プロローグ
新?連載です
偉大なる才能を受け継いだ高貴なる身分の学生のみが通うことを許された、世界屈指の名門『緋凰学園』
その肩書きに恥じない立派な門と、その間から顔をのぞかせる美しさどころか荘厳ささえ感じさせる桜並木。
ひらひらと、ハートの形をした花弁が宙を舞い、桜の花房を透過した光はピンク色を帯びている。
そう、今日4月9日は『緋凰学院』の入学式が執り行われる日。
ピンク色に照らされた正門には大量の報道陣が押し寄せ、その注目を浴びながら門をくぐる新入生達は未だ初々しさを残しながら、一歩一歩歩みを進めていく。
その、裏側で。
「君、強いでしょ?」
4月9日に、『緋凰学園』で入学式に参加する予定のエルス・レルクレムはなぜか、学園の闘技場に拉致されていた。
その犯人は、目の前で木刀を構えた灰色の髪をウルフカットと呼ばれる髪型に整えた少女ーールナ・シェルブルームだ。
「私ね、恋がしてみたいの」
そんな一言を皮切りに、打ち込まれる木刀をなんとかいなしながら、エルスは思い出していた。
日本の一平民である自分が、どうして『緋凰学園』にかよう羽目になった理由を、そして、多くの少年少女が人生における大きな一歩を踏み出す今日、なぜほぼ初対面にも等しい少女と決闘なんてことをしているのかを。
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「いってきまーす」
陰鬱な空気を背負って、玄関の扉を押し開けたエルスは卒業してから約半月ぶりに制服を身に纏って外に出た。
時刻は9時30分。もし、彼が通常の授業に向かうのであれば遅刻確定だろう。
「なんで『才能検査』って卒業後にやんだろ…せっかく積みゲー消化してたってのに…」
ため息をつきながら、エルスは人の少なくなった道をノロノロと歩いていた。
今の彼の言葉通りエルスは今から学校へ向かって授業を受けるわけではない。
彼が今向かっているのは日本の首都、トウキョウ。
その中心に堂々と存在する、トウキョウドームで行われる『才能検査』を受けに行くのだ。
『才能検査』とは、大昔に作られた薬を使って現代の人間の魂に眠る過去の偉人の才能の存在を検査し存在が認められた場合にそれを発現させスキルとして定着させる儀式である。
バス停に着いてバスを待ちながらぼーっとしていたエルスの背中に突然何かが乗っかった。
「よぉ、エルス。久しぶりだな」
「おう、久しぶりだな。」
「おう!」
会話が止まる。
学校で毎日あっていた時は、話題に尽きなかったというのに、久々に会うと言葉が一つも浮かんでこなかった。
「あー、久しぶり、だな?山崎…あー、いい天気、だな?」
「あぁ、めっちゃいい天気だな…」
久々の友人との会話…しかし、中学3年間を陰の者として浪費したエルスは、使える会話デッキがお天気と昨日の夕飯しかない。
そして、それは山崎も同じだったようで、一切の会話がなくなって辺りを静寂が支配した…
「にゃっはろー!ありゃ?二人ともどしたの?私を待ってたとか?」
背後から、赤茶色の髪の毛を短く切りそろえた少女がバシッと二人の背中を叩いた。
彼女の名前は、ミミ・ファル・ヴァリタル。エルスたちが住んでいるグンマー地域を収めるヴァリタル男爵家の次女だ。
いつでも明るく、誰にでも気さくな彼女は、その可愛らしい容貌も相まって絶大な人気を誇っている。
ファンクラブの会員数は先日1000人を超えたらしく、卒業後も絶大な人気を誇っているとか。ほとんどの後輩は話したこともないだろうに、大したものである。
ちなみに、ファンクラブには過激派も多数存在しており、もしエルス達が彼女に背中をベシッとされたことをファンクラブの会員に知られれば、二人とも明日の朝日は拝めないかもしれない。
「ヴァリアル様ッ…!」
「ミミって呼んで!うちの家名可愛くないから!」
「ミミ様ッ…!」
突如現れて一瞬で空気を破壊してくれた救世主を山崎が跪いて崇め始めた。
ゆっくりと視線をあげるその姿はまるで天使の降臨を見守る聖職者のようーー
「はぁはぁ…ミミ様のおパンツ…はぁはぁ」
「「キッモ!?」」
