うわっ…俺たち、狙われすぎ?【クリック】
少女は男の頭に足を乗せたままジィッとエルスを見つめていた。
助けてはくれたものの初対面な上に彼女の表情筋が仕事をストライキしているようでピクりとも表情が変わらないせいで、実にいたたまれない。
気まずそうなエルスがとりあえず、背負っていたリリィをそぉっと下ろした。
「えっと、助けてくれてありがとうございます…?」
エルスが言うと、少女はチラリとめるとリリィに視線を移してから。
「あー、もしかしてきみ、ロリコン?」
少し引き気味で言った。
「違うが!?」
とんでもない誤解だ。どうして人間はこうもすぐに恋愛感情と結びつけるのか…
エルスは必死の形相で否定した。流石に、紳士(意味深)扱いをされてはたまらないらしい。
「そっか。とりあえず、今日はもう帰ったほうがいいよ?」
流れるように、足蹴にしていた男の頭を蹴り上げて首根っこを掴んだ少女が踵を返しながら言った。
「こういう手合いが、まだいっぱいいるみたいだし」
振り向きざまに、瓦礫の一つを少女が右手側の商品棚に投げつけると、頭にそれが当たったらしい人相の悪い男が「ゴベッ」という叫び声と共に倒れながら姿を現した。
それを見て、エルス達は「うわっ…俺たち狙われすぎ…?」と表情を引き攣らせる。
昨日の今日でここまで情報が拡散するとは思っていなかったらしい。
「とりあえず、私はこれを連れてかなきゃいけないし。気をつけて帰ってね」
「え、あぁ!うん!ありがとう!」
少女が振り向く際に、一切思慮に入れられていなかったのか頭が瓦礫にぶつかって目を覚ました男が「あべっ!?ここは誰!?私はドリダス!?」と叫んでいた。
まあ、すぐに木刀で顔を叩かれて再び気絶していたが。
その後、少女は振り返ることもなく瓦礫の中へ消えて言った。
「とりあえず…帰るか」
「そうですね…いや、ちょっと待ってください。ちょっとうちの隊からボディーガードできそうな人呼ぶです」
「まじか…助かる」
「めるさんありがとー!」
「あ、もしもし、ヴォルですか?はい、そうです…うん、うん、大丈夫ですよ…了解です。はーい」
めるが電話で呼んだヴォルとやらは、10分ほどで着くらしい。
「待ち合わせはお昼を食べたカフェにしたですから、戻るですよ」
そう言っためるは率先して前を歩き出した。
右のおめめがいつも以上に真っ赤に輝いている。これ以上ヤバそうなやつとはでくわしてやるもんかと言う気迫を感じる。
そして、うぞうぞと、瓦礫を飲み込んで修復していく地面を歩いて、最初のカフェに戻った三人はジュースを飲んでいる。家に帰ったらレイラママが美味しいご飯を用意してくれているのでおやつは無しである。
ケーキを食べたかったらしいめるがしょんぼりしている。
「にしても、このAEOMは修復術かかっててよかったですね。かかってなかったらとんでもない額の修理費を払わされるところでした」
「あぁ本当にな…時々あるからな…金をケチって修復術かかってない店…」
修復術というのは、建築系のスキルが大抵内包している能力で定期的にスキルのかけ直しを行うことで破損した部分が自動で修復されるものである。だいたい1年に1度の頻度で掛け直せば効果が切れることはない。
しかし、かけ直すのに5万ほど費用を取られるので時々掛け直しをしない店もあるのだ。
「えー?壊したの私たちじゃなくてあのでっかい目玉スライムでしょ?なんで私たちが修理費払うのさ?」
「そういうものなんだよ…」
「てか、お兄ちゃんさ、修復術使えたりしないの?あの、『坂東の海豚』でさ」
「『万能の天才』な?それじゃあただのバンドウイルカだから」
ツッコミつつも、それは盲点だった…とエルスが『万能の天才』を起動する。
残念ながら、建築系の才能は見当たらない。
元々3つしか登録されていないので、あったらすぐわかるのだが。
「うーん、ないな…ちゃんとメイン能力を見ないとダメなのかも…ってあれ?なんだこれ?」
「どうしたです?」
「なんか、登録されてる才能が増えてるんだ…ほら」
「わ、本当ですね…」
エルスが、わんちゃん別のページにあったりしないだろうかと、パネルをスワイプしながらページをめくっていると、《大人のための絵本》と《英雄の素質》いう見慣れない才能の名前が刻まれていた。
《大人のための絵本ーー37%》
《英雄の素質ーー4%》
しかも、前者はパーセンテージが微妙に高い。
「というか、この名前…もしかしてエルスくん、えっちなお店とか覗きました?まだ16歳ですよね?」
「のぞいてないのぞいてない!全く!微塵も!興味ないから!」
くわっと、目を見開いためるがエルスを問い詰める。
エルスが全力で否定しながら頭を振る。
ちなみに興味がないのは嘘だ。エルスの検索履歴を色で例えるならピンク一色と言っても良いくらい。思春期男子らしい検索履歴である
しかし全く信用されていない!やっぱり少し嘘ついたのが不味かったかも!
