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おぼろのことり~怪之徒然拾遺録  作者: ハデス(夏ホラー参加します)
怪の弐「命欠けない、カードゲーム」
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「おい、翔太」


 正志が、となりの翔太をつつく。ちょうど対戦がひと段落したタイミング。翔太は正志の視線の先を追って、言わんとすることを悟った。


「誠治君」


 翔太の顔色も複雑そうだった。


「どうかしたの?」


 景が勘付いて、声をかける。


「みゅ?」


 言織も意識を向けた。


「やあ、久しぶりだね」


 誠治が、こちらに近付いてきた。

 周囲が遠巻きになる。

 何だろう、この微妙な空気は。

 言織と景は、顔を見合わせた。


「珍しいね。君がここに来るなんて」


「まあね」


 友好的な翔太に、誠治はどこか冷ややかだ。


「折角だし、対戦しようよ」


「まあ、いいよ」 


 その誘いに、一応は応じる誠治。正志が席を立って、譲る。


「知り合い?」


 近くに移動してきて立つ正志に、言織は訊く。


「まあね」


 彼は心なしか、小声で答えた。


「少し前までは、結構ここに来てたんだけどな」


「ふーん」


 言織のとなりで、景は顔色を変える。


『スリー・ファイブでいいよ』


 翔太にそう言う誠治の言葉を聞いたからだ。


「スリー・ファイブ?」


 小首を傾げる言織に、説明する景。


「普通はデッキ五と五で戦うだろ? それを三対五で戦うってこと」


「それって、どのくらいのハンデなん?」


「僕が、言織相手に負けるかもしれないくらい」


「そこはかとなく、馬鹿にしてないか?」


「あからさまに、馬鹿にしている」


 景の毒舌に、言織はむうっとしかめ面になる。

 翔太と誠治の試合を見守る。

 戦力差などものともせず、一方的に試合は進んでいった。

 誠治の手札に、容赦はない。一方的な展開だった。正志や、ちらほら集まっていた他の子供達も顔をしかめる。


「どうなのさ?」


 景に小声で尋ねる言織。


「ひどいね」


 苦虫をつぶしたように、景が言った。


「これは、ゲームじゃない。ただの作業だよ」


 勝利と言う結果に向けて、手札を遂行していくだけ。

 そこに、盛り上がりもわくわく感もありはしなかった。


「はい、終わり」


「あはは、負けちゃったよ」


 つまらなそうな誠治の言葉に、翔太は乾いた笑いを浮かべる。


「弱いよ。話にならない」


 突き放すように、誠治は言った。


「そういう言い方はないだろ?」


 翔太の代わりに、正志が身を乗り出した。


「強くなったのは確かだけどよ。おまえ、性格悪くなったよな」


 憤慨する。


「言い過ぎだ」


「弱いから、弱いって言っただけだよ」


 誠治は平然としている。頭一つは高い正志を前に、臆した素振りもない。


「と言うか、久保田君。杉本とそんなに仲良かったっけ? 君こそ、彼を馬鹿にしていたと思うけれど」


「色々あったんだよ」


 正志は眉をそびやかす。さすがに、詳しいことを言うわけもいかない。


「それよりも、翔太に謝れよな」


「正志君、僕は気にしてないよ」


 なだめる翔太。


「実際、僕がてんで弱いのは確かなんだし」


「だろう?」


 小馬鹿にしたように笑う誠治。

 その様子に、言織が唇を尖らせた。


「こいつ、むかつくわね」


「そこの君、文句でもあるの? だったら、これで主張してみせなよ」


 カードデッキをこれ見よがしに、見せつける。

 悔しいが、言織の実力では主張できない。

 こうなったら――


「景、やっちまえよ」


「ふうん?」


 言織の言葉に、誠治は景に視線を向けた。


「君が、僕の相手をしてくれるのかい?」


 その挑発に、


「……気が進まないな」


 景は気乗りしないようだった。


「景?」


 怪訝そうな言織。

 誠治は勝ち誇ったように、


「まあ、負けるのがわかりきっているんだからね」


 言葉を重ねてくる前に、言織と正志はますます不愉快そうな表情になった。


「さっきのゲームを見ていたんだけどさ」


 冷静な口調で、景は言った。


「君は、ちっとも楽しそうじゃなかったよ」


「……何だって?」


「これは、ゲームだよね。ゲームってさ、楽しむものじゃないの? お互いにさ」


「負ける言い訳かい?」


「まあ、勝つに越したことはないけどね。君、勝利にこだわりすぎてない? 勝負でしょ? 勝ちも負けもある。その過程を、結果を楽しむのが、ゲーム」


 そこで言葉を切り、ため息をついてみせた。


「正直、君と戦っても楽しめそうもない。たとえ僕が勝っても、虚しいだけな気がするよ」


「随分と自信家みたいだね?」


 誠治の顔色が、変わる。


「君と同じくらいには」

 

 景の言葉は、明らかな挑発だった。正志と翔太は顔を見合わせる。どこか居心地の悪い空気は、周囲に広がっていた。


「空気を悪くしちゃったね」


 すまない、と詫びて。

 景は立ち上がる。


「言うだけ言って、逃げる気かよ」


 誠治が、肩をつかもうと手を伸ばす。景はそれをするりとかわして、


「仕切りなおそう」


 向き直って、口を開いた。


「明日の夕方は都合がつく? 僕の家で、戦おうじゃないか」


      ◇


「あれって、やっぱりさあ


 帰り道、言織が訊いてくる。


「言織も、気が付いた?」


 景の声音は、少しだけこわばっていた。


「もしかしてと思ったんだけどね」


「まあ、微弱な妖気だったからね。佐々木君、だったけ。彼――憑かれているよ」


 ――はぐれ、にね。


 はぐれ。

 隠れ里より、人間界に飛び出してしまった妖怪。その中には、本来の姿を見失い、特定の人間に憑りついてしまうことがある。

 それが、はぐれ憑き。

 言織達の責務は、はぐれとなった仲間の保護だ。


「昔の馴染みだよ」


「どんな奴?」


「悪い奴じゃないけどね。今の状況は、好ましくない」


 対象者の精神と絡み合ってしまい、両者に悪影響の、そんな悪循環を繰り返してしまう。


「僕が、何とかするよ」


「珍しく、強気じゃん」


「まあね」


 一行の中で、あまり行動的ではないのが彼だった。元々、後衛担当。前線は、言織とロクスケの役目だ。


「ただ、今回のケースは僕向きだと思うよ」


「どうすんの?」


 言織の問い掛けに、


「簡単さ。『G・D』で勝てばいい」


 景は、自信ありげに薄く笑って見せた。


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