夕日のシルエット
ブレイクではかわしきれない。即応性で言えばプロペラ後流を舵に当てられるトラクタに分がある。
終わりか……?
そうと分かってもラダーとエルロンを倒す。ラダーが傾いている鳳流はラダーにもエルロンの効果がある。
直後、後ろのピストが爆散する。
「……ぇ゛……?」
Gで声が出ない……。
急旋回の途中、動かない首を無理やりに動かして僕は見た。
陽光に照らされ浮かび上がるなだらかなフィレットを。
逆ガルの上品な反りのシルエットを。
優雅で鋭利な美しい軌跡を。
そして……機体に浮かんだ三角形のマーキングを。
それは……太陽を背に浮かび上がるシノタキ機のシルエットだった。
『あなたの二番機は……』
シノタキの低めの声が無線を通して入る。
落ち着いているような、興奮しているような。
興奮しているのは僕かもしれない。
『……この、私』
彼女にしては長い台詞かもしれない。
夕暮れの紅い太陽の中に見た。
基地の少し手前だ。
血のように紅い光。
シノタキは笑っているかもしれない。
僕も笑っている。
空なら笑ってられる。
さあ。
舞い上がれ、
舞い上がれ、
舞い上がれ、
舞い上がれ、
散れ。
木の葉のように翻り。
光のように駆け上がり。
紙くずのように舞い散って。
僕は空を舞う。
敵の懐に飛び込め!
翻れ!
駆け上がれ!
風のように。
雲のように。
鳥のように。
時のように。
いつまでも。
いつまでも……
敵を蹂躙し。
首をねじ切れそうになるまでめぐらし。
足がフット・ペダルを引っ掛け。
目は風を追っている。
心臓は時を刻み。
指は引き金を掴み。
ただ、そこに。
今、そこに。
目前に敵機が飛び込む。
ほら、簡単だろう?
指が引き金をなで、
銃口は火を噴き、
鉛弾が弾き飛ばされ、
ジェラルミンは紙を吹き飛ばすように引っぺがされ、
エンジンが火炎を吐き出し、
蒼空に紅蓮の花が咲く。
地平線にグレィの柱が立つ。
ほら、簡単だろう?
バレル・ロール。
スリップで機首を下に向ける。
火を噴く。
敵が爆散。
旋回。
シノタキの横に並ぶ。
彼女はこちらに手を振る。
そして、フルスティック・エルロンロール。
その風きり音は鎮魂歌?それとも賛美歌?
夕日は沈み。
空は闇に染まっていった。