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――Recollection1―—そして世界は閉ざされた


 ラノベ作家の父の書斎は、様々なライトノベルであふれていた。

 キャラクターたちが、様々な世界で、仲間や好きな人と、色んな困難を乗り越えていく。

 そんな現実では有り得ない。そんなキラキラしたライトノベルが好きだった。


 父の書いたキャラクターが、僕の目の前で両親を、自分が好きだった必殺技で殺している所を見るまでは。





 少年は虚ろな瞳のまま、炎上する住宅街のなかを小さな手に引っ張られていた。


 「絶対に…つーちゃんだけは絶対に…私が……!!」


 手を引く少女は強い意志を宿した瞳で走り続ける。

 二人が大通りに出ると、誰もが被害が小さい方向へ駆けていた。転んだ老婆は踏まれ、子どもは誰かを探すように彷徨っているが足を止める者などいない。

 ついさきほどまで明るく活気があった世界には、憎悪と怒りが渦巻いていた。

 少女は少年の手を離さないように強く握り直す。


 「大丈夫、つーちゃんは何があっても助ける。私が絶対に守るから!」

 

 少年は生気を失った顔をゆっくりと少女に向ける。

 その直後、背後で甲高い悲鳴があがった。

 反射的に振り返ると、立ち往生していた車一台の上に、まだ高校生くらいに見える何者かが黒い(もや)に覆われながらも立っていた。ソレが持つ漆黒の大剣は、易々と足元の鉄を貫いており、車内の窓には血潮が飛んでいた。


 「ディ……欠陥者ディフェクターだぁあああああああっっ!!」


 誰かが叫んだ声で人々は恐怖から来る絶叫をあげながら出鱈目に逃げ惑う。

 だが、圧倒的な身体能力を持つ欠陥者からただの人間が逃げられるわけもなく、凄惨な紅色は広がっていく。


 「この化け物がぁあああああああっっ!!」

 

 誘導を担当していた警官は、まだ民間人がいるにもかかわらず発砲。半ば錯乱状態のまま放たれた銃弾は、民衆に当たれはすれど一向に目標を捉えはしない。

 そのまま頭が斬り飛んだ警官は地面に倒れ、血しぶきをあげて倒れ伏せた。

 連鎖する断末魔を背後で感じながら、少女もがむしゃらに走り続ける。

 やがて他の叫び声が聞こえなくなったころ、不意に手を引いていた方の肩に、ガクンと強い衝撃が来る。

 思わず転倒してしまった少女がすぐさま後ろを向くと、連れの少年が死体に躓き転倒していた。

 およそ人間のそれではない速さで向かってくる欠陥者に対し、少女は咄嗟に少年の覆うように強く抱きしめ、


 「っぁあっ!?」


 背中に大きな一閃を刻まれた。

 ドロリと少年の顔に生温かい血潮が飛ぶ。

 その瞬間、少年の瞳は焦点が合い、目の前の少女を捉える。

 

 「し、栞!? 」

 

 赤黒い血液は、少女の可愛らしい洋服を瞬く間に穢していく。

 呻き声を上げながらも、少女はなお少年を必死に抱きしめ続けていた。

 黒い影はトドメを刺さんと冷たい表情のまま剣を振りかぶる。

 止めろ止めろ止めて止めて止めてお願い止めろ駄目止めて止めろ……


 「っうううあああああああああああああああああああ!」


 その剣がまさに落ちる寸前、欠陥者の胴体に大きな穴が開く。血塗られた剣は地面に落下し、続けて黒い影も地面に倒れ伏す。数秒して黒い霧が晴れ、欠陥英雄の本来の姿が垣間見えた瞬間、その体は砂となって宙へと溶け舞った。


 「大丈夫!?」


 駆けつけてきた女の子の隣には、未来的な兵装を纏った金髪の少女がホバリングしていた。 

 浮遊するスナイパーライフルの形状の電磁砲は、迫りくる化け物を眩い一撃で貫き、背中よりミサイルが飛び出す様は現代兵器ではない。

 ましてやあれは、人じゃない。

 

 「………ノベ…ルス…?」



 自作品の登場キャラ、創作英雄セーヴァーと、その生みの親にして管理者である作家ライター。欠陥者と唯一同程度の力を有する防衛機関―――対欠陥者(ディフェクター)部隊……ノベルス。

 

 「っ!栞がっ!栞を!栞を助けてください!」


 敵ではないことを悟った少年は、作家の少女に必死に懇願する。

 作家の少女はすぐさま栞の傷をみると、ショルダーバッグから救急テープを取り出し、巻きながら襟についている通信機に連絡をとった。


 「救援班をお願いします!急いで!」

 

 そんな傍らで栞はうつ伏せのままうっすらと瞼を開ける。

 

 「…つ、…つーちゃん…」

 「栞っ!?」

 「動かないで!」

 

 鋭い声に、少年はビクリと伸ばしかけた手を引っ込める。が、栞は涙をこぼしながら柔らかい笑みを作った。


 「良かっ…た……つーちゃんが…生きてて……大丈夫…つーちゃんは…私が…」

 

 それだけ言うと、栞は瞳を閉じて意識を落とした。

 思わず揺すりかけた少年の手を、作家の少女が制止する。

 

 「君も動かさないで、傷が開いちゃうから。」

   

 少年―――紡は全身から力が抜けるようにその場に崩れ落ちた。

 同時に目じりから雫が溢れ出す。嗚咽と共に、それは黒いアスファルトの上に落ち続けていく。

 何もできない。天災の前に、ただただ蹂躙される以外の道を見いだせない。

 人生で最大の無力さに打ちひしがれる中、紡はただその場で、少女の生を祈ることしか出来なかった。

 

 一か月後、日本は被害拡大に伴い、さらなる立ち入り禁止区域拡大を決定。

 長距離弾道ミサイル対策として建設が開始されていた超巨大隔壁アイギスは、残された日本の各地域を閉鎖。

 八年の時が流れた現在も、その隔壁は高く聳え立ち、重く閉ざされていた。

 

 

 


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