透明な雫の味
「 今日 」は、朝から雨が降っていた。
灰色を滲ませたような曇り空が空一面に広がり、音もなく降り注ぐ雨粒が、地面に染みを作りながら静かに消えていく。
そんな、あまり気分の上がらないような日。だけど、私__天宮初夏にとっては特別な日。私の好きな、「 彼 」の誕生日であり、告白すると決意した日だから。
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「 ……どうしたんだ? 」
放課後、公園にある屋根の下で、彼__夜影星斗はそう問うた。
サファイアを思わせる瞳が、私をまっすぐに見つめている。スポーツ万能で人気者な、私の幼なじみ。そして想い人。
「 ……あの。 」
絞り出した声はわずかに震えていた。緊張で汗をかいたのか、しっとりと濡れた手をきつく握りしめる。
「 ……ずっと前から好きでした。付き合ってください! 」
沈黙ののち、私の口からこぼれたのはそんなありふれた言葉。
彼のサファイアの瞳が見開かれる。静寂が漂い、彼の表情が真剣さをたたえた。
「 ……ありがとう。 」
まだ驚きが滲んだ、聞き慣れた声が耳に入る。音もなき風が頬を撫で、彼のさらりとした黒髪を踊らせた。次に続く言葉が耳に届いたのは、数秒後にも数十秒後にも感じられた。
「 ……でも、ごめん。初夏をそういう風には見れない。 」
ぱりん、と。胸の中で何かが砕けたような音がした。
なにか口にしようと思うのに、私はなんの言葉も紡げなくて。透明な雫が屋根を伝うのが視界に入る。
『 失恋 』という二文字が、ぼんやりとした頭に浮かんだ。
「 ……そっ、か。 」
ようやく発した声はかすれていた。星斗が申し訳なさそうな表情を浮かべる。
彼が何かを口にしているけれど、すべて耳を通り抜けていく。やがて彼が遠ざかり、後ろ姿が雨景色に紛れて消えていくのを、私はぼんやりと見つめていた。
星斗を想った日々が頭を駆け巡る。彼の言葉が、表情が繰り返された。もう叶わないとわかったのに、この気持ちはまだ消せなくて。
とてつもなく消したいけど、消したくないような気もする。あなたを想った日々はたしかに輝いていたから。どこかつんとした花の香りがふわりと漂った。
はらりと零れた透明なものが、頬に触れた気がする。
それが雨なのか、別のものなのかは、私には分からなかった。
その水滴は、酸っぱく、しょっぱく、そして苦かった。
初投稿ですっ!ご覧いただきありがとうございました✨️
まだまだひよこですが、もしよろしければご感想などいただけたらうれしいです。
ちなみに初夏は「ういか」って読みますよ〜。




