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ミメーシス・エイドロン  作者: 名無し


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14/15

ルナ・シェルブルーム

初めてルナが刀を手にしたのは5歳の誕生日だった。


父が手配した指南役の男は刃引きされた子供用の刀を彼女に渡した。


何かに導かれるように、それを握ったルナはこれまた導かれるように刀を振った。

ぎゅっと両手で包み込むように握った刀を、見惚れるほどに完璧な型で。

父も、指南役の男も、言葉が発せなかった。刀を握るのが初めてであるとは思えないほどに彼女の残心が美しかったからだ。


ごとり


次の瞬間には、机が傾いていた。

足の一本が、ちょうどルナの肩の高さで切られている。

再び、全員が目を見開いて固まった。


その原因は先ほどが感心だとすれば、今のは絶句だろうか。


彼女はめちゃくちゃな持ち方のまま、机の足を切った。

それも、刃引きされた子供用の刀で、豆腐を切り分けるようにスパッとだ。


誰も、すぐには事態を理解できなかったのだ。


指南役が、涙目で「こんなバケモ…天才私には荷が重いです!!」と言い日当すら受け取らずに出て行ったのを見た父は、翌日にはルナが家の近くで最も優秀な道場に通えるように手配した。


ただ、道場には当然、5歳で刀術の道場に通っている人などルナを除けば1人もいない。ルナは常に年上と闘っていた。

最初は全く勝てなかった。当然だ。


だが、勝てないものはつまらない。

正直、とてもやめたかった。3日目には行くふりをしてカフェにでも行ってやろうかと5歳児らしからぬことすら考えていた。


だが、それも仕方がないのだろう。

彼女は周りの人間全員に、技術で負けて、筋力差で負けて、身長差で負けたのだ。


それでも、やめさせてはもらえなかった。

父も母も、「あなたには才能があるんだから」そう言って彼女に練習を強要した。


才能がある、才能を無駄にするのか、才能、才能、才能


何を言っても、泣いて頼んでも、怪我をして帰っても、二人がいうのはそればっかりだった。

そして、彼女は、両親が自分の才能しか見ていないことに気がついた。


で、吹っ切れた。


どうせやめられないなら、少しでも楽しんでやろう。


そう思った彼女は、ひたすらに技術を磨き続けた。

彼女は持ち前の負けず嫌いも後押ししたのか、非常にストイックに特訓を実行した。


朝起きて素振り、歯を磨きながら昨日したミスを思い出し、昼ごはんを食べて対戦し、夜ご飯を食べて素振りをする。なんなら夢でも素振りをした。


身長も筋力も一朝一夕ではどうにもならないから、ひたすらに技術を磨いた。


そうしているとだんだん、自分より年齢も身長も高い者に勝てるようになり始めた。すると、なんだかどんどん刀術が楽しくなってきた。


好きこそものの上手なれとはいうが、にしても彼女のそれは凄まじいものだった。


元から異常だった鍛錬が、もはや人外の域に達し、それに伴った彼女の成長速度は化け物の一言に尽きる。


そのまま、彼女の成長速度は衰えることなく、歳を経るにつれてメキメキと上達していき、1対1なら誰も相手にならなくなってしまった。


ただ、いくら刀術の才能があるとはいえ、ルナも年頃の女だった。

少女漫画みたいな恋愛がしてみたい。そんな願望もあった。

しかし、彼女の周りの男は皆ルナの圧倒的な強さに怯えていて、話しかけると「ヒィッ」と悲鳴をあげるので、泣く泣く我慢していた。


どうせここで恋はできないのだ。

だったら、限界まで刀術を極めてやろう。


そう思って刀術に今まで以上にのめり込んでいた15歳の冬、彼女は才能が発現した。


『英雄の素質』


それが、才能の名前だった。


『英雄の素質』の能力はたった一つ。

〈一騎当千であること〉だけである。


使用中、ほぼ全ての武器の扱い方が体でわかるようになり、視野が広くなる。また、戦闘中のミス、雑念をなくすことができる。そして、その効果は、戦闘が長引けば長引くほど、相手が多ければ多いほど大きくなっていく。


