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ミメーシス・エイドロン  作者: 名無し


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家路

「うわ、流石にこの時期にもなると真っ暗だな…」


 東京ドームの正門を通って外に出たエルスが呟いた。

 他の貴族は、まだ中にいるのか、もしくはすでに帰ったのか見渡したあたりにはひとっこひとりいなかった。


 スマホの電源を入れると、そこにはエルスの母からレインが来たことを示す通知があった。


 どうやら、母には検査場の検査員から連絡が入っていたらしい。

『遅くなるのは聞いているから、ゆっくり帰ってきなさい』と言う文がよくわからない魔法生物のスタンプと共に送られてきている。


 メッセージを確認したエルスは、家に帰ってから説教に会わないことを知って顔を綻ばせた。

 エルスがグッと伸びをしてから、バス停に向かおうとした時、背中に衝撃が走った。


「な、何…ってミミか。ミミも検証終わったのか?」

「随分前に終わったよ。エルスくんは結構かかったね、どうだった?」

「自衛できるようにならないとやべぇってことはわかった」

「あれ、結構落ち着いてるね。さっきまでめっちゃ絶望した顔してたのに」


 くすくすと、口元を押さえてミミが笑って言う。

 言われてみれば、とエルスも自衛する選択肢を選んだ自分に驚いていた。

 流石のエルスも、4時間以上向き合っていれば観念すると言うことだろう。


 そんなことを考えていたエルスだったが、ふと何かに気づいて申し訳なさそうな顔をした。


「てか、随分前に終わったって、待ってたのか?」

「え?まあ、スキル教えるって言ったからね」

「気にしなくてよかったんだが…」

「まあまあ!エルスくんだってほんとはこんな時間に一人じゃ道中不安だったでしょ?一緒に帰ってあげるからさ!元気だしなよ!」


 キャピっとギャル感が迸るウィンクをかましたミミが、長い爪の先でエルスのほっぺたをツンツンしている。

 エルスはどことなく迷惑そうな顔をしている。ただ、待たせてしまった事実があるから我慢しているらしい。このままいけば悟りだって開けちゃうかもしれない


「わ!なんかますます暗くなってきたし、駅いこっ!」

「んあ?あ、ああ。そうだな」


 だんだんと穏やかな顔になっていたエルスが、現実に引き戻されて適当に返事をしている。

 本当に悟りを開きかけていたらしい。やばいやつである。


「あ、それで私のスキルの話しないとね」

「別にしなくてもいいぞ?おれのスキルの能力は見ただろ?」

「ううん。言わせて?私、エルスくんとはもっと仲良くなりたいからさ」


 ニカっと笑ってミミは、一歩大きく踏み出してエルスの前に出た


「エルスくんさ、今日、目怪我したでしょ?」

「え?」


 困惑するエルスを放置して、そのままミミがジィっと見つめると、彼女の目に赤色の十字が浮かび上がった。

 それは、彼女がスキルを行使したことを示している。


「私のスキル『赤十字』は、他の人の怪我をした部分がわかるのと、その怪我を直せる能力があるんだって。ただ、治すには直接触らないといけないからエルスくんみたいに、体の中を怪我してる人は治せないんだけどね」


 申し訳なさそうに笑う彼女の目には、未だ赤十字が浮かんでいる。

 そして、それを見たエルスの目の前には、『万能の天才』によって生み出されたパネルが浮かんでいた。


『赤十字ー56%』


 そこには、ミミの才能の名前とそれを使用できることを表すバッチが輝いていた。


「わあ、本当に私のスキルが書いてある!これでもう使えるの?」

「うん、このバッチみたいなのをスロットに持って行ったら…ほら」


 エルスの目に、ミミとお揃いの赤十字が浮かんだ。


「ミミは全く怪我してないんだな?」


 その目に映ったミミが完全に健康体と表示されたのを見て、エルスは少し驚いたように目を見開いた。


「もう自分のは直しちゃったからね!」


 ふふん!と自慢げに胸を張ってから、ミミが言った。

 そして、にまっと笑ったミミがエルスに近づいて、耳に手を当てる。


「わ!お揃いだ!カップルみたいだね?」

「い、いや、才能でペアルックしてるカップルだいぶ痛いだろ」


 囁かれたエルスが少し顔を赤くして言った。

 その姿を見たミミは、「わ、エルスくん照れてるぅ!」とエルスをからかった。

 それに少しイラッとしたのか、ミミのほっぺたを掴んでむにぃっと引っ張る。


「もう!せっかく健康体だったのに!」


 ミミは少し赤くなった自分のほっぺたをグニグニと押さえながら、才能を発動する。「自分の傷は治りが遅いのに…もう」と、小声で呟いているが、少し口角が上がっている。ちょっと嬉しかったっぽい。


