「「ウォォォォ‼︎」」



 山賊の親分らしき濃ゆい黒髭を生やした男の言葉に七人の子分は既に作戦は成功したかの様に大盛り上がりしていた。



「いいか? 女は何人か無傷で拐え。万が一って事もある。狩りに出てる男共や討伐隊に絶対見つからねぇとも限らねぇ……まあ、それに“女”だ。女を攫ってやる事と言えばぁ……」



 山賊達が親分の言葉に一同に下衆な笑顔が張り付く。



「よおし、それじゃあーー」



「あーー‼︎ やっぱりいたー‼︎ 人だー‼︎」



 山賊達が一斉に逆落としで村に襲撃に向かおうとした瞬間、女性らしき大声が聞こえて一同が背後を見ると、木々を飛び移りながらこちらへ向かって来る金髪の少女の姿があった。



「何だこの小娘」



「遭難者じゃあないですかい? この身なり」



 少女の身なりは服はボロボロ、身体のあちこちに汚れが見られ、どう見ても旅をしている格好ではない。


 山で遭難してこちらに駆け寄って来た様にしか見えないが、相手が悪い。



「遭難者ねぇ……まあ、助けを求める相手はしっかり定めないとなぁ……ま、んな身なりじゃそんなに気は回らねぇか!」



 ギャハハと高笑いする山賊達に彼女は何やら興奮げに、無警戒に山賊達に近寄る。



「うわー外界の人だ‼︎ 外界の者達ってこんな格好してるの⁉︎ あ、その腰の奴“剣”って奴でしょ⁉︎ こんなのなんだー‼︎」



 そしてここで山賊達は不審に思った。興奮気味で無警戒なのはまだいい。遭難してしばらく経っている様なので興奮するのも安心して警戒心が薄れているのも分かる。



((何でコイツ俺達を物珍しそうに見るんだよ⁉︎))



 しかし何故ここまで珍しい物でも見たかの様な反応されるのかが分からない。


 冒険者にしたら山賊など珍しいのかも知れないが、それならば警戒して掛かる筈である。


 そして何より山賊達の剣をやたら物珍しそうに見ている。別段珍しい訳ではないサーベルだが、何故かやたら初々しい反応でそれを見ている。



「お、おい小娘⁉︎ この俺達が誰だか分かってんのか⁉︎」



「誰って……人じゃないの?」



「……俺達が“霊人種(シルフ)”や“竜人種(ドラグ)”に見えるか?」



「え? シルフ? ドラグ? 何それ?」



「……もういい」



 反応を見る限り、少女は本当に種族の常識すら知らない様に山賊の頭は呆れた様に言うと、懐のサーベルを無造作に引き抜き、少女に突き付けた。



「俺達は山賊だ。痛い目見たくなけりゃ大人しくしろ。俺達に刃向かうとどうなるか分かるよな?」



「へー、これが剣なんだ。結構鋭いのね」



「聞けよ⁉︎」



 山賊の頭の脅迫に屈しないどころか、頭を無視してサーベルの刃をまじまじと見つめる少女に頭は思わず突っ込みを入れる。



「知らないわよ。別に刃向かう気は無いけど刃向かうとどうなるのよ?」



「このクソガキ……!」



「お、お頭!……ま、前⁉︎」



 そんな時、山賊の一人が顔を青ざめさせ、震えながら前を指差す。そこには山賊の頭の約三倍はあろう、巨大な熊を思わせる灰色の魔物が怒り心頭にこちらに向かっていた。



「ビ……ビッグベアーだとぉ⁉︎」



 山賊達はビッグベアーなる魔物を見た途端に慌て始めた。ビッグベアーは獰猛な気性の魔物で、その強靭な肉体で相手を叩きのめす魔物。しかし肉体こそ強靭だが、仲間で群れる事を嫌い、ナワバリに侵入しなければ狩りの時でも無い限り、危害を加える事は少なくDランクの危険度として扱われている。


 そんなビッグベアーが何故気を立たせてこちらに向かって来ているのか……その理由は極めて簡単であり、少女が猛スピードでこちらに来た際、ビッグベアーのナワバリを通っていたからである。


 なのでナワバリに侵入した少女を追いかけてこちらに向かっている訳である。



「まあ、それはさておき聞きたい事があるんだけどさーー」



 少女は背後で荒ぶっているビッグベアーに見向きもせず、何事も無かったかの様に山賊達に話し掛ける。


 ビッグベアーは唸り声と共に、その巨大な右腕を振り下ろし、爪を少女に叩き付けるーー



「うぅるさいッ‼︎」



 少女は突如、その場にいる誰もが目で追えない速度で背後に裏拳を放ち、ビッグベアーの爪に拳を叩きつけた。


 その勝敗は誰の目から見ても明らかな筈……なのだが、その結果は皆の予想を裏切るものであった。


 ビッグベアーの爪は砕かれ、少女の何倍も太い、ビッグベアーの右腕は少女の細い右腕に傷一つ付けられずに裏拳で大きく弾き飛ばされ、大きくよろめく。


 ビッグベアーはよろめいたものの、体勢を立て直して、今度は左腕を大きく振りかぶって爪を振り下ろす。


 それを少女は左腕を上げてガードする。大きな打撃音がするも、少女はやはり無傷……どころか、ビッグベアーが悶絶している間に背を向けたまま後ろへ下がって懐に潜り込み、右手の裏拳を腹に叩き込んだ。



「全く、人が話してる途中だってのに……」



 少女は何事も無かったかの様にそのまま歩き始め、その数秒後に、少女の背後でビッグベアーが倒れ伏した。



「ああ、ゴメンゴメン。で、質問なんだけど……」



「ひ、ひぃぃぃ⁉︎ な、なんだコイツ⁉︎ ビッグベアーを後ろ向いたままぶっ倒しやがったぞ⁉︎」



「あ、あり得ねぇ⁉︎ 竜人種(ドラグ)じゃあるましし魔法か何かか⁉︎」



 先程の一連の出来事に山賊達は大いに慌てふためき、パニックに陥った中、山賊の頭が動揺を隠せないまま喚き散らす。



「な、な、何者だテメェは⁉︎ 単なる遭難者じゃねぇのか⁉︎」



「何者って……あ〜、ゴメンけど今アタシ名前無いからその質問に答えるのムリ。んでこっちの質問だけど近くに人が住んでる所知らない?」



「ひ、人ならすぐ降りた所にいるっちゃいるが……」



 山賊の頭は少女の質問に思わず場所を指差して答えてしまったが、流石にこれから略奪をするつもりだとは言わなかった。そんな事情を全く知らない少女はその言葉にぱあっと笑顔を見せて指を鳴らした。



「やりぃ! って事はやっぱり下界に来たんだ! ありがとうオジサン達‼︎」



 少女は山賊達に礼を言うと、山賊の頭が指差した方向へ向かって走り去って行った。



「…………頭、あの娘、ビッグベアーを放置して俺達がこれから襲う村に行っちゃいましたがどうします?」



「……帰るぞ。今夜は熊鍋だ」



「……へい」



 少女と出会う前の意気揚々とした雰囲気は一変し、全員顔色悪くし、少女が放置したビッグベアーを数人がかりで絞め殺し、全員で引きずって山奥へと帰って行った。


 山賊達の略奪行為をたった一人の名もなき少女が未然に防いだ事など山賊達以外知り得ぬ、ちょっとした出来事であった。

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