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To be continued  作者: 綾瀬大和
国内線編
13/50

第13話めぐりあいの空で

第13話:めぐりあいの空で


2019年春、羽田空港。


桐谷隼人は、再びその羽田空港に立っていた。静かな朝、だが彼の心の中は、どこかに確かな期待を感じていた。最近、フライトの最中に感じる風景の広がりや空気の流れが、一層深く胸に沁みるようになってきた。それはもちろん、仕事への誇りの表れだったが、もうひとつの理由もあった。


彼の隣でスムーズに荷物を運ぶスチュワーデス――もとい、客室乗務員が、どこか目に焼き付いている。名前は小机アンナ。27歳。彼女との初めての出会いは、1ヶ月ほど前のことだった。JALの他の便でたまたま同じフライトに乗り合わせた際、ほんの短い時間ながらも言葉を交わす機会があった。それから少しずつ、意識するようになってきた。


「小机さん、今度のフライト、一緒ですか?」


そう尋ねたのは、昨日のことだった。彼女は少し驚いたように桐谷を見て、そしてにっこりと笑った。


「ええ、そうです。今日もご一緒に空の旅ですね。」


その笑顔が桐谷の胸に響いた。彼女の微笑みには、どこか無邪気さと誠実さが混じっていて、何度も見たくなるような、そんな心地よさがあった。


「どうぞよろしくお願いします、機長。」


「こちらこそ、よろしく。」


機長としての立場を意識しながら、桐谷は一瞬目を合わせ、軽く会釈を返す。その際、少し緊張した自分を感じ取ることができた。いつもなら、同僚と顔を合わせてもこんな感覚はなかったはずだ。しかし、彼女は少し違った。


フライトが始まり、客室乗務員が客席を一通り見回った後、しばらくしてから、彼女が隼人の元へとやって来た。


「機長、何かお手伝いできることはありますか?」


「いや、大丈夫だ。ありがとう。」


言葉には出さなかったが、桐谷はその優しさが胸に残った。どこかしら、彼女が思っていた以上に気になり始めていた。


——


その後、同じ便で何度か顔を合わせることになった。仕事中、やり取りを交わすうちに、次第に桐谷の気持ちも変化してきた。最初はただの職場での同僚と思っていたが、少しずつ彼女に対する好意が芽生えていく自分に気が付いた。


「……どうした、桐谷?」


ある日、休憩室で同僚に尋ねられた。その時、ふと自分の表情に集中し過ぎていたことに気がついた。


「ああ、いや、ちょっとね。」


答える桐谷は、言葉にはしなかったが、心の中で何かが動き始めているのを感じていた。


アンナの明るさ、そして優しさ、仕事への真摯な姿勢が桐谷の心に響くようになったのだ。それに気づいたとき、彼はやっと自分の中で確信を持った。少しでも彼女のことを知りたい、もっと話してみたいと思うようになった。


——


その日、フライト後、桐谷はふとした瞬間に彼女に声をかけた。


「小机さん、少し話せる?」


「ええ、大丈夫です。」


彼女は笑顔で答えると、桐谷が先に歩いて、少し離れた場所に移動した。


「仕事、どう?」


桐谷はカジュアルに質問を投げかける。


「うーん、やりがいはありますけど、機長のように、あんなに高いところに立っていると、やっぱりすごいなって思いますよ。」


「そうか。俺も最初は緊張してたけど、今は空が大好きで、上にいるとすごく落ち着くんだ。」


「私もそうかもしれません。空の上から見る景色って、何度見ても素敵ですね。」


その言葉に、桐谷はふと感じた。この会話の中に、何かがあると。


「今度、ゆっくりご飯でも行こうか?」


突然、桐谷は思い切って言ってみた。自分でも少し驚きだったが、そう言わずにはいられなかった。


「……行きたいです。」


予想以上に、あっさりと彼女は答えた。桐谷は思わず顔が少しほころびそうになるのを、必死で抑えた。


「決まりだね。来週あたりどう?」


「はい、楽しみにしてます。」


その言葉を最後に、桐谷はすぐに仕事に戻らなければならなかったが、その後の一日が、心なしか軽く感じた。小机アンナとの距離が、少しずつ縮まっていく予感がした。

桐谷隼人は、まるで自分の心の中で起こった変化を受け入れることに慣れてきたかのように、少しずつ自信を持ち始めていた。小机アンナとの食事の約束があった日、桐谷は仕事を終え、普段より少し気持ちが軽い気分で空港を後にした。


その日は、あいにくの天候だったが、桐谷はそれさえも気にならなかった。初めて小机と二人きりで会う日。桐谷の胸の中には期待と少しの不安が交錯していた。


レストランの入り口で待ち合わせの時間を少し過ぎてから、ようやく小机アンナが現れた。彼女の顔を見るなり、桐谷の心は安堵した。それと同時に、彼女の笑顔がどこか新鮮に感じられた。


