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生まれ、率い、そして旅立つ

                 〜特異種〜

それは通常の個体と異なる特異な性質を持つ個体のことである。無論、その種が生き残ればその特異性は伝播し、やがては通常個体になる。

死ねば・・一匹の生物として勿論死ぬ。そんなとある世界、とある森にて、そんな特異性を持つ一匹の狼が生まれた。

その特異性は『他の種族との対話が可能』という点だった。

他の狼はその特異性に恐れるものもいれば、喜ぶものもいた。母親とその兄弟もそうだった。

さて、その狼は他の生物と会話をよくしており、小さな虫にも、狩りをする相手にも、ありとあらゆる生物に声をかけた。

他の狼は平和ボケにもほどがあるといえば、話し合いで解決の出来ることがあるかもしれないと意見が割れていた。家族は常にその狼の味方だった。

そして狼が狩りが出来るようになると、次第に自分なりの狩りの形に変えていった。

一匹の獲物を捕まえれば、狼はこう問う。

「生きたければ他の生き物の住処を言え。それで見逃してやる。」

狼のことを素直に聞いて住処を話した獲物は見逃され、嘘をついたり、何も言わない獲物はそのまま食らった。その狼は弱肉強食で成り立っているのをよくわかっていたから。こうして狼は次々と獲物を得て、群れからもその実力を認められた。

月日が経ち、その狼は群れの長となり、他の群れも彼の功績を称え、次第に森を支配する狩人として、森中に名を馳せた。

しかし、温厚な一面が消え失せたわけではなかった。

その狼は徐々に大きくなる群れを見て悩んでいた。群れ全体を養うにはそれ相応の獲物が必要だ。しかしいつまでも小さい生き物ばかりを糧にしても食料が尽きるだけだということをよく理解していた。そこで、若い長は群れを集め、近くの岩に乗った後、案を群れに提案した。

「この規模の群れを率いるには、この森だけでは限界だ。そこで君たちに決めてもらいたい。群れを小分けにするか、活動範囲を広げるかだ。」

群れは騒ぎ始めたが、次第に話し合いを始め、それぞれ左右に別れ始め、左は群れを小分けにすることを是とするもの、右は活動範囲を広げることを是とするもので別れた。

「よし。それでは今から数を数えーーー」

「待った!長よ!」

突如、群れの中でも特に体の大きい狼が声を上げた。

「その前に、俺と決闘しろ!」森の中でつむざく声が響く。他の狼達はたじろぎ始めている。長である狼はその狼の目を見ながら「決闘か、私に勝って一体何を望む?」と問いかける。

その狼はニヤリと笑いながら「長の座を頂こう!」と息を荒げる。

長はため息をつくかのごとく耳をはたつかせ、「分かった。私が負ければ長の座を譲ろう。」

狼をそう云うと、岩を降りて群れに円を作るよう命令した。

円の中に決闘を申し込んだ狼と、長である狼が対峙する。

「では、始めるとするか。」「そうだな。」

緊張が輪を作る群れのに走る。森の中を駆け巡る風は決闘を挑んだ狼の背後から吹いていた。

そして、両者は走り出し、決闘が始まった。

噛みつき、引っ掻き、蹴り合い、毛と血と肉が体から散りゆく。

そんな凄まじい戦いぶりだったが、ふいに長であった狼は隙を見て距離を離し、穀然とした立ち振舞で相手を見た。

両者はところどころ血が流れており、傷も多かった。

だが、長である狼は戦いの中察した。

私は彼には勝てないと。

長である狼の体よりも一回りデカい相手に、同等の傷しか与えられていないのは力不足である以外に違いはなかった。このまま行けば確実に傷が蓄積してくたばるのは私の方だ。

狼はまだ息を荒げる相手を見ながら、静かに、そしてはっきりと告げる。

「おめでとう。この戦いに勝利したのは君だ。これからは君が長になると良い。」

息を荒げていた相手は一瞬呆けた表情をした後に異議を唱えようとしたが、それよりも早くこの戦いを見ていた観衆が雄叫びを上げ、決闘は終了とした。

ーーーーー

決闘が終わった夜、群れの狼がうずくまり寝静まった時間に、長だった狼は一人眺めの良い空を腰を下ろして眺めていた。

その表情はどこか満足げで、期待に満ちていた。

足音が聞こえた狼はそちらの方を見れば、自分との決闘に勝ち、新たに長になった狼が気まずそうにやってきた。

「長・・その・・」「何を言っている。長は君だろう。私はただの狼だ。」

狼は冷たく、しかし長だったときと変わらない口調でそう伝えた。

「本当に、群れを出るのか?」

その声は決闘を申し出たときとは打って変わって弱々しかった。が、そんな事はお構いなしに一匹狼は言葉を連ねる。

「長をやめたら、広い世界で旅をしたいと思ってたんだ。私は・・ほら、変わり者だからさ。」

「それに、君のほうが力も強いんだからさ、もっと自信を持ちなよ。」

新しい長はその言葉に萎縮しつつあったが、勇気を振り絞って言った。

「何故、あの時命をかけなかった?」

その質問に、一匹狼は一切の動揺もなく、冷静にこう答えた。

「死ぬのが怖いからだよ。長。私は誇り高き狼になれないから、死ぬのを恐れて逃げる狼であり続ける。長は誇り高き狼として皆を率いて生きる。そうだろ?」

それを聞いた長はまた声を掛けようとしたが、その言葉は思わず喉の奥に引っ込んでしまった。

月明かりに照らされた一匹狼は、自分よりも巨大な体を持っているように錯覚してしまったから。

ーーーーー

太陽が登る直前、一匹狼は家族の元へ木の実を加えてそっと置いた。

立ち去る際に、気配に気づいておきた母狼が「少し、話をしてからいかないかい」と言ったので狼もそうすることにした。

「貴方がいままでやってきたこと、全部誇りに思うよ。長になったことじゃなくて、それ以外のこともね。」母狼は年で立ち上げるのがやっとの腰を上げながら。一匹狼とともに歩く。

一匹狼は何も言わず、ただししっかりと頷き返した。

「これから群れを出て、何をしたいの?」

その問いに、一匹狼は答えた。

「広い世界を見て・・私という存在が最も役に立つところを探すことかな。」

母狼はそれを聞いて何も言わず、ただただ歩いた。暫くの間、二匹は会話を挟まなかった。

そして、森の外側に広がる草原が見えてきた辺りで、母狼は足を止める。

「それじゃあ、後は自由に生きなさい。母さんは、お前のことを見てやれないからね。」

一匹狼は深く頷き、少し先を歩いた後に「きっと兄弟が頑張るよ、母さん。」

そう言い、森の外へと駆ける。

その後ろ姿を見届けたのち、母狼は少しふらついたかと思えば、その場で横になって倒れた。

ーーーーー

一匹狼は、草原を歩きながら道中見かける様々な虫と会話をした。そのうちの一匹がこの近くに人間という初めて聞く生き物の街があるという話を聞き、狼は興味が湧き、教えられた方向へ向かうことにした。

道中、小さな家があったが、森の外を知らない一匹狼はあれが何かを知るために近寄ることにした。

一匹狼が近づいたその時、家の扉が開き、中から人間の少女が現れた。

互いの顔を認識し、お互いに絶叫を上げたのは言うまでもない。

しかし・・ただ動じただけの一匹狼に対し、少女はあまりにも怖かったか体調が悪かったのか、その場に横に倒れてしまった。

拙い箇所もあるかもしれませんが、ゆっくり読んでくださると幸いです。

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