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Himmel Vogel  作者: フラップ
Kippen
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緊急発進

 読んでいた本をデスクに伏せる。どうせ一回か二回で飽きる。


 アラートに向けて早く寝る。毛布の中に潜り込んだ。壁に手を伸ばし、電気を消した。


 スイッチオフ


  * * * *


 ハンガーの中のプレハブで本を読む。煙草は吸わない。ホットの時に火を消さなければいけないからだ。煙草が体に悪いことは知っている。だが癌で死ぬ自分が想像出来なかった。撃ち墜とされて死ぬほうが良い。家族はいない。従兄がいた気もする。遺産も生命保険もないからどうでもいいが。


 篠滝(しのたき) 翠覇(みずは)はもう来ていた。昨日とは違って優秀な後輩だ。昨日は特殊訓練だったので組まされた。


「天候はB、視界はA、2時の風だ。リリースは取らない。海の上だ。質問は?」


 コイツももう聞いているだろうが確認を取る。


 口数が少ない。腕はいいが嫌われている。遼機にしたく無いと同僚はよくいう。


 声を出す代わりにうなずいた。喉が悪いのかと不安になるが気にしない。


「増槽は一本だ」


「はい」


 視線を本に戻した。


 ソファに座る。部屋の中でいうとシノタキの対角線上だ。お互いのプライバシーを尊重しているのかもしれない。


 今日は戦闘があるとしても海の上なので下からの攻撃は無い。地上からの対空射撃は本当に嫌なものだ。あらかじめこちらの進路を予測して打ち上げてくるのだ。特に低空飛行時は酷い。


 腰を下ろして頭までソファについた瞬間、警報がなった。


 二人とも無言で動き出す。走りこそしていないが素早い。機体へ走る。ここで全力の半分ほどで走るのがコツだ。主翼への梯子に足を掛けて主翼の上へ跳ね上がる。主翼の上や先尾翼に工具などが落ちていないことを確認する。前縁に足を掛けてはいけない。薄いジェラルミン板ではへこませてしまうのだ。物持ちの悪いパイロットの機体は酷い所と新品の所の継ぎ接ぎになっている。


 二人とも物持ちはいいほうだ。僕はいつもポンコツに乗っていると同僚にからかわれている。製造されてから三年もたっていない機体はポンコツとは言わない。彼はマーク0、4が実戦配備型の3に比べて型が古い、といいたいのだろう。しかしこの機体は試験製造で一機一年半もの製造時間を掛けて数十人の開発チームが作っている。設計図を渡された工場工がながれ作業でやっているのはわけが違う。一つ一つのカーブ、直線、ボルトからコックピットまで設計段階から携わった人間が作るものと設計図だけ渡された人間が作るものでどちらが優れているかは一目瞭然だ。


「後方!」


 旗が上がるのを確認


 シノタキはコックピットにもぐりこんだ。


 スタータが装着されているのでパイロットが点火できる。後方確認は既にした……


「点火!」


 揺れる。シノタキは?後方確認だ。キリタは機体の側面、シノタキの反対側に入った。


「開放」


 キリタが叫ぶ。シノタキのエンジンが始動する。シノタキのエンジンが安全回転数に達する前に、キリタが車輪止めを外す一瞬前に、僕の手はスロットルを少し押し上げる。


 誘導路に出る。一瞬視界が真っ白になる。ミラーでシノタキがチョークを外されたのを確認。これぐらいの思いやりはある。冷徹な新聞記者にはそれが分からない。分かられるつもりも無い。


 許可はもう出た。滑走路に滑り込む。シノタキはもう間隔を維持している。えらい。


「離陸」


 無線に向かって言う。酸素マスクを今つけた。戦闘時に酸素濃度をあげるが今は20パーセントだ。


 そしてそのままスロットルを押し上げ、


 僕は空を舞う。




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