「遅くなってごめんなさい。ちょっと、バタバタしてて。」


「いや、全然大丈夫だよ。気にしないで。」


桐谷は笑顔で答え、彼女が席に着くのを手伝った。食事が始まると、二人の間に少しの緊張が漂ったものの、すぐに会話が弾み始めた。互いの仕事の話や、最近の出来事、趣味の話まで、次々と話が広がる。


「でも、こうして二人で食事するのはちょっと新鮮だな。」


桐谷が言うと、小机も少し驚いたような表情を見せた。


「そうですね。普段は職場でしか会わないですし、こうやってゆっくり話すのは意外と新鮮です。」


「うん、確かに。」


桐谷は軽く笑いながら、ふと彼女の目を見る。彼女も何気ない瞬間に目を合わせ、少し照れくさそうに微笑んだ。


その日、二人は何時間も話し続けた。その中で、桐谷は小机アンナの本音を聞くことができた。彼女は仕事に対して非常に真剣で、航空業界に入った理由や、これまでの努力、そして彼女自身が持つ強い意志を知ることができた。


「空に乗ることが、こんなにも素敵だって感じるのは、私も最初は予想してなかったんです。でも、飛行機の中から見える景色や、乗客の顔を見るたびに、自分の仕事の大切さを再認識するんです。」


「そうなんだ。」


桐谷は、彼女が話す内容に深く共感した。自分も、操縦桿を握るたびに感じるものがある。そんな感情が、今日ここでの会話を特別なものにしていた。


「でも、機長として一緒に飛んでいると、改めて気が引き締まりますよね。」


「うん、確かに。あの時、初めて自分が機長になった時、責任の重さに圧倒されたよ。」


「そうですね。私たち客室乗務員だって、お客さんに不安を与えたくないですし、どんなに大変でも、安全に乗せていけるように頑張ってますから。」


その言葉に桐谷は心の中で頷いた。小机アンナの仕事への真摯な姿勢は、何度も彼の胸に響いていた。


それから数週間後、桐谷は再び小机アンナと顔を合わせた。その日は天候も良く、両者のフライトは順調に進んでいた。桐谷が機長として初めて担当した長距離便で、やはりアンナはCAとしてサポートしてくれていた。


その日のフライトの後、再び二人は顔を合わせることになった。


「お疲れさま、今日は一緒にフライトできて楽しかった。」


桐谷が微笑むと、小机もにっこりと笑った。


「私も楽しかったです。お互い、無事に終わってよかった。」


その後、二人は少しだけ話す時間を作り、空港内のカフェで休憩を取ることになった。


「今日は少し長い間、話してみたけど、どうしても気になったことがあったんだ。」


桐谷は少し真剣な顔で、小机アンナを見つめた。


「気になること?」


小机は少し驚いたように桐谷を見たが、桐谷は頷いた。


「うん、ずっと思っていたんだけど……君の笑顔、すごく素敵だと思う。」


突然の言葉に、小机アンナは少し照れたように顔を赤らめた。


「え?そんなこと……」


「本当に、君の笑顔を見ていると、すごく安心するんだ。いつも忙しくて大変だろうけど、その笑顔で周りを明るくしているところ、すごく素敵だと思う。」


桐谷はその気持ちを率直に言葉にした。小机はしばらく黙っていたが、やがてそのまっすぐな言葉に思わず心が温かくなった。


「ありがとうございます……隼人さんも、いつも頼りにしてます。私は、あなたの機長としての姿勢に憧れているんです。」


その言葉に桐谷は少し驚き、そして心が少し弾んだ。


「本当に?嬉しいな。」


「はい。隼人さんみたいな、真剣に仕事に取り組む姿を見ると、私も頑張らなくちゃって思えるんです。」


その時、桐谷は自分が言葉にしていた気持ちが、しっかりと伝わったのを感じた。そして、彼女が言うように、自分も彼女に励まされているのだと実感した。


その後、桐谷と小机は何度か仕事を共にするうちに、自然とお互いの気持ちを確認し合った。二人の関係は少しずつ深まり、周りもそれを感じ取るようになった。


ある日、フライトの帰り際、桐谷は思い切って言ってみた。


「小机さん、今度、休みの日に一緒に出かけようか?」


小机は少し驚いたように目を大きく見開いたが、その後、少し照れたように頷いた。


「うん、行きたいです。」


桐谷の胸に、再び温かな感情が広がった。彼女と過ごす時間が、どんどん楽しみになっていった。


その後、桐谷と小机は二人での時間を持ちながら、次第に互いに対する気持ちを深めていった。そして、仕事での厳しさや、フライトの中で感じる責任を共有し合いながら、二人はお互いにとって欠かせない存在へと成長していった。


新しい始まりが、ここから始まる予感がした。

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