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ミメーシス・エイドロン  作者: 名無し


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6/15

帰宅

 ミミと別れてから、少し歩いたエルスは約10時間ぶりの我が家の玄関を開いた。


「ただいま〜」

「あら、おかえりエル。もうすぐご飯できるから、ちゃっちゃと手を洗ってきなさい」


 エルスが靴を脱ぎながら張り上げた声を聞いて、キッチンから顔を出したのはエルスの母親であるレイラだ。家の家事は彼女の担当で、エルスが毎日気持ち良い朝を迎えられるのは彼女のおかげであり、エルスも頭が上がらない状況である。

 レイラの家事スキルは常軌を逸しているのか、いつ家に帰ってきても埃どころか家事が残っているのを見たことがないくらいである。


 手を洗ったエルスが、リビングに入ると小豆の良い香りが鼻腔をくすぐった。


「え?なんで赤飯…?」

「才能が発現したんでしょう?おめでたいことじゃない」

「いや…俺、貴族の学校とか馴染める気がしないんだけど…」

「別に大丈夫じゃない?なんか、強いスキルだって聞いたわよ」

「それはそうなんだけどさ…」


 エルスは、「強すぎるんだよ」という文句を飲み込んで、適当な椅子に座った。机の上にオルトから受け取った紙を置いてスマホを取り出した。


 青い鳥でお馴染みのSNS『Y(旧Ywitter)』には、どこぞのイケメン貴族が自慢げにスキルの能力を解説していた。なんとなく、嫌な予感がしたがそれを眺めていても、『万能の天才』に変化はなかったので問題はなかったのだろう。


 ちょうどご飯の準備を終えて向かいの椅子に座ったレイラが、資料を読み始めて「え?」と呟いた。

 それを聞いたエルスが何事かと、顔を挙げると目を丸くしたレイラが資料を見せながら口を開いた。


「ねぇ、エル?この紙、転入先の高校の欄に『緋凰学園』って書いてあるんだけど…間違ってない?」

「はぁっ!?ちょっ、見せて!?」


 驚嘆の声を上げたエルスが、レイラから資料をひったくるように受け取って食い入るように見つめ始めた。

 そしてその紙に、入学予定の高校から既定の高校へと転入してもらう旨と共に、転入先の高校としてはっきりと『緋凰学園』と記されていた。


「お、終わった…」


 目からハイライトを失ったエルスが、グデっと机に項垂れた。

『緋凰学園』は、ニホンの最高位の貴族、才能持ちが通うことを許された高校である。

 当然そこに通う貴族は皆プライドが高く、エルスの想像する嫌な貴族がほとんどである。


「え、エル?『緋凰学園』ってテレビとかでもよくやってる有名な学校でしょう?頭もいいところみたいだし、悪くないんじゃないかしら?勉強頑張ってたじゃない!それに、お貴族様達もわざわざ平民にちょっかいかけてきたりしないわよ!」


「良すぎるんだよ…頭が…!あそこ確か偏差値72とかじゃなかった?俺が必死に頑張って合格した高校の偏差値56だよ?授業にはついていけなかったら余裕で心が粉々になって春先の黄砂にまじって飛んでいっちゃうよ!」


 わあっと顔を覆って泣き出したエルスに、最初のうちは優しい言葉をかけていたレイラだったが、だんだん面倒くさくなってきたのかパァンと手を叩いて声を張った。


「もう!ごちゃごちゃ言わないの!うだうだ言ったってどうせ変わらないんだから諦めなさい!」


 突然の母の裏切りに、エルスが一瞬固まった。

 母として子を思う気持ちとかはないのか…?とレイラの顔を見つめた後、このままうだうだ文句を言っていたらガチ説教が始まると察して、自分が濡らした机を拭くための布巾を取りに立ち上がった。


「お兄ちゃんおかえ……どーーーーーん!」


 すると、たったたったたったと言う軽快な足音と共に走ってきた少女がエルスの背中に勢いよくタックルをかました。


 エルスは、『ラプラスの悪魔』を使いこなせていればこの奇襲も回避できたのか…と才能の有用性を再確認した。今後行われる地獄の特訓のモチベーションが少しだけ高まったようだ。


