表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おぼろのことり~怪之徒然拾遺録  作者: ハデス(夏ホラー参加します)
怪の伍「おどろ少女と、天才の眼鏡」
27/40

 次の日。

 テストの余韻は、残っていた。クラスメイトの、賛辞の声。唯史と理紗に、自分も加わわっている。

 その日も、気分がよかった。

 そのままで、放課後。ひさしぶりのゲーム対戦に馳せ参じる。


「あれ?」


 目当ての少年。今日は、いないようだった。一緒に来た唯史も、周囲を見回してくれてけど――姿はなかった。


「んー」


 残念がっていると、ひとりの少年が声をかけてきた。少し、年下だろうか。


「なー、俺と対戦しよう」


「お、いいよ」


 了承した。早速、席につく。

 裏返したカードを、互いにめくる。書かれたスピードが高いほうが、先攻だ。


「俺の勝ち」


 春人が先攻。

 さあ、ゲームの始まりだ。

 勝負は、順調だった。ポイントの奪い合い。相手のライフを示すカードの山は、だんだんと減っていく。

 このままならば、負けはないだろう。

 少し物足りない相手だったけど、それなりに楽しめた。


(……さて、最後はどうするかな)


 手札を見て、春人は考える。

 手堅く行くか。少し、派手に勝利を決めるか。

 相手の番。


「……え?」


 そこで、春人は目を見開いた。

 前に出したカード。続くカードとの組み合わせで、特別な効果が発揮されることがある。 けれど、運の要素が絡むので、目的のカードを絶体に出せるとは限らない。手札となるカードは、シャッフルされた山の上から引いていく、毎回五枚。その中に、そのカードが出てこなければ無理なのだ。


「ふふ」


 不敵に笑う、対戦相手。


「面しれー、そうこなくちゃな」


 まだまだこっちが有利だ。春人には、余裕があった。

 

 ――けれども、

 

「どうだ! ユニゾン成功」


 もう一回。


「う、嘘だろ?」


 春人は、愕然。

 観客が、どよめく。これでほとんど五分になってしまった。


「俺の勝ちかな?」  


 相手に、余裕ができてきた。勝ち誇った笑顔に、春人は焦る。


「……く、くそ」

 舌打ちをしながら、次の手を考える。


 

 ――その時だった。

 

「はいはい、その勝負待った」


 響く声があった。

 全員が、そちらを向く。春人も対戦の手を止めた。

 いつもの少年と、少女の姿があった。いつの間にか来ていて、自分たちの対戦を見ていたようだ。

 声は、少女のものだった。彼女は鼻を鳴らすと、体を乗り出す。近くにいた子供が道を開けた。


「……な、何だよ?」


 うろたえる、春人の対戦相手。

 少女は構わず、その右手をつかみあげた。


「こんなことして、楽しい?」


 つかんだ腕とは逆の手で――少年の袖口から、カードを引っ張り出す。


「――あ」


 顔が青くなった。

 ズルをしていたのだ。狙ったタイミングで、思い通りのカードを出せるように。

 観客の子供たちが、騒ぎ出す。非難の嵐だ。

 泣きそうになる、その少年。春人も何かを言いかけて――

 


「――はいはい、これで終わりね」

 

 決して大きくはなかったけれど、よく通る少女の声で、誰もが黙った。騒ぎを聞きつけて駆けてきた店員も、向こう側で立ち止まっている。

 


「まあ、勝ちたいのはしょうがないよ。あたしだって、ボロクソに勝てねーもん」


 彼女の弱さは、割と有名になっている。けれど、誰もそれを突っ込めなかった。この場所でカードゲームが弱い少女に、子供達は、押し黙っている。


「だけど、ずるはいかんよ。それは、楽しくないもん。ゲームは、楽しむものでしょ」


 対戦相手の少年の頭に手を置いて――


「ね?」


 少女は、にかりと笑って見せた。


「……う、うん」

 

 少年は、きっと違った意味で泣きそうになって、大きく頷く。


「じゃ、この勝負はお流れだね」


「うん」


 少年はもう一度頷いて、立ち上がる。

 そして、


「ごめんね」


 春人に頭を下げてきた。


「……あ、ああ」


 その素直さに、口ごもる。


「みんなも、ごめんなさい」


 周りの子供達にも、謝った。誰も、それ以上は言わなかった。


「はい、よくできました」


 少女は、少年の頭から手を離す。


「じゃ、あたしと対戦しようよ」


「うん!」


 少年は満面の笑顔で、元気よく答えた。

 その姿を、見送る。

 代わりに、いつもの少年が近付いてきた。


「対戦する?」


「え?」


 一瞬、どうしてか口ごもる。

 春人は、なぜか迷った。


「うー、ああ、うん」


 とりあえず、申し出を受ける。

 互いにデッキを広げて、勝負開始。

 いつもだったら、心躍るはずなのに――気もそぞろだった。

 当然のように、負ける。

 悔しく、も――なかった。そうとさえ、思えなかった。

 気持ちがどこかに行ってしまって、迷子になっている。


「……今日は、もういいや」


 尻切れに、対戦は終わる。


「春人?」


 別の相手と対戦中だった唯史が、声をかけてくる。


「わりい、先に帰るわ」


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