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第10話 “他人の彼女”と手を繋いで名前呼びとか、理性バグるだろ。


 月森さんに手を繋ぎたいと言われたんだが…?


「あ、いや…あの…

 暗いのが…怖いからです…

 それが理由です……から……

 はい……」


 月森さんは慌てて言うが、

 その言葉に、完全に思考がフリーズする俺。


 ……反則だろ、それは。


 暗闇中、そんなこと言われたら断れる男子、

 この世にいないからな。


「お、おう。じゃあ……こっち、どうぞ」


 手、差し出すのも緊張するって、どんだけ免疫ないんだ俺。


 すると、迷うような間があってから、月森さんの指先が、恐る恐る重なってきた。

 すごく、柔らかかった。


 でも、それ以上に――細くて、儚くて。

 強く握ったら壊れちゃいそうな感覚に、俺のほうが妙に緊張してしまう。


 思春期の男子は女子と手を繋いだだけで惚れるってのに、

 よく俺、ギリ持ってる方だな。

 自分で自分を尊敬するわ。


「……あったかいですね」


 そう言って、彼女は微かに息を吐いた。


(……俺の方こそ、落ち着かなくなっちゃったんだけど)


 って心の中でツッコミながら、

 でもまあ、今はこれでいいかって思ってる自分がいるのも事実で。


 このまま、もう少しだけ。

 停電が直らないことを願ってしまった。


 ……まいったな、これ。

 怖がってる月森さんを安心させたいって、それだけのはずだったのに。


 たぶん今、俺のほうが、安心もらってる。


 ふいに――


 カチ、という音とともに、頭上の照明が一斉に灯る。


「……あ」


 眩しさに目を細めながら、思わず手を離した。


 それは、魔法が解ける音みたいだった


 月森さんが、迷ったように手を見つめた。


 ……あ、なんか今、名残惜しいとか思っちゃった。

 我ながらびっくりだわ。


 月森さんも、少しだけ目を泳がせながら、そっと手を引いた。


 沈黙。

 ふたりの間に、少し気まずい空気が流れる。


「……あの」


 先に声を出したのは、月森さんだった。


「こ、今度また…演技のデートをお願いするかもしれません。

 その時……」


 視線をそらしたまま、少しだけ声を潜めて続ける。


「あの……その、“名字”だと……変に距離感が出ちゃう気がして……」


 そこで、一瞬だけ目が合った。


「……もし…よければ、“名前”で、呼び合いませんか…?」


 すぐに視線を反らして、もじもじしながらそう言った月森さんの顔は、

 驚くほど真っ赤だった。


 ……いやいや、それって“演技”の範囲、超えてない?

 顔真っ赤だぞ? いや、俺もだけど。


 ……名前呼び……ってことは、つまり……いや、深読みすんな俺。


「――ああ、いいよ」


 自然に出た言葉だった。


 神崎にはけん制はされた。

 そして、俺が月森さんに、少なからず好意があるのも事実だ。


 だから、って他人の彼女にどうこうしようなんて考えはない。


 だが、普通に仲良くなる分には、あいつの言う事なんざ聞く必要はない。


 ……でも、やっぱりこの距離感で名前呼びとか、心臓に悪すぎない?


「……じゃあ……詩乃しの、で。

 ……変だったら言ってくれよ?」


 ……え、何これ。顔熱いんだけど。

 呼んだだけでこの破壊力ってズルない?


 名前呼びだけでこんなに緊張して、

 心臓バグるとか、俺どうかしてるわ。


 ……でも、不思議と嫌じゃない。

 むしろ、ちょっとだけ――嬉しいと思ってる自分がいた。


 俺も、あと少しでも長く、この“詩乃しの”って名前を口に出していたい、なんて。


 言ってから、なんかこそばゆくて目を逸らす。


「……え、えと……」


 詩乃が何かを言いかけて――でも、言うべきか迷っている。

 そんな溜めの一秒が、やけに長く感じた。


「……わ、分かりました……直哉なおやさん」


 ――名前を呼ばれただけなのに、胸の奥がじんわりと熱くなった。

 たったそれだけのことで、こんなに嬉しくなるなんて。


 ……ていうか、待って。

 “直哉なおやさん”って、威力ありすぎない?


 ――彼氏持ちの女の子と手を繋いだり名前で呼び合ったり……

 俺の倫理観、どこ置いてきた?









※お読みいただきありがとうございました。

 次回から文化祭編。この物語の転機となる章です。


 直哉が純愛で寝取る決意や、詩乃と神崎の関係など明かされます。


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