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第5話 カフェでデートだけで爆発しそうなのに、寝取り男の影までチラつくんですが!?


 待ち合わせ場所は、街はずれの小さなカフェ。


 人通りは少なく、デートにはもってこいの場所だろう。


 そこに現れた月森さんは、どこか前より柔らかく見えた。


「お待たせしました」


 白のニットに淡いブルーのスキニーパンツ。


 ……前の清楚私服は理性に直撃したけど、

 今回のラフ私服はむしろ生活に溶け込んでくるやつ。


 なんだよ、俺いつから着まわしに惚れるタイプになった?


 しかし、俺は寝取られ動画見てガッツポーズ決めてた奴だなんて思えないくらい、胸が高鳴っていた。


「いや、俺もさっき来たとこ」


 ベタすぎる返しだけど、それしか思いつかなかった。


 今日も、神崎に自宅へ誘われた彼女の為に偽デートをする事となった。


 席は窓際、奥の少し隠れたテーブルだった。


「じゃあ、証拠写真だけは撮っておきますね」


「あいよ」


 写真を一枚だけ撮る。


 今回は“カフェでお茶中”という体だから、テーブルの上の飲み物と手元だけ。


「……これで、十分だと思います」


 彼女はすぐにカップを取らず、俺の目をまっすぐ見てきた。


「……あの、少しだけ。お話していってもいいですか?」


 それは、まるで“話したいんです”って意味にしか聞こえなかった。


「もちろん。時間なら、まだ全然あるし」


 言ってから気づいた。

 おかしいな、俺、今日、優男バフでもかかってんのか?

 完全にペースを持ってかれてる。


 月森さんは、カップを両手で包み込むようにしながら、少しだけ伏し目がちになった。


「この前のこと、なんだか……まだ、少し不思議な感じがしてて」


「あの倉庫密室、雨音BGM付きのやつね」


 彼女は小さくうなずいた。


「しばらく雨音聞きながら話してたじゃないですか」


「ああ。意外と、落ち着いた時間だったよな」


「……ほんとに、落ち着いたんです」


 言いながら笑うの、ずるくない?

 ちょっと勘違いしそうなんだが。


「あんなふうに、家族以外で安心して誰かと話すの、

 いつぶりだろうって思いました」


「……そっか」


 そう返した俺に、月森さんは少しだけ目を伏せる。


「それって、変ですよね? こんな関係なのに」


 その一言に、俺は思わず月森さんの顔に目を向けた。


 彼女は小さく照れ笑いを浮かべつつ、瞳を揺らした。

 そこには、好意というより、孤独を埋めたい想いが垣間見えた気がした。


 ――目の前の彼女の表情は、たぶん、惚れてるとかじゃない。


 救われたいとか、誰かに甘えたいとか。

 そういう感情のごちゃまぜなんだろう。


「……でも、ね」


 小さく笑って、月森さんが言葉を継ぐ。


「演技のデートをしている方が楽だなんて、本当は、もっとおかしいことなんですよね」


「もしかして、神崎よりマシって思った?

 それ、頷いてくれたら明日からの人生に効く」


 動揺して軽口まじりにそう返してしまった。

 声の奥に走ったざらつきは、自分でも誤魔化せなかった。


 月森さんはきゅっと唇を結び、目を伏せたまま――小さく、こくりとうなずいた。


「……だから、今日も来たくなったという理由もあるんです。もう一度、あの時みたいな気持ちになれるかもしれないって」


 ……それ、ずるいだろ。

 演技デートを隠れ蓑にして、本音を滲ませるなんて……。


「なんか、今日の月森さん、自然に笑ってる気がするけどな」


 俺の口から、勝手に言葉がこぼれた。


 月森さんは、目を瞬かせて、でも、否定はしなかった。


「もし、そう見えていたなら、それは演技の成果ってことにしておきます」


 そう言う声は、いつもより、ずっと柔らかかった。


 ――やばい。

 この空気、前よりもずっと甘い。


 演技のはずなのに。そんな表情、ズルいって……


「それで、篠宮さ――ッ!?」


 突然、月森さんはカフェの奥へ顔を背けた。


「ど、どうしたんだ月森さん?」


「カフェの反対側の通りに……神崎さんのお友達がいた気がして……」


「えっ?」


 それ、まずいんじゃないか……?


 今さら顔隠しても遅いよな……って思ったけど、

 体は反射でそらしてた。


 おかしい、俺こんな俊敏だったっけ?


 中学時代の50m走で『お前カメか』って言われた俺が、

 今や命の危機で覚醒中。


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