花火なあの人
夜空に輝いた、打ち上げ花火。綺麗に咲いて、煙を残して消えうせた。
街の隅。山の上にひっそりと佇む神社には、冷たい風が吹き付けていた。
ぽつん、と。呟いてみたその言葉は。心の底から飛び出した、私の本音。
「もし、生まれ変われるのなら……」
私は、花火になりたい。
見るモノの心を一瞬にして奪う、花火。
大きな花を咲かせるために生まれてきて、音と共に咲き。潔く散り、消えてゆく。
……それは、一瞬のことだけれど。
目に焼き付けられるその光は、どんなものよりも強く、そして美しく儚い。
『あなたは月。私は花火。そうでしょう…?
私とあなたは違うけれど、おバカな所は似てるのね』
あの人の言葉がふと脳裏をかすめた。
『……それ、どういう意味よ』
『バカでしょう。つれない彼に、恋をして……』
ヒュルルルル……ドーンッ
花火を見ながら思う。
確かに、あの大輪はあの人だと。
「あれぐらい、きれいに咲けたら……」
もしも、それができたなら、どんなにいいだろう。
願うことなら……一瞬でもいい。
あなたの目に、綺麗に映りたい。ただ、それだけ。
その時、視界の隅にぼんやりと光るものを見つけた。
あぁ、あれは……明月だ。清く澄んだ月。
花火よりは強くないけれど、たしかに光っている。
「綺麗ね」
うん、綺麗だ。
私は……、明月になれればいいと思う。
『綺麗でしょう?』
そう、胸を張って言いたい。自分を、誇りたい。
……無理なんだって事、わかってる。
私はただの月。そう例えるなら昼の月。
ちっぽけな、滅多に目を留めてもらえない……そんな、月。
ホンモノの月のような綺麗さは持ち合わせていやしない。
そう、例えるならば、月の本性だ。
ただの石の……岩の固まり。
クレーターでボコボコな、とても綺麗なんて言えない。
「だって……ねぇ」
月ってそういうものじゃない?
太陽に照らしてもらって、自分が光っているかのように見せているだけの。虎の威を借る狐のようで。
「所詮、ただの岩じゃない」
地面へ吐き捨てるかのようにして吐き出した本音。
『情けねぇな。お前は輝けるだろ?』
ふと、彼の声が聞こえたような気がした。
涙が頬を伝う。
あぁ、もう……太陽のバカ。
叶わないこの思いをずっと抱き続けるしかないのなら。
愛されたという思い出だけで生きていくならば。
もう、この世界から消えてしまったキミを思い続ける事しかできないのなら……。
それならば、いっそ。
「この世界から……」
消えてしまおう。その方が、楽だ。独りは寂しい。
「私も、最期ぐらいは花火みたいになれるかな」
ここから数歩踏み出せば、落ちることができる。下は木が生い茂っている。串刺しになるかもしれない。
……助かるはずはないし、助かる気もない。
「……那月っ!」
声が、聞こえた。
「こう、せい?」
振り返ると、幼馴染みの男の子がそこにいた。
「何してんだよ。……お前、」
「死ぬの」
息を飲む音が聞こえた。
「何で……」
「光るように見せることすら止めた月は、ただの石ころになったの。考えるのは疲れたから、努力はしたくない。
もう、ただの石ころの私には、生きる価値なんて残ってない!」
「……太陽が、死んだからか?」
太陽。私が愛した、光。
「……そう。月は、太陽が居ないと光れないもの」
私が自嘲すると、俯いた光星は少しだけ、考えたような表情を見せた。
「俺は、太陽にはなれないし、なろうとも思わない。
でも、おまえが望む限り……望まないとしても、側に居続けたいと思う。
……それじゃあ、ダメか?」
光星の名に恥じぬ、小さな星の様な光。太陽には勝てない光でも、私には眩しい。
ぎゅ、と抱き締められて、涙がこぼれた。
「……ありがとう」
声は、風の中に消えていった。光星の匂いで、不思議と満ち足りていくようだった。
また、私は生きられる。
この光に支えられて。
次は花かな?
予定は未定。