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Himmel Vogel  作者: フラップ
Kippen
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バイク

 ホットドッグを適当に口に運ぶ。ビールを飲む。あんまり酔うのは嫌いだ。頭が痛くなる。何も考えたくなくなり、何か考えてしまう。傾いてもいないのに体が傾いている気がする。明かりはいっそう明るく見え、暗闇はいっそう暗く見える。


 炭酸が舌で弾ける。ポップの苦みを感じる。


 ホットドッグは食べきった。ビールは残っている。この店で気に入らないのは一々ものが大きいことだ。もしかしたら自分はもっと大人しい奴なのかもしれない。飛行機乗りよりはずっと。


 一度だけ酔った状態で飛行機に乗ったことがある。あれは酷かった。全部戻したのを覚えている。卵も食べない。思うにあれは普段食べることのできる中で最も吐き戻しやすい食べ物だ。


 他人が操縦する飛行機にも乗りたくない。自分の飛行と異なっているのがどうにもなく気持ち悪いのである。自分の体が操り人形のように動かされたら誰だって気持ち悪いだろう。


 ある程度飛んでいたら慣れてくるというものだ。はじめに小型機特有の揺れに驚いたことが懐かしい。たまに知らない人は翼が揚力を失ったのではないかと不安になる。ヘリコプタよりはマシだが。


 もう全部食べきった。食事は早いほうだ。人と話しながら食べない。他人が近くにいるだけで気持ち悪いのだ。話すのは嫌だし、話しながら食べるなんて持っての他だ。気色悪い。


 このまま帰るか、町を探索していくか。こういうときに町へ行くことは無い。いったところで何があるかは高が知れているし、行く必要もないからだ。


 代金を払って例の扉を開ける。音はなれない。曇りぎりぎりの晴れ。太陽は半分雲に隠れている。風はない。スモーク・アートが長時間残ってそうだ。煙草を吸おうか、と考えたけどやめた。どうせすぐバイクに乗る。


 バイクにまたがってエンジンを掛ける。脇目に車が来ないことを確認して道路に出る。


 スピードを感じたいのならバイクが一番だろう。飛行機はあまり感じない。比較対象が無いからだ。超低空飛行時ぐらいだろう、感じるのは。もちろん、これは僕が乗ってきた中での話であって、確証も証拠も無い。


 一応左側を走る。殆どすれ違ったことはないし、すれ違う時も見えてから寄るだけでも十分だけど、なんとなく寄っている。とんでもなく無駄で、意味の無い行為なのだろうが、特に何かを失うわけでもない。パトロールに似ている。何も無いことを確認しに行くのだ。


 一週間でどれぐらい飛ぶか。多い時は毎日飛ぶが、少ない時は一回ぐらいだ。もちろん、これは今まで経験した中であって、同じように確証も証拠も無い。


 道路を走っていく。たまにあるマンホール。ひび割れは無視できるレベルだ。雑草で外側が侵食されている。森に入る。アクセルは全開だ。元々早いバイクではない。唯、今横にそれて木にぶつかったら死ぬぐらいの速度はある。いっそこのまま死んでしまおうか、と考える。毎回このあたりでそういうことを考える。飛び続けるより死んだほうが楽だろうか。否。間違いなく楽だろう。このずっと先の海の向こうには僕の死を待ち望んでいる奴らが沢山いるだろう。僕だってそうかもしれない。


 でも、死んだらもう飛べないだろう。死んだら空で舞えないだろう。それだけが、有一の心残りだ。だからこうして生きている。もし、飛べるのなら死んでもいいだろうか。答えはここには無い。死んでから検証するすべは無いだろう。死後の国があるなんて考えたことも無い。そんな薄気味悪いものはきっと死に掛けた奴の妄言だろう。そんな流氷に乗ったホッキョクグマみたいなことは考えたくない。つまり、無意味。


 ずっと向こうにちっぽけな管制塔が見えてきた。管制する時も殆ど飛行機のほうを見ていない。許可を申請されたら許可する。ほぼそれだけだ。唯滑走路に進入する前に許可を申請し、離陸したら離陸したことを伝える。離陸と着陸が重なった時は大抵着陸が優先だ。離陸が始まっていたら着陸を伸ばす。でも大抵離陸と着陸は向かい風でするので、理論上一つの滑走路で離陸と着陸を同時にできる。安全策だ。


 ゲートに入る時に財布のカードを見せる。外側にポリエチレン・テレフタラートのカードケースが付いている。


 バイクを駐車場に入れ、鍵を掛ける。宿舎のドアをあけて入る。ここら辺はもう体が勝手に動いている、という感じだ。ドアを開けて入る。鍵はいつもしていない。そもそもする必要が無い。盗まれて困るものはないし、盗む奴もいないし、財布はもって行く。


 煙草を出して咥える。マッチ箱をスライドさせて一本出す。慣性の法則だ。火をつけ、リンが燃えきったことを確認して煙草につける。マッチを折って火を消す。灰皿にマッチを入れた。


 物置と化しているデスクに置いてある本をとる。日差しが鬱陶しい。カーテンを閉めた。

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