第20話 妹ちゃん、開幕“ギリ許容範囲“で俺の心臓えぐってくるんだが
文化祭が終わって三日後。
放課後、俺は一人で校門を出た。
神崎をぶっ倒す方法なら思いつきはするけど、
どれも“ニュース速報・篠宮直哉、逮捕”になるんだよな。
両親泣くわ。
ため息をつきながら頭の中で愚痴る。
どうすりゃ表向き完璧超人、
素は寝取りクソ野郎を詩乃から引き離せるんだ?
タイムリミットはあと27日だってのに。
この三日間、自分なりに考えて動いてはみた。
SNSで神崎の裏アカとか、黒い噂を探してみた。
結果、神崎の善人伝説が更新されただけ。
神崎を尾行しようともした。
しかし、角を曲がった瞬間に見失った。
いや早すぎない?
お前ほんとに人間か?
俺の人生からも一瞬で消えてくれない?
俺と神崎の担任に頼んで、四人で面談の時間をもらって直接相談もした。
だけど、返ってきたのは、まさかの“痴話げんか認定”だった。
『うーん。月森の件は、カップルの間での小さな言い合い、そんな風にも聞こえるんだよね。
警察から連絡があった件も、本人は“ちょっとした言い合いです”と言っていたし』
はい来た。なかったことにする大人ムーブ。
神崎の両親の事も考えたら、事を荒立てたくないし、なあなあにしますってか?
『証拠がないし、警察から学校に強い要請があったわけではないのに、僕達から強く動くのは難しいんだ。
僕も君の話を信じたいんだけどね、どうしても片方の言い分だけじゃ判断できないんだよ。
とりあえず、今度、先生も交えて四人で話し合ってみようか。
神崎も篠宮のこと心配してたし、それで落ち着くこともあると思うからさ』
『四人で話し合ってみよう』って?
四人のうちの一人がラスボスなんですけど?
最後の手段だと思い、単身赴任中の両親に、
遠回しにこの件を、たとえ話っぽく相談した。
返ってきた答えはやはり――『学校や警察にもっと相談すべき』。
しかし、もうそれはやったし、今の惨状がこれだ。
俺があまりに必死だったのか、電話越しに“休暇を取って帰ろうか?“とまで言われた。
慌てて“大丈夫“って答えたけど、“何かあったらなら弁護士を立てるぞ”とも言ってくれた。
その手があったか! ――と一瞬希望が見えたけど、相手は神崎の家。
あの親なら、とんでもなく強い弁護士を用意しそうだ。
それに、裁判をしたところで俺たちには時間はない。
勝てたとしても、その前に俺は社会的に抹殺されてるだろうし、
詩乃は……心を壊されている。
神崎はそれを見越して、一か月という一見、長い猶予を飲んだんだろう。
ほんと、悪知恵だけは天才級だな、あいつ。
結局、気持ちだけありがたく受け取って、礼を言った。
そんな三日間の失敗を考えながら歩いていたら、
駅へついていた。
電車へ乗る為、スマホを取ろうとした時だった。
「直哉だよね?
神崎のことで話があるから、ついてきて」
突然話しかけられた。
キャップにマスクをしていて顔はよく分からない。
小柄な少女なのは確かだった。
「突然、なんだ……?」
「説明はあと。
とにかく、ここで話すと誰かに見られるかもしれないから」
――神崎のことで、且つ、誰かに見られるとまずい?
こいつが神崎の関係者って可能性もあるにはある。
だが、あいつへの対応策が思いつかない以上、
下手に騒ぐよりは聞いたほうが断然いい。
怪しさMAXだけど、俺は無言でうなずき、その子の後を追った。
駅から電車に乗り三駅ほど離れた場所で下車。
さらに住宅街の裏道をしばらく歩いた。
人通りが減ったところで、ようやくその子は足を止めた。
すると、少女はキャップとマスクを脱いだ。
キャップからのぞいていた黒髪はウィッグだったようで、
素の髪色が露わになる。
目を引く容姿をしていた。
かなりの美少女な上に、
髪が銀色だからだ。
ボブカットで、小柄な愛嬌がありそうな女の子だ。
ぱっちりした瞳は、いかにもいたずら好きな末っ子って雰囲気をしている。
前に、詩乃が銀髪の理由はクォーターだからと言っていたが、
もしかして、詩乃の妹か?
