たった二百年の孤独
あー。
んっんー、記録できてるのかな、これ。
道具屋はここを押せば始まるって話してたけど……よくわかんないや。
本当にこれでボクの声が残せるのかなぁ?
まぁいいや。
コホン。気を取り直して。
おかえり!嬉しいよ。
これを聞いてるってことは、君は帰ってきてくれたんだね!
いやー、長かったな。今回の喧嘩は。
だってさ、君とボクが別れてから二百年だよ? ボクにはどうってことないけど、短命種の君にとってはかなり長かったんじゃないの?
あ、短命種って言っちゃった……今はこれも差別になるんだっけ。ごめんごめん。
君と喧嘩した理由もそれだったね。ボクにはそんなつもりないんだけど……君が帰ってきたんだから直さないと。
…………。
ね、やっぱりまだ怒ってる?
ボクが『短命種』って言ったこと。
……そりゃ怒ってるよね。
いつも優しい君が出ていくなんて珍しいもん。しかも二百年も帰ってこないなんてさ。エルフのボクもびっくりだよ。
いや、いつもは二百年なんて一瞬なんだけど……。
君がいない二百年は、ちょっと長かったよ。
うん。だからって訳じゃないけど……ボク、本当に反省したんだ。本当だよ?
あの日、君を傷つけちゃったこと。
出て行こうとする君に謝れなかったこと。
全部……全部反省してる。
本当に、ごめん。
って、今さら謝っても遅いよね。
君が出ていっちゃう前に言えば……ううん。君を傷つけちゃった時に言えばよかった。
ボクって本当鈍いなぁ。
あ、そうそう。
このメッセージについて説明するの忘れてたや。
帰ってきたら急にボクの声が聞こえてびっくりしたでしょ?
これはね、『声を記録できる魔道具』らしいよ。最近出来たんだって、道具屋が言ってた。
最初は必要ないと思ったんだけどね、この道具。
ほら、ボクってずっとこの家にいるからさ。君が帰ってきてくれたら直接迎えに行けばいいじゃない?
だからいらないかと思ったんだけど……後から『ボクが寝てる時に君が帰ってきたら大変だ!』って気づいて買ったんだよね。
全財産の半分くらい払ったけど、いい買い物だったよ。
…………。
ねぇ。これを聞いてる君は、やっぱりまだ怒ってる?
ボクのこと嫌いになっちゃった? もう顔も見たくない?
帰ってきてくれたのは、自分の荷物を取りにきただけ?
それでもいいよ。それでも。
でも一つだけお願いがあるんだ。
あのね……またボクと話してほしいな、って。
あ、もちろん定期的に話せってわけじゃないよ!
十年に一回……それは欲張りすぎか。ひゃく……いや、五百年に一回でいいからさ。
たまにボクと会って話してほしいな。
当然タダでとは言わないよ!
ボク、お金だけは沢山持ってるんだ。
君が話してくれるならその半分……ううん。全部あげるからさ。
君の声が聞けるならなんでもいい。なんでもするから──
あ……。
あはは。何言ってるんだろ、ボク。
急にこんなこと言われても困るよね。ごめんね。ちょっと暴走しちゃったみたい。
実はさ……実はね。最近、少しだけ不安になっちゃって。
この前知り合いのエルフに言われたんだ。
『人間が二百年も生きてるはずがない』って。
『お前がいう人間とやらも、もうとっくに死んでいる』って。
…………。
ね、ひどくない?
失礼しちゃうよね?
そりゃ普通の人間なら百年……そんな短いわけないか。二百年くらいで死んじゃうのかもしれないよ。
でも君は違う。
だって君はあんなに強かったじゃない。
ただ長生きなだけのボクに色んなことを教えてくれたじゃない。
空は案外綺麗だってこと。
二人でごはんを食べると美味しいってこと。
……独りはちょっと、寂しいってこと。
君の手はあんなに温かかったんだよ。
それが二百年ぽっちでなくなるわけない。
なのにそんなこと言うなんてさ!
まったく……みんな君の凄さをわかってないよ。
でもね。
たまに怖くなるんだ。
君が、ボクの知らないところで死んでるんじゃないかって。
もう二度と会えないんじゃないかって。
ボクのことなんて、もうどうでもよくなったんじゃないかって。
……そんなはずないのにね!
優しい君がそんな事するわけないのに。
ボク、待ってるからさ。ずっと待ってるから。
君と過ごしたこの家を、ちゃんと守り続けるから。
だからさ、早く……。
…………。
ううん。
ちゃんと謝るから、帰ってきてよ。