才能が発現してからというもの、これまではいい勝負をしていたはずの多 対 1の勝負に負けることがなくなり、とうとうまともに刀術の鍛錬をできる相手もいなくなってしまった。


刀術すらもままならなくなってしまったのでルナは父に、すぐにでも星が出たい旨を相談した。


才能を磨くため、今以上に才能を活かすため、そんなふうに父の大好きな『才能』を全面に押し出すと、最初は渋った父が驚くほどあっさりと手のひらを返した。

最終的にはニコニコで『緋凰学園』の入学届にサインをしていた。


そして、ルナは『緋凰学園』に入学することになった。


彼女は喜んだ。


もしかしたら、自分といい勝負できる人がいるかもしれない。

もしそうだったら恋くらいいくらでもできるんじゃない?


彼女は、そんなワクワクを胸に地球への引っ越し準備を進めていた。


引っ越しの準備中、ルナは父に数枚の紙を渡された。

チラリと覗いてみるとそこには、それぞれに名前と顔写真、スキルとその能力が記されていた。


どうやら今代で、特に強力と言われているスキルの持ち主をピックアップしてくれたようだ。


「どうにかして、それのうちどれかと関わりを持て。幸い顔はいいのだ、籠絡でもすればよかろう」


父親の目的は、ルナとは違ったらしい。


まあ、それはルナにとって大した問題ではなかった。


どうせこのうちの誰かに戦ってもらうつもりなのだ。

ぴらぴらと紙をめくっていくと、彼女は一つのスキルの能力を見つけた。


「才能を模倣できる…へぇ」


エルス・レルクレム。他者の才能を学び、模倣できるスキルを持った男の子。

どこまでも、誰よりも強くなれそうな逸材。

もし、もしだ、この子に私の才能をあげたなら。


私も、負けれるかな?


周りに聞こえないように口の中だけでつぶやいて、彼女は口元を緩める。

元々楽しみだった地球行きが、さらに楽しみになった。


彼女が地球へいくまで、残り数ヶ月になった時。

屋敷の廊下で、兄のウィリス・ファウス・シェルブルームが使用人と話していた。いつも通り、適当に会釈して通り過ぎようとしたがーー


「エルス・レルクレムの殺害依頼は出しておきましたが…本当によろしいのですか?報奨金に3億円だなんて」


ーー聞き捨てならない言葉が聞こえて、すぐに身を隠した。

廊下の角に隠れて、聞き耳を立てた。


「あぁ、あれは貴族社会を壊し得ない存在だからな。仕方あるまい」

「しかし、かの平民はルナ様が同様緋凰と聞いております。ルナ様を通じてシェルブルーム家に取り込む方がよいのでは?」

「いや、ルナがあれを手に入れれば当主の座に手が届いてしまう。リリム姉様を当主争いから引き摺り下ろしたばかりだと言うのに、また敵が現れては敵わぬ」


そう言って、ため息をついたウィルの足音が聞こえてきた。

ルナは、すぐに20歩ほど下がってから、何事もなかったように歩き出した。

すれ違う時も、いつも通り会釈して通り過ぎーー


「おい」


普段なら絶対に声をかけてこないウィルが、声をかけてきた。


「何かいいことでもあったのか」

「特には」

「ほう?そんなにニマニマと気味悪く笑ってか?」


意地悪げにニィッと口の端を裂いたウィルに言われて、ルナは自分の口角が上がっていることに気がついた。

すぐに表情を消す。

野心家な兄だ。弱みを見せたら骨の髄まで啜り尽くされてしまうだろう。


「笑ってなどいません」

「そうか。ならいい」


少し、くるしいかとルナ自身も思ったがこれ以外の選択肢が全部最悪だったから仕方ない。

これなら多少追求されるだけで済むだろう。

面倒ではあるが、15年間この兄と生活しているのだ。ルナにとっては慣れたものである。


しかし、興味なさげに顔を背けたウィルは何も言わずに歩き出した。


「チッ、糞面倒な…」


そんなウィルの呟きは、すでに歩き出したルナの耳には届いていなかった。

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