決着?
いつもにまして短いw
「古海くんも帰ってしまったから、私も帰るわ……」
昔のことを思い出してしまい、古傷をえぐられるような感覚を覚えこの場にはもう居たくない、そう思った。
だから、席を立ちレジまで向かおうとすると、千夏の手を智世が引き止めた。
「千夏、座ってくれないか……」
千夏は驚きのあまり固まってしまった。
それは今智世が自分の手をとっていることもあるが、なによりいつものふざけた調子で自分を呼ばなかったことに、とてつもない驚きを受けていた。
「わ、私は古海くんに呼ばれただけで日向咲くんに用事があったわけじゃ」
「いいから座ってくれ」
智世の真剣な眼から目が離せず、そのまま椅子に座った。
「まず真っ先に言わなきゃいけない事があるんだ」
とても真剣な表情で、まるで別人のように真っ直ぐで真剣な表情をした智世は少し間を空けてそれから口を開いた。
「ごめん」
誠心誠意智世の思いの込められた言葉にはとてつもない重みがあり、千夏はその重みがとても苦しかった。
「何に対して謝ってるの……?」
「今まで全部知ってたのになにもできなかったことについてだ」
無理に微笑み必死に言葉を絞り出した千夏にたいして智世はすぐさまそう答えた。
そして千夏の頭の中は真っ白になっていた。
全部、知っていた……?
「それってどういう」
「俺のせいで周りから避難の目を向けられてたことも、俺のせいで千夏の日常を壊してしまったことも……俺は知ってたんだ」
千夏の顔を見ることも辛いのか、下を向いたまま発せらられた智世の声は震えていた。
「それでも、俺は千夏と話したかったし仲良くなりたかったんだよ……」
智世が打ち明けてくれたことにより、千夏の中の何かが吹っ切れた。
言わなきゃ……
そう思った。
私がどういう気持ちだったのか、知ってもらわなきゃ……!!
「わ、たしも、ね……智世くんと仲良くなりたかったんだよ……でもね、私じゃダメなんだって、智世くんの隣は私なんかじゃダメだってどうしても思ってしまったの……」
それは、自分を守るために勝手に決めつけた理論。
だから、今は自分の気持ちを、素直な気持ちを言わなきゃ、そう思った。
「でもやっぱり自分に嘘つけなくて……やっぱり智世くんの事が今も変わらず好きだから……」
その時ふと心の奥の何かが抜けていく気がした。
それが何なのかは分からなかったが、そのことによる安心感などにより、ふと涙がでた。
千夏の涙をみた智世は慌てふためき自分はどうすればいいかわからなくなりわなわなとしていた。
「落ち着けアホ」
智世の頭に落ちてきた拳によってその場は静けさを取り戻した。
「……な、なんで古海くんがここにいるの?」
拳を下ろした本人はその疑問をスルーし、智世の方に話しかける。
「んで、お前はいま告られたわけだが、どうするんだ?」
そのセリフに驚き顔を真っ赤にしたのは千夏だけではなく、智世も同じことだった。
「い、今の告白として受け取っていいのか……?」
「は、はい!」
恥ずかしさのあまり、顔を上げられなくなってる千夏を見ながら智世はすっと言葉が出た。
「こ、こちらこそよろしくお願いします」
その日の夕方。
千夏と智世が帰った後の喫茶店には二人の影があった。
「いや~ホントに面白いものが見れニャ」
「ったく、この場のシナリオにはお前はいないはずなんだけどな」
一人は古海、もう一人は肩からカメラをぶら下げ、胸ポケットにはペンとメモ帳といった(取材道具と言ったら分かりやすいかもしれない)物を身につけた古海と同じくらいの男が一人コーヒー片手にくつろいでいた。
このいちいち語尾にニャーニャーつけるコイツの名前は『向居 伊月』(むかい いづき)カラオケメンバーの一人だ。
「アイツもアイツだよ。 よりによってお前に頼むとは……」
「俺だからこそ、の間違いではないかニャ?」
アイツとは元晴のことで、どうやら用事で来れなくなったので代わりに誰かを行かせて一字一句自分に聞かせるつもりだったらしい。
「この際だから、俺もお前に頼んどくわ」
「ほうほう、それはまたどういう要件ニャ?」
「あぁ、俺が頼みたいことは簡単だよ。 智世と宮崎さんの恋路を邪魔する奴の排除、たったこんだけだ」
「そのくらいだと……うまい棒25本分ですニャ」
「あいよ、今度渡すわ」
「まいどありニャ」