「ふぅー、ここなら喋ってもいいかな」
彼女は伸びをしながら言う。
「それにしても、あんたがお姉ちゃんの気になる人か~。
うーん、まあギリ許容範囲?」
開幕早々、点数低めの査定入ったな。
「開幕から辛辣すぎて逆に気持ちいいな」
「劇の時は遠くてよく分からなかったからさ。
どんなイケメンなのかな〜って期待して来たんだ。
見た瞬間こう思ったね。
――“あ、いるいる。朝の通学路で五人はすれ違うタイプの男子だ”って」
「……おいおい、さすがに少しぐらいは俺と違うところはあるだろ」
「うん、ちょっと違う。
直哉のほうが、ほんのちょ〜っとだけ影薄そうだった」
「お前は俺を罵倒する為に来たのかな?
それ以上、言ったら泣くことになるぞ。俺が」
初対面でこの距離感……こいつ、人見知りの概念インストールし忘れてる?
どう考えても真面目な話をする流れだったろ。
「えーっと、君は?」
「私は月森柚葉! 中学三年生!
お姉ちゃんに惚れた直哉を、直接、品定めしに来ましたー!」
「……俺、今、“買う前に触ってみていいですか?“ のノリで見られてない?」
困惑したが、詩乃の妹なのは確定した。
詩乃はあれだけ清楚なのに、
妹の柚葉は随分とぶっ飛んだ性格だ。
「ていうか、ちょい待ち。
なんで柚葉は、俺が詩乃の事好きだって知ってるんだよ?」
「だってお姉ちゃん自宅だと、“直哉さんが…”って三回話したあとに、
“あっ…別に変な意味じゃなくて!”って一人で爆死してるからね?」
「変な意味だろそれもう!!
っていうか、詩乃ってそんな照れ方するの?
可愛すぎかよ……」
そう言いながら柚葉はニヤニヤ笑ってるあたり、
のろけ話にもわりと耐性がある感じだ。
「まあ、とりあえず続きの話は私の家でしよ。
ここじゃあ一目がつくしさ。
積もる話もお互いあるでしょうよ」
「え、まあ、それは構わないが」
今日は詩乃は担任の手伝いをしており、帰りが遅くなっている。
なら、先に柚葉と月森宅へ行くことになるな。
それにしても、初対面なのにグイグイ来るやつだな……
でも、不思議と悪い気はしない。
このテンションの高さと距離感のバグっぷり、
どこか放っておけないタイプだ。
それにきっと、
詩乃が、自分じゃ言えないことを、
代わりに俺に伝えに来たんじゃないかって、
なんとなく、そんな気がしてた。
すると、柚葉は少しだけ真剣な目つきになり、ぽつりと言った。
「……私、お姉ちゃんがまたあいつに壊されるの、もう耐えられないから。
だから、本当に頼れる人かどうか、この目で確かめたいんだ」
その一瞬の本気を見たら、俺も背筋が伸びた。
「それじゃ、あと1時間ほど歩いたら月森家だから、そこで話そ!」
「どんだけ遠いんだよ。聖地巡礼か?」
柚葉はそう言うと、先に歩いて行った。
まあ、これだけ迂回するって事は間違いなく、
神崎たちに、俺たちの繋がりをバレるリスクを回避する為だろうな。
神崎がらみの話はするだろうが、どうなる事か……。
――あと、ギリ許容範囲って言葉、今もまだ頭の中でエコーしてる。
せめて“ギリ”外してくれ。
じゃないと一生、補欠彼氏だぞ俺。