ーー否、ただの変態であった。
山崎の気持ち悪い発言に、すぐにエルスは横腹を蹴り上げミミはエルスの後ろに逃げ込んだ。
道端の吐瀉物でも眺めるように山崎を見下ろしたエルスはポケットからハンカチを取り出して、蹴った方の足の靴のつま先を数度拭く。
「キモいこと言い出すなよ…足がでただろ…」
「それはごめんけど…ナチュラルに汚物扱いするのやめて…傷つく…」
「えっと、ミミさん、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫だよ!そこの…えっと、川山くん?が思ったよりキモかっただけだから」
エルスの背中に隠れて、エルスの背中に指でハートを書いて遊んでいたミミが山崎に一切視線を向けずに言った。
卒業後にクラスメイトに引かれることなんてなかなかないだろう。
山崎のあまりのキモさに脱帽というべきか、卒業前に二人が関わることがなくて良かったと言うべきか…
「てか、山川くんめっちゃ蹴られてたけど大丈夫?」
「…大丈夫です。あと、山崎です」
「え?ごめん、中学であんま関わりなかったから名前忘れちゃってた!山沢ね、覚えた覚えた」
間違えて覚えたミミに山崎が悲しそうな視線を向けている。
ただ、自業自得なので誰もそれを気にしていない。
するとエルスの後方に視線を移したミミが、エルスの肩を叩いた。
「なんですか」と振り向くとバスがこちらに向かってきているのが見える。
「バス来たよ!これに乗らないと、多分遅れるよね?」
「そうですね。行きましょう……山崎もいいよな?」
目の前にバスが止まって、三人はそれに乗り込んだ。
席順は、右から、ミミ、エルス、空席、通路を挟んで、山崎という順だ。
バスに乗ってから30分、バスの中ではずっとミミがエルスに話しかけ、エルスがそれに返事をする、と言うのがお決まりになっていた。山崎はイヤホンで、お気に入りのASMRを聴いていた。音漏れしているのをきいて、ミミは少し…いや、だいぶ引いている。
「…エルスさ、キモイこと言ったのは謝るからさ…そこの空席座らせてくんね?流石に悲しい」
「えぇ、お前汗やばいから嫌だ」
「俺めっちゃかなぴぃ」
エルスは、キャピっと気持ち悪いウィンクをかました山崎からすぐに目を逸らした。
「そ、そうだ!ミミさんからも言ってやってくださいよ!」
目をそらされた山崎は、エルスの背を透かしてミミに助けを求めた。
大抵の人に優しいミミなら、一人だけはぶるようなことはしないと考えたのだろう。
「……あー、まあ、別に良くない?それより、イヤホン音漏れしてるから気をつけなよ。ちょっと迷惑だよ」
言われて、ブヒブヒ笑っていた山崎が慌ててスマホを操作した。
音を下げたようだ。このバスの中だけですでに2回はループしているのでもう手遅れだと思うが、当の本人が満足そうなのでこれでいいのだろう。
その後、バスの中では他愛のない会話が続いて、気づけばトウキョウドーム前に辿り着いていた。
バスから出たミミは、顔を輝かせて辺りを見渡していた。初めてテーマパークに行った少女のようでとても可愛らしい。
「わ、結構人集まってるね!…あ!あの貴族見たことある!なんかモデルとかやってる人だ!」
会場にはすでに長蛇の列ができていた。
検査場は地区ごとで分けられているので、関東圏の平民、貴族が全員この会場に集まる。そうすれば当然、なんらかの方向で有名な貴族なども結構いるようだ。
「ねえ、エルスくん!あの人すごいね!めっちゃ貴族って感じだ!」
「え?ミミさんも貴族ですよね」
「そうだけど!家が偉いだけで私は別にそんな偉くないからね!」
「そうなんですね。」
ど田舎のグンマー地区の貴族…それも次女となると立場があまり高くないようだ。
機嫌を損ねないように気を使っていたエルスがほっと息を吐いた。
悪い貴族だと、隣を通っただけで処刑と言い出す者もいるくらいだ。恐ろしい輩である。
「てかそうだ!私たち2年も同じクラスなんだよ!?敬語いらないよ!」
「でも、一応身分差ありますし…」
「だから私そんなに偉くないんだって!さん付けもいらないから!Say!MIMI!」
