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ミメーシス・エイドロン  作者: 名無し


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9/15

イヤァァァァァァ!化け物ォォォォォォ!

「それでお兄ちゃんなんて言ったと思います!?」

「なんて言ったです?」

「勝手にすればですよ!?ありえなく無いですか!?」


 わー、いいてんきだなー


 3月某日、カフェに入ってから2時間経った頃、エルスはカフェの窓越しにAEOMの天井を眺めながらそんなことを考えていた。


 チラリと、視線をテーブルに移すとそこにはからになった皿が三つ並んでおり、その上ではしゃべりたいことが有り余る!と言った様子のリリィとめるの姿があった。


 そう、カフェで料理を食べ終わってから30分ほどでなぜか二人が意気投合しだしたのだ。

 そして、リリィがエルスのお話を始めたが最後、1時間エンドレスで会話が始まった。

 リリィがエピソードを語ってめるが相槌を打つという形式ではあるが、エルスが墓まで持っていくつもりだった黒歴史がまるで中世の墓荒らしかのように掘り出されていく。


 そして、なんとか食い止めようとしていたエルスも、中学時代に作った魔法陣Tシャツを着ている写真を公開されてからはこの有様である。

 窓の外に何をみているのか、存在しない小鳥さんに話しかけている。


「お兄ちゃん、そろそろかえ…ってお兄ちゃん?」

「あはは、俺の肩で休んでいくかい?」

「お兄ちゃん!何きもいことやってんの!帰るよ!」

「え?あ、あぁ…あれ?めるは?」

「会計してくれてる!ありがとういいなよ?邪魔したお詫びにって出してくれるんだからね」

「お前ら、いつの間にそんな仲良くなったの…?」


 そのエルスの問いに、リリィは「なーいしょー!」とだけ答えて先に出て行った。


「悪いな。会計させちまったみたいで。いくらだった?」

「いえいえ、元々兄妹水入らずの予定だったみたいですし、お詫びみたいなものです」

「一日暇っぽかったところを見るに、本当は今日特訓のために予定開けてくれてたんだろ?」

「別に、そんなことないです。元々どっちかは買い物にするつもりだったですから」


 エルスが、自分の分だけでも支払うと言っても、めるは頑なに財布の紐を緩めない。1分ほど問答した後、これ以上言っても、気を使わせるだけだと判断したのか諦めたエルスが財布をしまった。


「せめて明日の昼はなんかおごらせてくれ。流石に会って二回目で奢らせるのはヒモみたいで嫌だ」

「まあ、そういうことなら断らないですけど」

「お兄ちゃん!めるさん!何してるのー!早くいこー!」


 いつまで経ってもついてこない二人に、痺れを切らしたのか先行していたリリィが戻ってきて手を振っていた。

 顔を見合わせて、苦笑した二人が一歩を踏み出そうとした瞬間。

 ドゴォ!という轟音と共に、地面が揺れた。


「うぉ!?」

「んにゃう!?」


 慌てたようにドアノブを掴んだエルスが近くに捕まれるものがなかっためるを抱きしめて固定した。

 唐突に抱きしめられためるは顔を真っ赤にして俯いている。

 先ほどの叫び声は、急に揺れたことによるものか、あるいは…


「リリィ!大丈夫か!?」

「だ、だいじょーぶ!こけたけど怪我はしてないよー!」


 通路のど真ん中にいたリリィは、当然周りに捕まれるものなどなく突然の揺れに巻き込まれて大きく転倒していた。

 立ち上がったリリィはエルスの問いかけに返事をしてから二人の元へ戻ってきた。


「怪我は…うん、ないな」


『赤十字』を発動したエルスが、リリィの体をじいっとみてから安心したように息を吐いた。


「エルスくん…いくら心配だからって、そんな舐め回すように見るのはないです…変態みたいです…」

「お兄ちゃん…その先は人のいない暗い部屋に行ってから…きゃっ///」

「ん、あっ、すまん」


 慌てたように離れて、「暗い部屋に行っても先とやらには行かないから」とツッコミを入れたエルス。


 信用されていないのか、めるはジト目だ。そこはかとなく不満そう。「さっきは抱きしめてきたですのに」とか呟いてる。意識しちゃったらしい。

 ちょろすぎである。


「そ、それより!なんだったんだろうな!?さっきの揺れ!何かが爆発したみたいだったけ…ど?」


 くねくねとしなを作って喚くリリィとジト目のめるの意識を逸らすために、先ほどの揺れに言及しようとしたエルスの視線が、リリィの真後ろで固まる。


「ん?どうしたで…イィヤアアアアアアア!?」


 不自然な場所で、視線を止めたエルスを不審に思っためるが顔を押さえて絶叫した。

 速攻で顔を背けている。その姿はまるでみてはいけない何かを見てしまって必死に忘れようとしている人のよう。


 そこには、真っ黒でモジョリモジョリと不規則に変形する粘土に大量の目玉を埋め込んだような…形容し難い不定形の化け物が、地面から迫り出すようにして存在していた。


 そして、それを見て何事!?と振り向いたリリィは、「わあ、おっきい」と呟いている。大物である。


『PRRRA!HAAAAA!』


 そのモンスター、触手を伸ばして振り回すと再び轟音と共に地面が抉れた。

 夢でもみてるのかしらん?と、目を擦ったエルスがもう一度視線を向ける。

 高級そうな真っ白の石材が粉々になって辺りに散乱している。腕をつねってみる。痛い。緊急事態中に自傷行為をし出したと思ったのか、こちらをギョッとした目で見るめるの視線もとても痛い。

