表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Himmel Vogel  作者: フラップ
Sideslip
19/56

傷跡

 新型戦闘機。


 珍しい話ではない。むしろ良くあることだといえる。ただ、プッシャだ。これは珍しい。戦闘機は全面的にプッシャに移っている。この方が効率が良いからだ。


 プッシャのほうが効率がいい。これはある意味当たり前だといえる。


 あれはすごかった。乗り手が上手いだけではない。あの峡谷を飛べるのは今のところ僕しかいない。シノタキでさえ飛べない。それを、初見で。


 間違いない。


 僕は断言した。


 あいつは、強い。


 でも、判断を間違えた、と思う。


 あの時、低空戦ではなく、高空戦に持ち込まれれば、……危なかったとは思う。否、死んでいた。ストール系の技であれば、トラクタのほうが切れがいい。切れと言っても、コンマ五秒も無いだろう。でも、殺るのには間違いなく十分な時。


 何故低空戦に持ち込んだか。恐らく、前に乗っていた機体だろう。タラマニアは大陸国家。ミカゴタラは海洋国家。エンジンは空冷から水冷に変わっている。ミカゴタラは空冷エンジンを使用している。タフで空母や島での使用に適している。空気抵抗は大きいが一発の被弾で止まったりはしない。水冷だとこうはいかない。機体ごと爆発だろう。


 話を戻すと、そいつは空冷に乗っていたと考えられる。ピスト乗り?いや、ピストは素直な分、ああいう即応性は低い。でも、あの飛び方には見覚えがある。空母乗り、それも……ミカゴタラの。亡命者か?あの独特の軽さは間違いなくミカゴタラのパイロットのもの。でも、その中でも僕は全くと言って良いほど同じ飛び方をしている奴を知っている。


 …………シーナ…………。


 ある一人の少女を思い出す。栗色の髪だった。腕はあまりよくなかったが……何よりも、飛ぶ方向が60度違った。その60度は貴重といえる。ひらりはらりと飛ぶ。普通のパイロットが風に抗って飛ぶとしたら彼女は風に流されている。あの谷に入ったのは確かに……狙いにくかった。風が隙間なく流れていた。確かにあれがあいつだったら、狙いにくかったのもうなずける。風を撃つ様な物だ。


 あの軍事演習は酷かった。ある意味ミカゴタラがプロネットに「逆らったらこうなるぞ」と言おうとしたような物だ。戦闘機部門では僕が叩きのめしてやったが。


 五機以上はいてもいなくても同じだといえる。そんな気がするほどあの空戦は酷かった。最後の奴が狙われるという言葉を思い出す。最後の一機になってしまった僕はそれこそ狼に狙われた羊みたいだった。同僚に言わせると逆だそうだが……。


 ハンガーに入った。コードをまたぐ。このコードは静電気を防ぐために付けられるコードだ。静電気で燃料に引火して爆発なんて洒落にならない。実際にあったのだからもっと笑えない。


 機体に触れた。冷たい。人間もこのくらいの温度だったら暑苦しくないのにと思う。それじゃゾンビか。


 この機体には三つパッチを当ててある。一つ一つ確かめる。一つは機首、二つ目が主翼、三つ目が機首、あの時付けられた傷だ。


 思い出すと長いが思い出した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