 背中を抑えて悶えていたエルスは、すぐさまその犯人を探して顔を上げた。

 とは言っても、犯人は明確である。


 それは、エルスの背骨に多大なるダメージを与えておいて、「たはー!」と笑っている少女。エルスの妹であるリリィ・レルクレムである。

 エルスは、ガシッとリリィの頭を掴んで力を入れた。


「なぁ、妹よ…兄の背骨を破壊した感想はどうだ?」

「とっても爽快な気分!」

「ギルティ」

「ちょっ!お兄ちゃん!浮いてる!私足ついてない!待って!頭皮裂ける!」

「俺、毎日筋トレしてるからな。余裕だ」

「そう言うことじゃない〜!頭取れちゃうぅ〜!」


 リリィの頭を掴んだ手にギリギリと力をこめて、持ち上げる。毎日欠かさず筋トレをしているエルスなら、45キロしかないリリィも片手で持ち上げられてしまうらしい。筋トレってすごい!


 ギリギリと手に力を入れながらテレビを眺めるエルス。「あ、頭がっ!頭が割れるように痛いぃ〜!!」と叫びながら暴れるリリィの姿を見てとても満足そうである。


「ぐあっ」


 リリィの頭を掴んでいたエルスの鳩尾に、暴れていたリリィの長い足が綺麗にぶつかってエルスはその場にうずくまった。

 すんっと表情を消したエルスは顔を上げてリリィを見つめながら口を開く。


「え、何?やるの?(真顔)」

「うっわぁ、お兄ちゃん!気ぃ短ぁい!」


 こいつやば!とでも言いたそうなリリィを無視してエルスは立ち上がって近くに落ちていた新聞紙を丸めて武器にした。


 バシィッと風を切りながらリリィに向かって振り下ろされた新聞ソードは、ポスっとリリィが装備したクッションに阻まれた。


「やったなこのやろー!」とばし!ばし!とクッションで応戦カウンターするリリィに、面積的に防御力がみじんこくらいしかない新聞ソードでは太刀打ちできないと判断したのか、エルスが立ち上がった。


 立ち上がったエルスの膝がガンッ!と机にぶつかる。


「あっはは!お兄ちゃん何やってんの!」

「お、お前ふざけんなよ…?」


 調子に乗ったリリィが、うずくまるエルスの頭をクッションでバシバシと叩く。流石に耐えきれなくなったエルスは、ベシッとクッションを叩いて防御した。

 すると、ガシャん!と何かが倒れる音が聞こえて、机から水滴がポタポタと滴りおちた。


「ごほんっ!」


 咳払いが聞こえて、キッチンに視線を向けると、こちらを布巾を洗っているレイラがじぃっと笑っていない目で見つめていた。

 すぐに正座して、互いを指差して謝罪する。


「「こいつがやりました」」

「……」

「「こいつがふざけてごめんなさい」」


 互いを指さしながら責任をなすりつけあうと、怒髪天を貫く勢いで怒られた。

 互いに、お互いのせいで怒られたと思っているので、残念ながら治ることはないだろう。


 レイラが、「次やったらゲーム没収」と呟きながら、リリィの分の料理を机に出して三人が手を合わせた。

 父親はどうせ今日も飲んで帰ってくるということで、食卓からハブられることが決定した。哀れである


「あ、そうだ。お兄ちゃん才能あったんだって?」


 赤飯にほぐした焼き魚の身を混ぜ込みながらリリィがエルスに聞いた。

 リリィはなぜか食卓に焼き魚が並ぶとその魚の種類によらず全て身をほぐしてご飯に混ぜる。エルスは魚が勿体無いからできればやめて欲しいと思っている。


「あぁ、お陰様でこれから暗黒の3年間だよ」

「えぇ?お兄ちゃんなんで嫌そうなの?3年我慢したら、貴族様の仲間入りなんだから喜べばいいのに」

「転入先が『緋凰学園』なんだよ……」

「あっ、ふぅん……ご愁傷様です」

「勝手に殺すな……って、おい!やめろ!俺の米に箸を突き立てようとするなァ!」


 勝手に人の米を死者へのお供物へと昇華させようとする妹を撃退したエルスは食べ物で遊ぶな!と再び怒られたりそれをくすくすと笑ったリリィがさらに怒られたりと色々あったが、そこからは実に穏やかに食事が進んだ。

 ただ、リリィはこっそりと魚の骨をエルスの米に混ぜようとして怒られていたがそれはまた、別の話だ。

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