始まり
僕は戦っている。
夢か現実か、そんなことどうだって良かった。
ハーフ・ロール。
フル・スロットル。
足を突っ張る。
着いて来れるか?
さあ。
ゆっくりと引き起こしながらハーフロール。
Gが掛かり過ぎている。
翼が音を立てて振動している。
さらにアップ。
アップ。
垂直上昇。
エンジンが苦しんでいる。
体が悲鳴を上げている。
機体が軋んでいる。
こういう時、何故こんな事をしているのか考えない。
そんなことを考えたら、まず何故他の奴が飛ばないのか考えなければいけないからだ。
そんなことをするつもりは無い。
フル・エアブレーキ。
ブレーキ・ピッチ。
フル・スロットル。
プロペラは逆に推力を出す。
プロペラのダウン・ピッチと機体下面エアプレーキによって機首が上がる。そしてスナップ。
僕は木の葉のように翻る。
ほら、
誰もお前を墜とせない。
氷川尚緋。
もう誰もお前を墜とせない。
だから、
だからもっと。
僕は空を舞う。
風に翻り、
雲を貫き、
さあ。
* * * *
夢は現実となった。
エンジンは快調。
こういうのは準備万端の宴会か、あるいは快晴の運動会を彷彿とさせる。もちろん、そのどちらともやったことは無い。
次々と鳳流、燈京、黄鮭が舞い上がる。利奈は三十分前連絡を絶った。轟鮫と金凪は既に離陸した。紅覇は警戒に当たっている。
『上空200!来るっ!!だめだ糞!約80機、全部ウェーブだ。繰りか』
直後、向こうに紅蓮が咲く。
始まりだ。