 その後も、他愛もない話をしながら歩いてバス停に着いた二人はバスに乗り込んだ。


 そのまま、なんの益もない話をしているとミミがそういえばと言った様子で口を開いた。


「3年の時クラス一緒だったやっちゃん覚えてる?」

「……ごめん、全く思い当たらない」

「えぇー?ほら、見覚えあるでしょ?八神月やがみつきちゃん。『新世界の髪』を座右の銘にしてる」

「あぁ!思い出した!なぜかずっと真っ黒なノート使ってる子ね?」

「そうそう。で、なぜか表紙と1ページ目は絶対英語で書くんだよね」


 某新世界の神系男子みたいな八神ちゃんだが、実際はミミを超えるギャルである。新世界の髪という座右の銘の通り、クリーム色に染めた髪に大量のプラスチックのオーナメントをつけて普段からピカピカと光らせている。

 実は八神ちゃんは歴史のノートには人の名前と死因以外は書かないというこだわりも持っているが、隠しているのでそれを知る人はいない。


「それで?その子がどうしたの?」

「卒業式の後に彼氏できたらしいんだよ…弥っていう子らしいんだけど」

「え?まじで?」

「うん、まじ…なんだけどさ…その子に言われて、オーナメント外しちゃったんだよね」

「え、えぇ!?」


 エルスくん、今日イチの驚き様である。

 目をまんまるくしてひっくり返っている。


「や、八神さんの髪が光らないって…コト!?」

「そうなの…この間もういらないからって配っててさ…」

「え、おれもちょっと欲しかった」

「いや、女子だけだよ?」


 またはぶられたのか…と悲しそうな表情をするエルスに、何を思ったのかミミは絶対零度の表情で返していた。


「そ、そういえば、ミミもイメチェンしてたよな。確か、ちょうど2年になった頃だっけ?」


 少し焦った様子で話を変えようと口を開いたエルス。どうやら、自分でも少しキモいことを言った自覚があるようだ。


「ううん、1年生の冬休み前くらいにはもうこんな感じだったよ」

「昔はもっと委員長って感じだったもんな。なんかあったのか?」

「まあね、エルスくんのおかげだよ」

「え?俺1年の時ミミと話したことあったっけ?」

「え?もしかして……覚えてないの?」

「え?何を?」


 すんっと表情を消したミミに、これはやべぇと慌て出すエルスだったが、いくら記憶のタンスを漁っても思い出せなかったらしい。


「ごめん、全く思い出せない…何やったの?俺」


 項垂れて、何があったのかミミに尋ねた。

 ジトォっとエルスを見たミミは、ふいっと顔を背けてから言う。



「……教えてあげない」


 その後エルスは、何を言ってもつーんと顔を背けるばかりのミミの機嫌を直すためにバスが停まるまでの間、奔走することになるのだった。


「絶対!ぜっったいに思い出しておいてよ!」


 結局ミミの機嫌は治らず、プリプリと怒ったままであった。

 エルスは、ミミの言葉を背中に受けながら家に向かって歩き出した。


 ーーその頃の山崎ーー


「はぁ、エルスおっせぇなぁ…びっくりさせるために隠れてたが失敗だったか?」


 エルスがミミと元クラスメイトの話をしていた頃、山崎はトウキョウドームの裏口の柱によっかかってエルスを待っていた。


「ま、あいつが講座にいたのは確認してるからな。すぐにでも出てくるだろ」


 ただ、当然すでに帰っているエルスがそこを訪れることはなく、23時に補導された山崎は迎えにきた母親にこっぴどく叱られたのであった。

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