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おぼろのことり~怪之徒然拾遺録  作者: ハデス(夏ホラー参加します)
怪の壱「旧校舎に、潜むもの」
3/40

 学校近くの小さな公園。

 翔太は、ひとりブランコに座っていた。

 平日の、お昼過ぎ。

 他に人影はない。

 行方不明騒ぎのせいで、学校は臨時休校。本当は家に帰らなければいけないのだけれど、とてもそんな気にはなれなかった。

 うなだれながら、思い出すのは昨晩のことだった。

 

       ◇


 本当に、行きたくなかったのだ。


「正志にバカにされてもいいの?」


 別に、それはしょうがないとも思ったけれど。

 ただ、亜矢がムキになるから、仕方なく付いて行った――

 


「へへ、雰囲気出てるじゃねーの」


「そうねー」


 正志と麻衣はいかにも乗り気。中には、少し震えている者もいたけれど、引き返そうとする声はないようだった。

 ただひとり、翔太だけが――


「ねえ、やっぱりやめようよ」


「おい、びびってんじゃねえよ」


 口を挟んでくる苅野。つられて、何人かが笑い声をあげた。

 亜矢が、不愉快そうに眉をしかめる。


「それじゃ、行こうぜー」


 先頭を切って、足を踏み入れる正志。すぐ後を、麻衣。他の面々も続く。

 最期に、


「ほら、行くわよ」


 亜矢が、翔太の腕をひっつかむ。


「…………」


 翔太は、もう一回旧校舎を見た。

 真っ黒な闇の中、そびえたつそれは、まるで大きな化け物みたいだった。今にも何倍にもふくれあがって、襲いかかってくるみたいで――


「や、やっぱり嫌だよ!」

 

 翔太は、亜矢の手を振りほどいて、逃げ出してしまったのだ。

 


「……ほんと、情けないよ」


 涙声で、つぶやく翔太。


「やっほ」


 そこに、声がかかる。


「え?」


 顔を上げると、同じ年ごろに見える少女――言織が立っていた。


「君、あそこのがっこの人? ちっと、話聞かせてくんないかね」

 

       ◇

 

「ふーん、なるほどねえ」

 

 並んで、ブランコに腰かけて。

 翔太から事情を聞いた言織は、相づちを打った。


「……警察も、先生達も、僕の話を聞いてくれないんだよ」


「そりゃあねえ」


 頭の固い大人達は、そんなものだろう。狭い常識しか見ようとせずに、見えないものは信じない。

 肝試しに行った子供達と、言織から見ればおんなじようなものだった。


「僕、僕は……逃げ出しちゃったんだよ」


 がっくりと頭を下げる翔太。

 自分で自分が情けないよ、と。


「僕は、弱虫なんだ……」


 言織が手渡した缶ジュースにも、手付けずだった。


「まあ、そんなに気に病むなよ」


 言織が、軽く肩を叩いた。翔太は、怪訝そうに見る。


「君がいなかったら、あたしが事情を聞けなかったしね」


 悪いけど、行方不明になった子供達は自業自得だ。


「てかさ、怖いと思ったら近付かないってのも賢明だっつーの」

 

まあ、だからって、見捨てるのも忍びない。

 よいっと、立ち上がった。


「ま、あとは任せといてよ」


「え、お姉ちゃん?」

 

 年頃は同じに見えたが。独特の雰囲気に圧されて、気が付けばそう呼んでいる。


「あたしが、何とかしてあげるよ」

 

 ひょうひょうと、言う言織。翔太は顔色を変えて、立ち上がる。


「そ、そんな! 危ないよ? ……あ、相手は、お化けなんだよ!」


「だいじょーぶだって」


 にやっと、笑う言織。

 その笑顔は、愛らしい顔を裏切って、何とも頼もしい。


「あたしは、そういうの得意だからね」


 それから、ひらひらと手を振ると、言織は歩いていってしまった。

 

       ◇

 

 問題の旧校舎。

 警察らしき姿が、周囲をうろついていた。

 言織達は――少し離れた路地裏から、その光景を観察している。

 厳密に言うと、一行のひとり。少女にも見える少年――一野儀景だった。

 視線上には建物があり、双眼鏡でも見ることは不可能。

 けれども、景は自身の特殊能力――妖術を駆使して、視ているのだった。

 普段は隠している左目。髪を掻きあげ露わになったそれは、拳大ほどの血走った眼球。その不気味さが、彼がヒトでないことを語っている。

 障害物は透過して。彼の視線は、目的物を。その先までも、はっきりと見据えていた。


「どう?」


 景に声をかける言織。


「そうだね」


 と、答える。


「結界が張られているね」


 問題の旧校舎は、確かに異空間へとつながっていた。現在出入りしている大人達には、認識できない、となりの空間。


「入り口は、すぐには見つからない。子供たちがあっさり入れたところを見ると、夜に自然に開くタイプだろうね」


「子供どもは、無事?」


「生命力の反応、かすかに感じる。一晩以上過ぎている割に、それほど疲労は感じない。きっと、向こう側ではそれほど時間は過ぎていないだろうね」


「まあ、すぐさま命の危機があるって感じでもねーか」


 と、言織の頭上でロクスケ。


「出直そうぜ。宵崎も、昼間は調子でねえからな」

 

 迷い家で留守番をしている老人のことを、話題に乗せる。


「夜か」


 言織は空を仰いだ。


「んー、とりあえず戻って一眠りしよう」

 

 夜更かししていて、眠いのだ。

 欠伸をひとつ、帰途に付く。

 作戦開始は、夜が更けてから。 

 まずは一服、態勢を整えよう。

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