着陸
高空のレーダー網ぎりぎりで待機していた遼機が降りてきた。やや後ろに着いて脇に出た。センスはあるが如何せん経験が少ない。実戦に出たら逃げに徹しない限り墜とされるだろう。大抵こういう奴ばかりが、やけに自信を持って突っ込んで死んでいく。
この編隊で着陸するには少々間隔が広すぎる。
操縦桿を左右に細かく二回動かす。これで「20メートルに着け」という意味だ。相手が近づいたのを確認してスロットルを下げ降下旋回する。ここで着陸する際緩い一回の旋回で着陸直線に乗るパイロットと二回の旋回で入るパイロットが居る。どちらかというと一回のほうが難しいがやればできないことは無い。
遼機が一呼吸遅らせて旋回を始めることで編隊を維持している。一呼吸、というのは具体的に言うと隊長機と遼機の距離の半分だ。そうすれば遼機との距離を維持できる。これは180度旋回の場合で90度旋回の場合はまた変わる。なのでこういう着陸やパトロール時の離陸のように決まった離陸時や着陸時でしかできない。
スロットルを落とす。フラップを下げる。さらにスロットルを下げる。フラップを限界まで下げる。
エンジン・アイドル。
滑走路の手前に浅い角度で突っ込むようにする。
速度計を確認、緩やかに反時計回りに回っている。
遼機は後ろ。ここではわざと着陸のタイミングをずらす。飛行機とは着陸寸前が一番危うい。空力学的にぎりぎり、つまり溺れ掛けながら飛んでいるのだ。ここで突風が吹いたら、同時着陸の場合風にあおられた隊長機に遼機が激突しかねない。タイミングをずらせば20メートルあれば遼機は着陸復航出来る。隊長機が減速して遼機に激突するまで20メートルと高低差があれば復航できると研究結果がでたからだ。
高度計が15メートルを切った所で引き起こす。10メートルで機首が水平を向いた。5メートルで機首を上げきる。ここら辺はパイロットによって異なるだろう。腹……というより背骨に衝撃が走った。ブレーキをやや軽めに踏んで感触を確かめる。ややいつもより利きがいい。一気に踏んだら横転する。主脚にしかブレーキがついていないので機首が沈み込む。少しずつラダーペダルの上部を踏み込む。これがブレーキ。
どろどろとした感触が響く。いやな感じだ。
エプロンにタキシングしていく。
横にスクラップにされた飛行機が整然と並んでいる。一応、整備したら使えるが制空権を確保したところで攻撃機にしか使えそうに無い。ウェーブに敵うことは無いだろう。護衛高速戦闘機紅輝だったら戦えるだろう。もちろん、高速といってももう高速ではないが。
滑走路のこっち側が戦闘機・攻撃機で向こう側が輸送機・哨戒機・爆撃機・偵察機だ。
しかし爆撃機といっても二機をここに分散配置という名の置き場にしているし輸送機も民間機改造の10人乗りが2機、4人乗りが3機、哨戒機は3機だ。偵察機にいたっては談話室から見える2機しか居ない。向こうには向こうの宿舎があるので顔はあわせない。
線に従ってエプロンの端を移動する。ラダーは曲がる1,5秒前に踏み込む。ハンガーの前につける。エプロンに出したままにすることは少ない。ハンガーに入れて整備するのが普通だし、入れっぱなしにした方が始動も早い。ハンガー内でエンジンは掛けてはいけないのだが戦争でそれが消し飛んだ。工具箱が紐で床に固定されているという笑えない状況になっている。ハンガーの後ろのシャッタはモーターで開くようになっている。だがアラートではない機体が出るということは計画されているか時間に余裕がある(アラート機が既に出ていて交戦中)なので使う機会があるのか疑問だ。使う時がくるとしたらそれは大編隊がきたということだろう。その時は覚悟をしといたほうがいいかもしれない。
停止線の一メートル手前で思い切り踏み込む。寮機が止まった。位置関係上、こっちのほうが後に止まる。一機一つのハンガーが割り当てられている。三機入るが理由は前述べた通りだ。右サイドパネルのキャノピー・スイッチを上げる。酸素マスクを外してヘルメット・バイザーを跳ね上げた。病院のマスクの数倍丈夫な灰色のマスクだ。ハンマーで叩いたってへこむだけかもしれない。バイザーは跳ね上げる方式だ。前はサングラスのように取り外していたが今は跳ね上げている。
司令塔の下が指揮官室だ。指揮官に報告をしてその指揮官が指令官に報告書を提出し、その報告書が指令官の元に纏められるという意味不明なシステムになっている。
報告といっても訓練を遂行、トラブル無し、作戦成功というだけだ。相手が社交辞令を切り出す前にさっさと言ってしまうのがコツだ。指揮官は飛ばない人間だ。
大抵知らない奴が上に居る。何だってそうだろう。