 どちらかというと、後者の方が痛かったようだ。胸を押さえている。

 それはさておき、リアルに痛みを感じるところを見るに、現実だったらしい。


 どうにか逃げる手段を探そう、と視線を彷徨わせているととぎょろぎょろとあたりを見渡していた目玉の一つと目があった。

 だって、目があったその一つの瞳孔がキュウッと収縮したかと思ったら、残りの目玉が全部こっちを向いた。


「ひっ!?キモっ!?」


 エルスが、ついそう言ってしまったのも仕方がないだろう。

 大量の目玉がギョロっとこちらを向く様子は、隠れていた人間を見つけた怪物のよう。まあ、こちらは目玉だけなので余計に気持ち悪いが。


 すると、エルスに焦点を合わせたらしいモンスターがねっちょねっちょ、じょりじょりと近づいてくる。

 その見た目に反してそこそこ早いのがキモさを増幅させている。


 それの進行経路にあったかべ、ゆか、その他諸々は触手やその図体に潰されてスクラップに変わっていく。


「ちょ!お前ら!逃げるぞ!?」


 ぷるぷると震えて使い物にならない感じのめると、危機感の欠片も感じさせずにそれを見上げるリリィを担いで、エルスは叫びながら走り出した。


「お兄ちゃん!?ちょ!なんか瓦礫飛んできてる!」

「ごめん!怪我したら治すから我慢して!?」

「ちょ!直すって何!?それより今の安全を保証し…ッブナァイ!?今めっちゃ石飛んできた!?避けなかったら絶対当たってたんだけど!?」

「リリィ、ごめんなさいは?お前がが避けたからお兄ちゃんに当たってるぞ?」

「あ……てへッ☆」

「お前後でお説教な?」


 背後からは、バゴォ!メキョオ!と何かが壊れたり軋んだりする音が聞こえている。その衝撃で飛んできた瓦礫は、ほとんどがエルス達に届く前に落下しているが、いくつかはちゃんと届いているらしい。

 背負われているせいでそれの脅威に直接さらされているリリィが絶叫しながら、マトリックスなエージェントのように体を逸らしている。必死だ。


「や、やべぇ!分かれ道がある!?『万能の天才』起動!『世界変形』を使用!」


 走りながら、先にある分かれ道を発見したエルスは、『世界変形』を使っての安全な選択をしようとした。

 …のだが。


「くっそどっちも安全じゃねぇ!?」


 安全性で選択しようとしたためか、どちらも選択肢から排除されてしまった。

 そりゃあ、後ろから追いかけら荒れているのだからどちらに進んでも安全ではないのは当然である。


「める!める!どっちいけばいい!?ラプラスでマシな方見てくれ!まじで!可及的速やかに!?」


 エルスが叫んだ。

 すでに曲がり角は目と鼻の先、このままでは安全ではないことが保証された道のどちらかに適当に駆け込むことになる。


 叫ばれためるは、エルスに抱っこされて、恥ずかしかったのか体を小さくしてみゅいみゅいと鳴いていて反応できないようだ。

 一部の紳士の方々が見れば、緩んだ頬が融解して二度と戻らないだろう。

 しかし、小動物のようなその姿に和んでいる余裕はない。


「ちょ!める!?可愛い感じで鳴くのは跡にして一回スキル使ってくれないかな!?」

「ふへ!?あっ!えっと…あれ?どっちに行っても、ついてきてない…ですね?」

「は?どゆこと?」

「いや、まじですよ?てか、静か、ですね…?」


 あれ?確かに瓦礫も飛んできてない…?もしかして逃げ切った?みたいな目配せをしたあと、三人が恐る恐る振り返った。

 そろぉっと三人が振り向くと、モンスターがペシャッと潰れている。


「「「なんか情けない感じになってる!?」」」


 モジョモジョと、逃げるように這っているスライム(のような物)を見て三人が目を見開いた。


 すると、逃げようとするそれが水風船が破裂するようにぱしゃっと弾けて地面に溶けた。


 そして、今まさにそれがいたはずの場所には、シルクハットを被った男が立っている。男は、再び逃げ出そうとしたエルス達を見て言った。


「はあ、まさかお相手に高位の悪魔憑きがいるとは…全くついていない。相手にはついているのにね!あっはっはっは!」


 思わず足を止めたエルス達が、何も言えずに固まった。

 一瞬、言っている意味の理解を脳が拒んだのだろう。しんっとした空気が辺りに漂った。


 その空気を感じ取ったのか、訝しげな顔をした男が再び口を開いた。


「おや?わからなかったかね?私は今、悪魔憑きの『憑く』と運がない方の『つく』をかけていたのだが」


 心底疑問そうな視線をエルスたちに向けている。

 内心では「なぜこいつらは笑わないのだろう?」とか思っていそうだ。


 警戒心マックスです!と言わんばかりに眉間に皺を寄せていたエルスたちの顔から、ストンっと表情が抜け落ちた。

 言葉にせずとも、こいつ…まじかという感情が表情にありありと現れていた。


「我が解説までしてやったにも関わらず、どうして笑わないのだね?」


 笑顔のままの男が訪ねる。

 自分のジョークが面白くないなんて微塵も考えていない様子だ。


 エルスたちの表情がさらにすんッとなる。

 しかしそれも無視!我のジョークは面白いに決まってる!


