表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/24

6話




 コンコンコン。


「入れ」


「失礼します」


 部屋に入るとお風呂あがりらしいバスローブ姿の父様がソファで寛いでいた。


「……」


「どうした」


「失礼しました。セクシーな父様の姿に見惚れておりました」


「ぶっ」


「エノック、そこは我慢するところでしょう」


「い、いや……無理、ですよ……ぶっ」


 私の言葉に父様は唖然とし、肩を震わせ控えめに笑っていたエノックも今はお腹お抱えて笑っている。


「失礼しました」


「あ、ああ。座れ」


「はい」


「それで、話とはなんだ?」


「実は……」




 リシャールから聞いた話をそのまま父様に話した。始めは顔色を変えずに聞いていたが、だんだん顔が険しくなっていき、話が終わる頃には視線だけで人を射殺せそうになっていた。エノックに至っては、序盤の段階で言葉を失い最後は顔を真っ青にしていた。


「流石に酷過ぎませんか……?」


「そうね。でも今回の件でリシャールが看破の瞳を持っていることがわかったわ」


「そうなのか?」


「はい。アレの話をしている時に、時々黒いモヤモヤが見えると言っていましたので。私もそうですし、兄様たちもそのように見えるみたいですから」


 看破の瞳とはサンドロップ公爵家特有の心眼の下位互換にあたるものだ。嘘を吐いるかわかったり、感情の起伏がわかったりする。

 母様がサンドロップ公爵家の人間だったので、私たち兄弟姉妹に看破の瞳が発現したのだろう。


「ふむ……。レティシアは看破の瞳を持っているのか?」


「今は持っていないようです。10歳になるまではわかりませんが、私や兄様たちが看破の瞳を持っていることも知らないでしょうね。それで、どうするつもりですか?」


「……叔母上に頼もうと思う」


「大叔母様ですか……それはいいですね。大叔母様でしたら、アレの泣き落としも効きませんし。場所は大叔母たちが暮らしている領地の別邸ですか?」


「ああ。あの娘は贅沢が好きみたいだからな。別邸での暮らしは堪えるだろう」


「アレには耐えられないでしょうね。別邸は僻地にありますから。期間はどうしますか? 短期間だとあまり意味がないと思いますが」


「とりあえずは、ジュールが学園に入学するまでだ。それまでに叔母上に認められなければレティシアが学園に入学するまで延長する」


「短くて5年、長くて9年ですか。ふふ……アレがどうなるのか楽しみですね」


 大叔母様と大叔父様が暮らしているのは領地の端にある自然豊かな僻地で、都心から遠く離れた場所だ。贅沢が好きなアレには耐えられないだろう。


「楽しそうですね。少しは可哀想とか思わないんですか?」


「エノック。今回の件はアレの自業自得よ。アレの非常識な行動や虚言の被害を最も被っているのは紛れもなく私たち兄弟姉妹なのよ? とは言え、私は嫌われているから実際には私にはあまり被害はないけれど。大叔母様に託して少しでも良くなるのならそれに越したことはないわ」


「そうですが……」


「それにね?」


 私はすっと目を細めてエノック見る。彼は思わずといった感じで背筋を伸ばした。


「先に喧嘩を売ってきたのはアレなのよ? 私は懐に入れた相手には寛容だけど、敵には容赦しない。例え血の繋がった妹だろうとね。アレに対する今の評価はドン底なのよ。ただ血の繋がった人間。それ以上でも以下でもない。それに比べ、兄様たちやリシャールは別よ。ジュール兄様は口は悪いし素っ気ないところもあるけど、意外にも私たちのことをよく見てるから小さい変化にもすぐに気付くし、イシュメルお兄様は押しに弱いところがあるけれど、ここぞという時は頼りになるのよ。何より優しい。リシャールは存在自体が尊い。ここまでくれば、兄様たちとアレのどちらを取るかなんて考えるまでもないでしょう?」


「お嬢様は旦那様に似てますね」


「そう? 親子なんだから似ていても可笑しくないでしょう?」


「そんなことより、今話した内容は他言無用だ。いいな」


「もちろんです」



◇◇◇



 父様への報告を終え自室に戻って来た。ベッドに潜り込み、先程までのことを振り返ってみた。前々から感じていたが父様はアレのことを嫌っているみたいだ。私や兄様たちには声を掛けてくれることもあるし、誕生日には父様自ら選んだプレゼントを贈ってくれた。リシャールには嫌われていると思っていたからか、少し控えめなところがあったけどプレゼントは贈っていた。だけどアレには声を掛けることもなかったし、なんなら近づくこともなく、見かけると会うことのないように避けていた節もある。プレゼントだってエノックや執事に選ばせていたらしい。こういうのでよく聞くのは、亡くなった妻の面影があって見るのが辛い……とか? だけど、アレに母様の面影はないし似てもいない。母様はハニーブロンドの髪にシトリンの瞳をした女性だった。それに父様と母様は政略結婚だったからそこに愛情はなかった。一応幼馴染だし、友人の妹だったから情はあっただろう。母様を冷遇していたとかはなかった。


 ──そう言えば、エノックは私が父様に似ていると言ってたけど……どんなところが似ていると思ったんだ? 敵には容赦しないってところ? うーん……多分だけど、これが正解のような気がする。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