悪魔さんステンバーイ。
めるの背後でぐにゃぐにゃと変形しながらゆらめいている。
先ほどの目玉スライム以上に見ているだけでSAN値が削られそうである。
そんなものに至近距離で睨まれたエルスくんは…
ちょっと白目を剥いて泡を吹いていた。危険域まで直葬されたらしい。
どうやらエルスくん、全く信用がないらしい。
完全にえっちなお店でそういう才能を見ちゃった思春期男子だと思われているようだ。
どうにかしてそうではないことを証明しないと…!確かに間違ってはいないけど…!いないけども…!
それを他人に…それも女子に知られるのは良くない!精神衛生的に!
なんとか自力で意識を取り戻したエルスが思考を巡らせていると。
「上の方の才能の持ち主は、先日要注意リストに追加されていたでありますね。下の方は残念ながら存じ上げないでありますが」
「うお!?」
背後から、強面の大男が現れていった。
「な、なに!?びっくりした!?」
リリィが、椅子から転げ落ちた。
涙目になりながら痛そうな音を鳴らして地面に衝突したお尻を摩っている。
それを見た男が、申し訳なさそうに「大丈夫でありますか?」とてを差し伸べたがちょっと涙目で拒否られていた。
ちょっと肩を落としてしょんぼりしている。
自分の顔が怖いのは自覚してたけど、はっきりと拒否られるとちょっと悲しかったらしい。
「もうヴォル!顔が怖いんですから急に登場しないよういつも言ってるじゃないですか!」
「も、申し訳ないであります…」
どうやら、この大男が護衛をしてくれるヴォルさんらしい。
確かに、強面で護衛にはうってつけだろう。
だけど、だけど…俺たちもめっちゃ怖いからもうちょっと優しそうな顔してくれないかな…?
上司なんでしょう?お願いしてみてくれない?
エルスとリリィがめるに視線を向けると、すぐに意味を汲んだのか頷いためるが口を開いた。
「ヴォルは怖いんですから…」
エルスとリリィの目が輝いた。
そうそう!言ってやってくださいよ!
めるさんかっこいい!そこに痺れる憧れるゥ!
チラッと二人を見て、満足げに笑っためるが堂々と言った。
「今度からはちゃんと遠くからでも来てるのがわかるようにするですよ!」
「「そうじゃねぇよ!?」」
思っていたのと違った、エルスとリリィが叫んだ。
突然二人から怒鳴られためるは「え?え?」と二人の顔を見比べてからしょんぼりした。どうやら最年長としての威厳を見せたかったらしい。
「と、とりあえず!ヴォル!話を続けるです!」
「わかったであります…と、その前に自己紹介だけいいでありますか?名前も知らないのは不便でありましょう?」
「あ、そうですね…先に自己紹介タイムにしましょう」
そういうと、ドンっと胸を叩いてヴォル声を張り上げた。
「偉人軍三番隊副隊長ヴォル・ファン・フィリストルであります!この後、お二人の護衛を務めさせていただくであります!小兵のスキル『不死鳥』は1日に数度までは自らを蘇生できる能力でありますから、何か会ったときは気にせず逃げてほしいであります!」
その大声は、ビリビリと店内を揺らした。
揺れによって落下したのか、それとも声そのものによるものかはわからないが厨房の食器が数枚割れたらしく、四人はブチギレた店主に店を追い出された。
ついでに、四人全員出禁を食らった。




