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魔法使いとペンダント ~それは一体誰のもの?~  作者: 碧衣 奈美


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07.出直し

「押し掛けるにしても、朝一番の方がいい。もし店にあったとしても、今からそのクロスカスって奴の所へは行けないだろう。どこにいるかわからない奴を捜して森の中をうろついたら、今度こそ目的地へ着く前に喰われるぞ」

 冷たい汗が、全身にさーっと流れる。リオントが言うような光景が、リアリティを持ってシェフレラの頭の中を横切った。

「ペンダントは早く取り戻したいけど、それで終わりじゃないもんね……」

「早く助けたいのはわかるが、シェフレラが無事でなければそのぼうずも無事では済まない。そいつにはかわいそうだが、すぐに殺される訳じゃないんだろ? だったら、優先的に考えるべきはシェフレラの安全だ」

「うん……」

 リオントに言われてうなずきながら、シェフレラは少しどきどきしていた。

 彼は理論的に話しているだけだ、とわかっているものの、会ったばかりのリオントが自分のことを心配してくれているようで嬉しい。

「宿、教えてもらえる?」

「え?」

 不意の質問に、シェフレラは一瞬戸惑った。

「俺も余計な金を巻き上げられるのは困るから、朝になったら出直す。そこそこ大きい街のようだから、宿の一軒くらいはあるだろ」

「え……あ、ああ、あるわよ」

 シェフレラが泊まっている場所を教えてくれ、と言われてるのかと思ってしまった。とんでもない勘違いだ。

 単にリオントは、自分が泊まれそうな宿を紹介してくれ、と頼んでいるだけ。

 あたし、何を考えてるのかしら。リオントが魔法の腕があって、なおかつ素敵だからって妄想がひどすぎだわ。

「この先の通りにあるわ。部屋があるといいけど」

 言いながら、シェフレラは赤くなってしまった顔を見られまいと、先を歩いた。

☆☆☆

 シェフレラの実家は、他の村人と同じように畑で作物を育て、それを街で売って生計をたてている。

 そのまま暮らしていたなら、シェフレラも村で近い歳の男性と結婚して、畑を耕すことになっていただろう。

 だが、シェフレラは子どもの時に本で読んだ魔法使いに、どうしてもなりたかった。魔物を倒したり、国のお姫様を助けたり、ということをしたかったのだ。

 分別のつく年頃になっても、その夢は消えなかった。

 と言うより、現実として「ずっと農家で一生を終えたくない」という気持ちがあったし、街で働けば「村で細々と野菜を作っているより収入がある」と思ったのだ。

 その収入で、両親に少しでも楽な生活をさせてあげたい。

 ディーシャの街へ野菜を売りに行く父について行き、シェフレラは魔法使いになるための道を探した。

 幸い、街には魔法使いになるための学校があり、さらに申請すれば授業料後払いの制度もあったのだ。魔法使いになったら働いて返せ、という訳である。

 学校を運営しているのは魔法使いだから、授業料を踏み倒して逃げようとしても必ず捕まえられる、という自信からくる制度だろう……と、シェフレラは思っている。

 今はお金の工面を必要としないから、と両親を説得し、シェフレラはこの学校へ入った。成績はいいとは言いかねたが、何とか卒業。

 当然ながら、最初は簡単な仕事から。なので、本に出ていた魔法使いのような活躍は、現在のところ全くできていない。

 村ではクロスカスに「報酬をもらってうんぬん」とはったりをかましていたが、本当のことを知れば「話を盛りすぎだ」とあきれられるだろう。

 だが、卒業してまだ半年も経っていないし、もっと経験を積めばいつかは……とあきらめずにがんばる日々だ。

 仕事が入ればすぐ動けるよう、シェフレラは現在この街に住んでいる。宿へ案内してリオントと別れると、自分の部屋へ帰った。

 シェフレラは、魔法使い専用のギルドに登録している。とりあえず一人前と認められて卒業すればほぼ全員が所属する、魔法使いのための仕事斡旋所だ。

 登録している魔法使いのための寮があり、今はその一室を借りている。寝泊まりと食事などの日常生活をどうにかできる程度の狭い部屋だが、部屋代が安いので文句は言えない。

 もう少し報酬がもらえるようになれば広い部屋に住みたいと思うが、その部屋代の分を両親に渡したいとも思うし、授業料の返済もある。

 なので、当分はこの部屋でお世話になるだろう。

 両隣の部屋は、妙に静かだ。たぶん、魔物退治か何かの仕事で留守なのだろう。今回のことで相談できれば、と思ったのだが、今日は無理だ。

 もしペンダントが見付かっても、法外な値段を吹っ掛けられたらどうしよう。その時は、先輩か誰かに相談するしかないかな。借金するにしても、変な所からより、知っている人の方が返す時に融通がききそうだし。