「我慢することはない、面白ければ面白いというのが礼儀であろう」


 エルスたちから我慢してないが?という視線が送られる。


 それもやっぱり無視!面白くないわけがないのだから!

 なんであいつらは無視するんだ!そろそろ我慢の限界だぞ!?


 男がぷるぷると震え出した。今更ながらに恥ずかしさを感じ…いや、普通にキレてるっぽい。自分のジョークが滑ったなんて認められないようだ。


「さっさと面白いと言わんか!」


 男がキレた。

 地団駄を踏みながら、なんで笑わないんだ!とか叫んでいる。


 しかし、エルスは我慢の限界だったようで。


「面白くねぇよ!!!」


 エルスが代表して叫んだ。

「言っちまったよこいつ」という、めるとリリィの視線が突き刺さる。

 先ほど以上にしんとした空気が漂った。今度は男も何も言わない。


 男はピクピクと頬を引き攣らせている。こんなにはっきりと言われたことはなかったのだろう。


 急に目を瞑った男が、ふぅ、と息をついてから手の甲をペシペシと叩き始めた。アンガーマネジメントだろうか。案外いい人なのかもしれない。

 なんとか怒りを抑えたらしい男が、咳払いをしてから口を開く。


「失礼、低俗な平民には我の高尚なじょぉーっく!はわからぬか」

「いや、多分貴族にもわからないですよ?」

「ふっ!自らのセンスがないことを認められないのは情けないぞ?」


 あくまでも自分のセンスが一番らしい。

 なんかもう、どうでも良くなってきたエルスが再び口を開いた。


「えっと、もう、それでいいんで帰してくれませんかね?」

「あぁっと、それはできぬ相談である。我にも事情というものがあってな……ふむ、そうだな、エルス・レルクレムを置いていくのなら見逃してやっても良いぞ?」

「え、俺…?」


 ピシッと固まった後、「もしかして、俺才能バレしたりしてます?」と、めるに視線を送る。

 めるは視線を逸らした。

 エルスの顔から表情が消えた。男のジョークを聞いた時以上だ。


「さ、流石に?ぐ、軍に報告しないわけにはいかねえですから…?」


 めるの目が泳ぎまくっている。

 この様子だと、わんちゃんこうなることもわかってたっぽい。


 死んだ魚のようになったエルスの目が「める!俺を売ったのかァァァ!」と訴えかけている。

 めるの目がさらに泳いだ。世界水泳レベルだ。


「だって、軍に捨てられるわけにはいかないですから…!無職はいやなんですぅ!」


 と、いうことらしい。

 まあ、いい年して無職が嫌なのはわかるが…それで売られたエルスからしたらたまったものではないだろう。


「ふむ、それがエルス・レルクレムですか…それじゃあ、残りの女児は帰って良いぞ。我が用があるのは『万能の天才』…才能の優位を乱す力を持つその男のみである」


 やっぱり、『万能の天才』のせいだったらしい。

 というか、当然のように能力が軍の関係者以外にもバレてるっぽい。


 めるちゃん、首が捻じ切れそうなくらいそっぽを向いている。

 多分、視線で人を殺せたら!と言わんばかりのエルスくんの視線から逃げているのだろう。自業自得である。


「どうした?はやくいくがよい。そこの二人に興味はないのである」

「どうした、める。いかねぇのか?」

「……流石に、ここで私逃げ出したらちくしょうすぎるですよ!?」


 男がやはりというか、心底不思議そうに尋ねる。

 それに同調するように尋ねるエルス。不貞腐れているらしい。


「はあ、いかないのであるな?別に女の一人や二人いようが変わらないのである」


 痺れを切らしたのか、男が一歩踏み出す。

 三人まとめてどうにかするつもりらしい。


 パキッパキッと瓦礫が踏み潰される音が反響する。

 すぐにエルスがリリィを背負い直して、踵を返した。


「とりあえず!一旦逃げるzーー」

「グボェラ!?」


 轟音と共に、木刀を叩きつけられた男の頭が地面に埋まった。


「え!?」


 突然の出来事に、逃げようとしていたエルス達も振り返って呆然としてしまう。

 木刀を片手に、男を足蹴にした少女が無表情で口を開く。


「……これ、雰囲気的にこっちが悪者で合ってるよね?」

「多分、それでいいです」


 それを見たエルスたちは、一言、そう返すしかできなかった。

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