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目覚めと混乱

眩しい光が目に飛び込んだ。

乾いた風が肌を撫で、熱気を帯びた砂の匂いが鼻腔をくすぐる。


「ん……眩しっ!……あっつ…何よ…これ?」



じりじりと照りつける太陽。見渡す限り広がる砂の海には命の気配など微塵も感じられない。そんな無機質な荒野の中、砂の上に倒れていた1人の女性。


灼熱の空気と強烈な光が、彼女の意識を無理やり引き戻した。



 その女性、霧島沙良はゆっくりと体を起こした。年の頃は20代半ばといったところだろうか。彼女の端正な顔立ちには、どこかクールさと知性が漂っている。


彼女の長く黒い髪が風に煽られ、砂混じりの空気に軽くたなびく。汗で額に貼りついた髪を手でかきあげ、切れ長できつめの印象の目が周囲を鋭く見渡す。白い襟付きシャツが汗に貼りつき、彼女の動きに合わせてかすかに皺を作る。黒のパンツスーツは彼女のスリムな体型を引き立て、足首まで伸びるストレートなパンツのラインがスタイリッシュで洗練された印象を与えている。


だが、この場においてはそれら全てがさらにこの状況の異常さを際立たせていた。


無限に広がる砂丘と、どこまでも続く青空。そこへ無慈悲なほど強烈な太陽がじりじりと照りつけている。


「……ここは、どこ?」


喉がカラカラに渇き、声を出すだけでも痛みが走った。何も見覚えのない風景、知らない場所、そして何より自分がどうしてこんなところにいるのか全く覚えていない。

思い出せるのは直前まで会社で仕事をしていたはずだった事。しかし…その後が思い出せない。


ゆっくりと立ち上がる。足元の砂が崩れ、体は不安定に揺れたが何とか踏ん張って体勢を保つ。目を細め、遠くの地平線を見つめた。蜃気楼のように揺らめくその先に、かすかに建物らしき影が見える。



「……行くしかないわね」



太陽で熱された砂を踏みしめ、足を取られないようゆっくりと歩き出した。



足を進めるが足取りは重く、体が思うように動かない。灼熱の太陽が容赦なく体力を奪っていく。熱気を帯びた風が砂粒を巻き上げ、耳元でかすかな音を立てる。その音すら、いまの彼女には遠く聞こえた。



(……ちょっと…ホントに…何なのこれ?ふざけんじゃないわよ!何がどうなったらこうなるのよぉ…。……でも、どう考えても会社にいた記憶しかないのよね……。)



内心悪態をつきながらも、この状況になった経緯を推察しようとするが思考がうまく回らない。だが、今はそれを考えている余裕はない。まずは生き延びることだ。


そう自分を鼓舞しながら、建物らしき影が見えたという事実だけを指針に進むも焦燥は増すばかり…。まるで目の前の現実が幻のように感じられる。普段なら冷静に状況を分析できるはずなのに、この世界のすべてが拒絶してくるような感覚に心がかき乱される。


だが、それでも沙良は歩き続けた。ここで倒れるわけにはいかないという本能的な感覚だけが、彼女を突き動かしていた。



唐突に彼女の視界がぐらりと揺れる。足元がぐらつき、何かを掴もうと虚空に手を伸ばそうとするも力が入らない。体は重く、まるで自分のものではないように感じ、無防備に砂の上へと沈み込んだ。


視界が歪む。まるで全身が砂に沈んでいくかのように、意識が遠のいていく。指先から力が抜けて、手は無意識のうちに砂を掴んだ。



「……だめ、かも……」



意識が遠のく。そう感じた瞬間、視界の端に誰かの影が映った。人影はゆっくりと近づいてきたが、それを確認する間もなく、沙良の意識は闇に包まれた。

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