 ……借金で友達をなくした人がいる、なんて話を以前聞いたことがあったっけ。でも、意地を張れるような余裕もないしなぁ。

 ギルドには当然、シェフレラよりレベルの高い魔法使いがいるし、かわいがってくれる先輩や仲間もいる。事情を話せば、借金も何とか頼めるだろう。

 それから、もう一つの問題。

 クロスカスの所へ行く時、誰かに同行してもらった方がいいかも知れない。一人だとちゃんと対応できるか不安があるし、飛ばされた時の恐怖は、まだ消えていなかった。

 何か気に入らないことがあったら、また同じようなことをされるかも知れないと思うと、立ち向かう勇気がしぼんでしまう。

 こんなことでは、本当の一人前からは遠い、と思うものの、怖いものは怖い。

 一緒に来て? じゃあ、それって依頼になるよね。で、依頼料は払えるの?

 まさかとは思うが、そんなことを言われたりはしないだろうか。極貧のペーペー魔法使いに金を出せ、なんて悪魔のような仲間はいないと思うが……。

 みんなそれぞれに入り用だし、仕事となればシビアになる、ということもある。相手が魔法使いなら、どういう流れで戦うことになるかわからないから、なおさらだ。

 今、あれこれ考えても、仕方ないか。

 ちょっと不安になりながらも気持ちを切り替え、シェフレラは明日に備えてベッドに入った。

 次の朝。

 目が覚めたのは、部屋のドアをノックされる音が聞こえたからだ。それも、結構激しく。

「シェフレラ、起きろっ」

 ドアの向こうから聞こえてきたのは、リオントの声だ。

 え……え? どうして、リオントの声がしてるの? あたし、部屋は教えてないよね。

 慌てふためきながら、シェフレラはドアへ向かった。

「リオント? どうしてここが……」

 ドアを開けると、そこに立っていたのはやはりリオントだ。

 夜這いは夜にするのだろうが、朝だとどう言うんだろう、と頭の端でそんな下らないことを考える。

「昨日、魔法使いの寮にいるって言っただろう。魔法使いの寮はどこかって街の人に尋ねたら、すぐわかった」

 朝になったら一緒にラメルボの店へ行こうと約束し、リオントを街の宿屋まで案内した。シェフレラはどうするのかと聞かれ、自分は魔法使いの寮に部屋があるから、と答えたのを思い出す。

 この寮は隠れ家でも何でもないから、確かに街の人に尋ねればすぐにわかる。

「だけど、部屋の数はたくさんあるのに」

「ここまで近くに来れば、気配を探ることは簡単だ」

 そうだった。彼は、母親の気配が付いている思い出の品を追っていたのだ。捜すエリアが狭ければ、すぐに対象を見付け出せる。

 シェフレラの部屋は一階だが、二階だとしても彼なら迷うことなく階段を上っただろう。

「そ、そっか。だけど、どうしてここへ来たの? あたしが宿屋の方へ行くって言ってたのに……あ、もしかして寝坊してる?」

 昨日は予定が変わり、街と村を往復することになってしまった。一日近く歩き続けたようなものだから、ベッドに入ったらすぐに眠ってしまったし、起きられなかった、ということも……。

 ターミスが大変な時に寝坊なんて、緊張感がなさすぎだわ。

 反省しかけたシェフレラだったが、リオントは首を横に振る。

「いや、まだ約束の時間じゃない」

 そう言われてほっとしたのも束の間、だったらなぜわざわざ来たのか、という疑問がわきあがる。

「早朝に、役人達がばたばたしていたんだ。強盗が入ったらしいって街の人が話してるのを聞いてそちらへ行ったら、襲われたのはあの店だった」

「あの店……ラメルボのっ?」

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