千夏の過去
短いのをちびちび投稿しようか、長いのをどんと投稿しようか迷ってます。
宮崎 千夏は困惑していた。
古海からちょっと話すことがあると言われ、週末にとある喫茶店に呼ばれたのだが……
「なんで日向咲くんもいるの……??」
その質問について、古海は平然とした様子で、初めからその予定だったと言い、大きな欠伸をもらしていた。
「いや、ね? 私が聞いてたのって『古海くんから話がある』ってことのはずで、日向咲くんは関係ないんじゃ……」
横目で智世を見てみると、今の台詞が初耳なのか全力で古海に講義しているようだ。
智世を軽くいなした古海は千夏に目をやると、めんどくさそうに口を開いた。
「別に、『俺から話がある』とは言ってねぇよ。 話があるのはコイツの方だ」
指さされた本人、智世はどういう状況かわかっていないようで、古海が軽く耳打ちをすると急に表情が明るくなり古海の肩を満面の笑みのままひたすら揺らしていた。
「じゃ、俺戻るわ。 智世、後でどうなったか全部話せよ」
「えっ……!? ちょっとまっ」
呼び止めるまもなく古海はいなくなってしまい、残されたのは気まずくなった二人だけ。
周りの音だけが聞こえる空間で、ふと智世が口を開いた。
「こうやって一対一で向かい合って話すのはひさしぶりだな」
「そうね……」
だってそうならないように今まで過ごして来たんだから、と千夏は心で呟いた。
「最後にまともに話したのは中学3年の……夏くらいだったっけか?」
そう、その夏の日を最後に千夏は智世を避けるようになった。
理由は智世に知ってほしくないし、知らせたくない。
知らせてしまえば、千夏が好きだった……今も好きな智世のことを悲しませてしまうから。
私はなんてことない、普通のどこにでもいるような普通の女子中学生だった。
普通に日々を過ごし、勉強もちゃんとして、友達だっていた。
そんな毎日に満足していたし、物足りていた。
だけど、ある少年が私の人生を少し変えてくれた。
それが智世だった。
きっかけは些細なもので、中学2年の頃、私が読んでいた本に興味を持った智世が急に貸してと言って
きて、クラスの人気者の智世が自分に話かけて来たということに驚きはしたが、断る理由もなかったのでその本を貸してあげた。
そして、2、3週間たったある日、智世がその本を返してくれたと同時に私たちの関係は始まった。
関係が始まった、といえばそうなるのかもしれないが、ただ、その本のことについて話したり、その作者が書いてる他の作品を貸してはまたその感想を言い合う。
それは、ちょっと前までの物足りていた生活の中に、新鮮なものが入った瞬間だった。
もっと智世と話したい、もっと智世のことが知りたい。
そして、自分は彼に恋をしているのだと気づくのに、そう時間はかからなかった。
だが、気づいてからが辛かった。
智世みたいな男の子が私みたいな子を相手にしてくれるはずがない。
そう思っていながらも、やはり好きだという気持ちは誤魔化せず、そんな気持ちを抱えたまま日々は流れていった。
そして、問題は起きた。
私がトイレから出るところを、智世に積極的に関わっている女の子達につかまり、逃げることもできず、なされるがままに言葉という名の刃を向けられた。
私だけの悪口ならよかった、だが途中から「お前なんかに智世は勿体無い」「お前なんかが智世の隣にいられるとでも思ってるわけ?」などといった、自分と智世がどれほど不釣合か、などといったことを徹底的に言われ完全に心が折れてしまった。
やっぱり自分では彼には釣り合わないんだ。
そう思ってしまった。
こんな気持ちを持ってしまった事がおかしかったんだ。
自分にそう言い聞かせてしまった。
こんなに辛いなら、こんな気持ちは捨ててしまおう。
そうして、その日を最後に智世と話すことはなくなった。