ドMのM
怒られてしょげているリリィを横目に、エルスが2階の部屋に戻ろうとするとレイラが書き込みの終わった資料を入れた封筒を渡した。
「これ、ポストに出せばいいみたいだから。明日のうちに出しちゃっといてちょうだい」
エルスはそれを受け取って、団扇のようにパタパタと仰ぎながら階段を登って部屋に戻った。
その約2時間後
エルスは部屋のベッドで漫画を読みながらゴロゴロと寝転がっていた。
部屋の外からドタドタと、何かが階段を駆け上る音が聞こえる。
エルスの部屋は一人部屋である。だから、その誰かは自分の部屋に向かうのだろう。
エルスはそう思っていたのだが…ガチャリ!と扉が開いた。
「お兄ちゃあああぁぁぁぁぁぁああ(ドップラー効果)」
大声で叫びながら、ドアを開いた勢いのままエルスに向かって飛びかかった。
俗にいうル◯ンダイブだ。
風呂に入ったのか、下着姿で部屋に入ってきたリリィは、14歳にしては肉付きの良いその体を惜しげもなくさらしながら、ベッドの裏へ落ちていった。
「悪は去ったな…」と暗黒微笑を晒したエルスは、「甘いよ!お兄ちゃん!!」という声と共に背中を襲った衝撃に潰れたヒキガエルのような声を出している。
どうやら、壁を蹴って方向を転換したらしい。
そして、いくら筋トレしているとはいえ、勢い良く45キロの物質が背中に向かって落下してきたらどうなるか。
それは考えなくてもわかるだろう。破壊されるのだ。
エルスが目に赤十字を浮かべながら自分の背中に手を当てると、こ気味良い音楽と共に腰の痛みが引いていった。某ドラゴンなクエストのようである。
そして、なんとか立ち上がれるくらい回復したエルスが、リリィをキッと睨んだ。
「お、お前、この世で壁キックしていいのは赤い帽子にMがトレードマークの配管工のおっさんだけだぞ……!」
「だいじょーぶ!私多分ドMだから!」
「女の子がそういうこと言うのやめなさい… そして多分あのMはドMのMじゃない」
「じゃあ、ドS?」
「あのおっさんは白昼堂々性癖を開示してるわけじゃねぇから。任◯堂に怒られるぞ」
(本当に、困った妹だなぁ『キラーん』)などと考えるエルス。ものすごくむかつく顔をしている。
それを見て何かを感じ取ったのか、リリィがエルスの鳩尾に拳を突っ込んだ。
下着姿でエルスにマウントをとって拳をぶつけるリリィ。突然現代に拉致された原始人のようだ。
「なんで殴った?」
「なんか、イラッとしたから」
これ以上戯れあっていても何もないことを察したエルスが、リリィに要件をきくために口を開いた。
「で、なんのようだ?」
「お兄ちゃん明日お休みでしょ!買い物行こうよ!」
「えぇ…めんどい…」
エルスが心底面倒臭そうに、ため息をつく。
それを見たリリィが、ひどいっ!と手を口元にやって驚きを表現する。ベルサ◯ユの薔薇のような作画だ。心なしか、薔薇のいい香りがする気もする。
エルスがどうやってリリィを追い返すか考えていると、スマホのバイブレーション機能がレインが来たことを知らせた
「んあ?誰からだ…?」
差出人は夢乃めるとなっており、『めるはいつ忙しくなるかわからないですから、特訓は明日か明後日から始めるです。会いてる方を選べです』と書かれていた。
特徴的な口調も相まって、背伸びして大人に振る舞う子供のようだ。
そんなことを考えていると、追いレインが来た。
『次ふざけたことを言ったら右目だけじゃなく左目も見えなくしてやるですよ』
それを見たエルスは、背筋が凍った。
一体、どうやってエルスがめるを子供扱いしたことを知ったのだろうか。
「うーん、まあ…明日でいいか」
リリィからの誘いをガン無視して、予定を入れたエルス。
リリィは激怒した。かの邪智暴虐のエルスの予定を廃せばならぬと覚悟した。
「お兄ちゃん!明日は私と買い物行くんでしょ!」
「いや、まだ行くとは言ってな…」
否定しようとするエルスを無視して、ばし!っとスマホをひったくったリリィが、『明後日ならいけます』と打って送信した。
「これで、一緒に行けるよね!」
「はぁ…しゃーねぇな…めるも明後日でもいいって言ってたしな
エルスがスマホをしまって、買い物に行くことを肯定すると、リリィが顔を輝かせて、エルスに抱きついた。
再掲するが、下着姿である。おそらく、彼女は羞恥心を母胎内に忘れてきたかどこかの道端に落としてきたのだろう。
普通の14歳の女の子は兄弟であってもこんなことはできない。
「じゃあどこ行こっか!」
「決めてねぇのかよ…適当にAEOMじゃダメなのか?」
「うーん、他に行きたいところもないし、AEONでいっか!」
わあー!っとエルスに抱きついたままバタバタと暴れるリリィ。
やっぱり羞恥心はもうないのだろう。下着が捲れてもはやほぼ全裸である。
呆れたようにエルスが立ち上がるが、しがみついていたリリィが手を離すことはなく、コアラのような状態になった。
「重いんだけど?」
「知ってた?お兄ちゃん、女の子に体重と年齢の話はタブーなんだよ?」
「俺はお前が女の子だったことを今初めて知ったよ」
「あぁん?(怒)デリカシーのないお兄ちゃんには罰として私をこのまま部屋まで運んでもらいます」
絶対に離れません!とぎゅうっと腕を絞めたリリィに、エルスは諦めたのかため息をついて歩き出した。
「はぁ…部屋の前までだぞ」
「やったあ!お兄ちゃん大好き!」
「やっすいな、お前の大好き」
「大特価で13円(税込)!」
「え、お前の大好きってうまい棒より安いの??」
部屋の前にリリィをおろしたエルスは、疲れた体を癒すため、風呂に向かうのだった。




