転生したら、魔法が使えなかった
目を開けたとき、世界がまるで違っていた。
目の前には、巨大な城がそびえ立ち、空はどこか紫がかっていて、周囲の草花も地球とは全く異なる色合いをしている。息を呑んだ瞬間、背後で誰かが駆け寄る音が聞こえた。
「おい、ユウ!無事か!?」
振り返ると、そこには見知らぬ少年が心配そうに顔を近づけていた。どうやら自分はユウという名前らしい。
「う、うん…でも、ここはどこ?」
「異世界だよ。君が死んで転生したんだよ!」
「え?転生…?」
その瞬間、頭の中に走馬灯のように記憶が甦った。異世界転生。ありがちなストーリーだ。それでも、自分がその主人公になったという事実に、少し驚きつつも納得した。
「でも、どうして君がそんなことを知ってるの?」
「それは僕も転生者だからさ。君と同じく、この世界に来たばかりなんだ。」
その少年は、自分のことを「転生者」と呼んだ。だが、すぐに不安が胸をよぎる。転生者とは、異世界で特別な力を持つ存在だとよく聞いていた。自分もその一員だろうと、心の中で期待が膨らんだ。
「ねえ、ユウ。君も魔法が使えるようになるんだよね?この世界では、魔法が当たり前だし。」
その言葉に、ユウは少し固まった。
「え…魔法?」
「うん!異世界に来たら、誰でも魔法を使えるようになるんだよ!」
だが、その少年の言葉とは裏腹に、ユウの中には何の力も感じられなかった。手を振っても、念じても、何も起こらない。
「…どうしたんだよ、ユウ?もしかして、もう魔法使えないの?」
少年の顔に疑念が浮かんだ。
「いや、そんなことは…きっとまだ練習してないだけだろう。」
ユウは必死で力を振り絞ろうとするが、何も起こらない。
その時、少年の目が恐怖に変わった。
「まさか…君、魔法が使えないのか?」
ユウは、転生者として期待されていた自分が、何の力も持たないことに愕然とした。周りの世界は、魔法に満ち、冒険者たちが戦い、王国が繁栄していた。その中で、魔法が使えないということは、あまりにも不自然だった。
「どうして…僕は魔法が使えないんだ?」
ユウは、その場で膝をつき、頭を抱えた。周りの異世界の住人たちは、次々と魔法を使い、強力な呪文でモンスターを倒したり、空を飛んだりしている。しかし自分には、何もできない。ただの人間に過ぎない。
その日の夜、ユウは一人で悩んでいた。
「僕は、何のために転生したんだろう…?」
そんな中、ふと見上げた空に、一筋の光が差し込む。その光の先に、遠くに見える山脈があり、そこから声が聞こえてきた。
「君の力は、魔法ではない。」
その声は、まるで風のように軽く、しかしはっきりとユウの心に届いた。
翌日、ユウはその声に導かれるように、山脈へと向かった。途中、いくつかの村を越え、数日をかけて山の麓にたどり着いた。
そこで待っていたのは、一人の老人だった。彼は、ユウをじっと見つめ、言った。
「君は、魔法使いにはなれない。しかし、君には別の力がある。」
「別の力?」
「そうだ。君が持つのは、魔法ではなく、『理』を操る力だ。」
老人はユウに、世界の法則を理解し、それを操作する方法を教え始めた。魔法のように、目に見える力ではなく、世界そのものの「仕組み」を操る力。たとえば、自然の成り立ちや、物体の動き、その根底にある法則を理解し、それを利用することで、自分の思い通りに動かすことができる。
最初は何も理解できなかったユウだが、やがてその「理」を感じ取れるようになり、物体を動かしたり、簡単な自然現象を操作できるようになった。
そして、彼は気づいた。自分が転生したのは、魔法に頼るのではなく、世界の本質を理解し、それを操る力を持つためだったのだと。
ユウは新たな力を手に入れ、異世界での冒険を始めた。魔法使いにはなれなかったが、理を操る力を使うことで、次第にその名を知られるようになった。世界の仕組みを理解し、力を使うことで、多くの困難を乗り越えていった。
そして彼は、自分の役目を見つける。
「魔法が使えない?それでも、世界を変える力はある。」
ユウはそう信じ、歩き始めたのだった。