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第19話 俺は彼女を、純愛で救うって決めたんだ


 夕日が沈みかけていた。

 茜色の光が、静かに詩乃の横顔を照らしている。


 ――こんな話、誰にだって簡単にできるわけじゃない。


 俺が聞いたのは、ほんの一部かもしれない。

 でも、たったそれだけでも……どれだけ彼女が追い詰められていたか、痛いほど伝わった。


「よく話してくれたな、詩乃。ありがとうな」


 それだけだったけど、詩乃の瞳が少しだけ潤んだ。


 俺は、ゆっくり続けた。


「正直、“利用してる”って聞いたときはちょっとだけショックだったよ。

 なんだよそれ、俺ってピエロだったの!?

 クラウンメイクしてたっけ!? って」


 冗談まじりに言うと、詩乃が『ふふっ』と微かに笑った。

 でもその笑みには、少しだけ安堵が混じっていた。


「でも、すぐに思った。そんなわけないって」


「……直哉さん……」


「今までの詩乃の行動とか、言葉とか、目とか。

 いちいち真剣だったから、演技だって言われても信じられなかった」


 だから俺は、信じると決めたんだ。


「誰がなんて言おうと、俺は詩乃の味方だから」


 その言葉に、詩乃の肩がふるりと震えた。



 ……俺が詩乃に肩入れしたのは、

 同じDV被害者だからだと思っていた。


 彼女の苦しみが、自分の傷と重なったから。

 だからこそ、救いたいって気持ちが芽生えたんだと、ずっと思っていた。


 でも、違った。

 たしかに最初は過去と重ねていたのかもしれない。


 けれど今ははっきり分かる。

 理由なんて関係ない。

 ただ、詩乃を救いたいんだ。心から。



 俺は、そっと手を差し出した。


「もう、一人で抱え込むな。

 辛かったら、俺に頼っていい。俺に、抱えさせろ」


 詩乃は、一瞬驚いたような顔をしたあと――

 震える手で、俺の手をぎゅっと握り返してきた。


 ……その目は、泣きそうなのに、どこか俺をまっすぐ見ていて――

まるで、信じたいって懇願するような、そんな目だった。


「……私、ずっと怖かったんです」


 小さな声だったけど、その言葉は、しっかり届いた。


 かすれた声で、詩乃がぽつりとこぼす。


「一か月後までにはどうにかしなくちゃいけません…」


 一か月――それが詩乃のリミット。

 そして、俺と詩乃の妹のタイムリミットだ。


 それまでに、俺が何とかしなきゃいけない。

 ……いや、俺が“なんとかしたい”んだ。


 その日が来る前に、俺が終わらせなきゃいけない。


 そのとき、俺の中に芽生えていた想いが、確信に変わった。


「でも今は……ちょっとだけ、安心してます」


「直哉さん……」


 詩乃は潤んだ瞳で俺を見た。


「大丈夫だ、詩乃。

 あと、一か月――30日以内に必ず詩乃を神崎から救ってみせる。

 約束するよ。何があっても……!」


「……っ。

 ……ありがとうございます。直哉さん……」


 詩乃は少しだけ安堵したように目尻に涙を浮かべたまま微笑んだ。


 そんな言葉を聞いて、俺の胸も、不思議と軽くなる。


 詩乃の横顔は、まだ涙の跡を残していたけど――

 さっきまでの怯えた表情とは、まるで違っていた。


 ちゃんと、前を向こうとしている。


 俺はそんな彼女を救いたいと決心した。


 俺は詩乃に惚れている。

 それは、もう間違いない。


 だからこそ、俺は詩乃を――神崎から引き離して、恋人にして救うと決めた。


 そんな形、まともじゃないけれど、それでも俺は、その道を選んだ。


 誰かを傷つけるためのに奪うんじゃない。


 これは、ずっと重くて、ずっと本気な――救う決意だ。



 だから――ごめんな、神崎。


 お前の“本命彼女”、

 俺が、今度はちゃんと“恋人”にするよ。







※ここまで読んでくださり、ありがとうございます。


第19話までで、物語の前半・第一章はここで一区切りです。

詩乃との出会い、演技デート、真実の告白。

そして直哉が“純愛で救う”という覚悟を決めるまでの軌跡でした。


次回からは後半戦・第二章。

詩乃の妹、柚葉ゆずはの登場とともに、

“救う為の物語”が本格的に動き出します。


シリアス続きだった最近の展開から、ラブコメやじれじれ純愛の空気も再び戻しつつ、

物語はさらに加速していきます。


直哉と詩乃たちの物語を、最後まで見届けていただけたら嬉しいです。



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