「なんで英語なんですか…」
エルスが敬語で返すと、ミミがむあー!と叫んで頭を掻きむしった。
どうしても敬語を無くして欲しいらしい。
「あー!じゃあもう!貴族命令!敬語をなくすこと!」
「……ミミさんあんまり偉くないんじゃないの?」
「さんもなし!Sayみーみ!」
「あー、わかった。これからはミミって呼ばせてもらうよ」
「よろしい!褒めて遣わす!」
「うわ、今のめっちゃ嫌な貴族っぽい」
「わ、結構すぐに順応するんだね…って今の嫌なって必要だった?」
「さぁ?」
案外、距離の近かったエルスに少し嬉しそうなミミがエルスの頭を撫でようとした。
が、エルスが余計なことを言うとぷくぅっとほっぺを膨らませて怒ってしまった。
さらに、それをしれっと流されてしまったミミは膨らんだほっぺたをさらに膨らませて怒ったが、どちらかというと可愛さを増強させていた。
「ブフッ…頬ってそんなに膨らむんだ…プシってしていい?」
「だめだよ!?私のこと貴族扱いしないでって言ったけど雑にしていいってわけじゃないんだけど!」
「なんてこった、萎んじまったぜ…」
「私膨らんでるのが正常じゃないからね!?…あ、じゃあ私こっちだから!」
途中で貴族用に区切られた検査に向かうミミと分かれて、山崎と二人きりになった。
バスに乗ってから一度もミミに話しかけられることのなかった山崎は、終始ミミと親しげに話していた(山崎にはそう見えていた)エルスに嫉妬の炎を燃やしていた。
「エルスよぉ…なんでお前ばっかり…?俺もそこまで顔は悪くないはずなんだが?」
「そこ以外が全部キモいからじゃね?」
「なんでそんな酷いこと言うの!」
「しね」
顎に手を当てて、キュルキュルと目を潤ませた山崎がエルスに一瞬で両断された。
二人はスイスイと進んでいく列の一員として、進んでいった。そして、案外すぐに順番が来た。
貴族列と違って才能が発現しないからだろう。誰かが才能を発現させていたらもう少し待たされたのかもしれない。
パーテーションで遮られた個室に入ると、白い服の研究員がエルスに錠剤を渡した。
錠剤は50円玉くらいのサイズがあるにも関わらず、エルスが待てど暮らせど水が出てこない。
「あの、水はないんですか…?」
「あぁ、水で飲んじゃうと効果がなくなっちゃうから。少し飲みにくいかもだけど、頑張って飲んでね」
まず、エルスがこの星に生まれた時点で、飲みにくかろうがなんだろうが飲まないと言う選択肢はない。
エルスは少し怯みはしたものの、意を決して口に放り込んで噛み砕かないように注意しながら飲み込んだ。エルスが喉に引っかかる感覚に顔を顰める。
瞬間、ブゥンという音が響いて、エルスの目の前に半透明のパネルが現れた。
パネルには5つのスロットと、空白が描かれている。ゲームのスキルや称号を選択する画面に似ている。
そのパネルを見た検査員が「ちょっと待っててね」と言ってパーテーションから出ていくと、エルスは椅子にもたれかかって頭を抱えた。
「スキル…あんのかよぉ」
エルスの頭の中には、すでにスキルの簡単な使い方とスキルの名前が浮かんでいた。
そのスキルの名前は『万能の天才』。
レオナルド・ダ・ヴィンチをオリジンにもつ才能で。
他者の才能を視認した上で学習することで、その才能を模倣することができる。
その説明を脳内で咀嚼して理解したエルスは、さらに頭を抱えた。
「絶対、貴族に目つけられるじゃねぇか…!」
多くのスキルの有能さによって叙爵されている。
そんな中、他人のスキルを使える存在が現れた、それも平民からとなれば…排除されるのは当然とも言える。
すると先ほど出て行った検査員が「待たせちゃってごめんね」と言いながら戻ってきた。
戻ってきた検査員についていくとエルスはパーテーションの個室から分厚い金属製の扉をこさえた厳重な個室に移された。検査員は、エルスが中に入ったのを確認すると、外側からガシャンガシャンと鍵をかけた。
「鍵が厳重すぎない??監獄かな?」
明らかに過剰な施錠に、エルスは目を見開いて疑問を呈することしかできなかった。
3人称難しいです




