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おぼろのことり~怪之徒然拾遺録  作者: ハデス(夏ホラー参加します)
怪の壱「旧校舎に、潜むもの」
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「もう、いやだー」


 べそをかいて、へたりこんでしまう麻衣。

 もうどれだけ歩いただろうか。

 歩いても歩いても、先は真っ暗なまま、どこまでも続く。


「立てよ、佐々木」


 文句を言う正志を、麻衣はにらみ付ける。


「だって、どれだけ歩いても切りないじゃんよー」


「もう……このまま出れないのかな」


 座り込んでしまった他の男子も、泣き言を言い出す。


「そんなー、早く帰りたいよ」


 泣き出す、女子。

 結局、全員その場に立ち止まってしまった。


「正志が悪いんだぞ! 責任、取れよ」


「あ? 冗談じゃねえよ! 苅野だって乗り気だったじゃないか!」


 ぐずりだして、喧嘩まで始める正志達。


「…………」


 ただひとり、亜矢だけは加わらない。

 みんなから少し離れて、真っ暗闇な外を見る。押しつぶされそうな、濃い闇。腕時計を見ると、三十分ぐらいしか時間は過ぎていない。

 けれども、もうそんなものは信用できない。ここは、明らかに異常だった。


(翔太の言う通りにしておけば、よかったな)


 後悔しても、もう遅い。

 もともとは、翔太が馬鹿にされることが我慢ならなかっただけだ。流れのままに、肝試しに参加して……これが、その結果。

 泣きそうになるのを我慢して、やるせない溜息を漏らした――時だった。

 

「え?」

 

 遠くから、誰かの声を聞いた。


「おーい、いるのかー?」


 女の子の声だった。自分達のところへ近付いてくる。

 気のせいか。


「ねえ」


 正志達に呼びかける。気が付かない。


「ねえってば!」

 二度目、強い声で呼びかけると、ようやく亜矢の方を見る。


「何だよ、笹原」


 不機嫌そうに、正志。


「声がしなかった?」


「はあ?」


「……き、気のせいじゃないの?」

 

 お化けのたぐいだとでも思ったのか。怯えるのは、麻衣。


「気のせいじゃないよ」


 しっと、指を立てて聞き耳を立てる亜矢。


「亜矢ちゃん、無事ー!」


 その耳に、飛び込んできたのは――


「翔太!?」


 予想外の、声だった。


「……翔太! 翔太なの!」


 大声で、応える亜矢。


「亜矢ちゃん? 無事なんだね!」


 弾んだその声は、絶対に聞き間違えるわけない。

 顔を見合わせる正志達。

 そうこうするうちに、向こうから懐中電灯で照らされて――

 まぶしさの向こうに、顔を見せたのは――


「翔太!」


 その姿を認めるなり、思わず飛び出す亜矢。


「亜矢ちゃ……うわっと」


 いきなり抱きつかれて、翔太は転びそうになった。

 気を利かせてか、すんででロクスケは翔太の腕から抜け出していた。


「ちょ、ちょっと……」


 我慢が、あふれだしたのだろう。自分より少し背の低い翔太に抱きついて、亜矢は泣きじゃくる。


「……亜矢ちゃん」


 どぎまぎを抑えて、その背中を優しく撫でる翔太。


「ほんとう、無事でよかったよ」


「んで、そろそろいーい?」


 その微笑ましい抱擁に、水を差す言織。


「!」


 翔太と亜矢は、ほとんど同時にばっと離れる。


「まあ、いちゃつくのは後で気が済むまでやってくれよー」


 真っ赤になるふたりを、にやにや笑う。

 それから、置き去りにされつつあった正志達を見回す。


「おーい、皆さん。助けに来てやったぞ」


 その言葉に、みんながざわめき出す。


「……こ、ここから出られるの?」


「よ、よかったー」


 今度は安心して、へたりこんでしまう面々。

 しかし、その中で、ひとりだけ違っていた。


「はん、余計なことしやがって」


 正志が、面白くなさそうに鼻を鳴らした。


「正志君?」


 睨み付けられて、きょとんとする翔太。


「臆病なくせにして、偉そうに、助けに来たつもりかよ?」


「……う」


 翔太は、顔をゆがめる。


「ちょ、」


 亜矢が代わりに文句を言おうとして――

 しかし、

 それよりも、ずっと先に。


「――ねえ、あんた」


 動く影、言織が正志の襟首を締め上げていた。


「何、たわけてんの?」


 低く、押し殺した。

 凍てつく声が、周囲を黙らせる。


「怖いことを知っていて、ここに来たのよ。彼は」



 淡々と、続ける。

 自分よりも小さな少女。それでも、正志は固まってしまう。


「あんたは……どうせ、面白半分でここに来たんでしょ? それを、勇気なんて言わない。ただの無謀な阿呆だ。そんなあんたがね、ただの一言でも、彼を馬鹿にするなんて」

 言葉を切り、突き刺すように。


「――あたしが許さないわよ?」 


「あ……あう」


 正志は真っ青になって、しぼり出す声で何とか謝る。


「……ご、ごめん、なさい」


「よろしい」

 

 にこっと笑顔になって、手を離す言織。

 自由になった正志は、よろけながら後ずさった。 


「おいおい、ガキ相手にすごんでんじゃねーよ」


 翔太の足元から、歩き出ながら、口を挟むロクスケ。


「うわ!」


「ね、猫が……しゃべった?」


 驚くのは、子供達。


「あのなー」


 ロクスケはうんざりしたように、頭を振る。


「おめーら、すでに怖い目あってんだろうが。だったら、猫が喋ったくらいで、がたがたぬかすんじゃねーよ」


 無茶苦茶な理屈ではあったが、この際妙な説得力があった。とりあえず、こくこく頷く面々。


「んじゃ、とっとと帰りますかね」


「……でも、どうやって?」


 言織の言葉に、疑問を挟むのは亜矢。


「どれだけ歩いても、出口がないんです」


「ふーむ」


 言われて、視線をめぐらす言織。


「まあ、簡単なまどわしの術なんだよねえ」


「術、ですか?」


「んー、何て言ったらいいかな」


 がりがり頭を掻きながら、


「まー、簡単に言うとね。君達は、ずっと一定の場所を行ったり来たりしてんのよ」


「そんな、バカな」


 ひとりの男子が、反論する。


「だって、僕達……ずっとまっすぐ歩いてたよ?」


「そうだよ、そうだよ」


 他にも、それに追随する声がいくつか。


「あー、うるさいな」


 言織は、面倒くさそうに手を振った。


「君らが、そのつもりでも、実際まっすぐ進んでねーの。ここは、普通じゃねーの。理屈ともかく、納得しとけよ。話が進まねえから」


「……でも、そうだとしたら。どうすればいいんですか?」


 男子のひとりが訊いてくる。


「やっぱ、当人に頼んでみるか」


 頬をかく、言織。


「あんたらがここで騒いでたことに怒った奴にね。とりあえず、謝ってみよう。まずは平和的に行こう」


 ぴっと、人差し指を立てる。


「力押しは、その後でね」


 そう、付け加えた。

 


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