5話
そう言えばフェリーチェの結果はどうだったのだろう? 魔力量は多い感じだったが、属性はなんだったのだろうか?
サンドロップ公爵のサイラス様と父様は幼馴染で親友……らしい。2人の友人であり父様の側近であるエノックから聞いたのだが、父様は親友と言われると即座に否定するんだとか。ただの腐れ縁だと。
◇◇◇
屋敷まで戻ると父様は仕事の為、皇宮へと向かった。
「お姉様は恵まれていますわね」
すれ違いざまにそんなことを言い残し、本人はさっさと自室へ戻って行った。
──はあ? 何アイツ。自分の結果に満足できなかったからって八つ当たり?
「結果が気に入らなかったみたいだね」
「レイティアラが羨ましいんだろ」
「恵まれなかった私は可哀想……みたいな感じですか?」
「それそれ」
「はぁ」
「まー、あんま気にすんな。いつものことだ」
「そうですね」
兄様たちとそんなやり取りをしていると、リシャールが眠そうに目を擦っているのが見えた。
「リシャール、眠いの?」
「ん……」
今にも眠ってしまいそうな弟を抱き上げると、舌足らずな言葉で問いかけられる。
「てぃあねーしゃまは、りしゃーるのこときらい?」
「え? そんな訳ないでしょう?」
「にーしゃまたちは、りしゃーるのこときらい?」
「そんなことないよ」
「そーだぞ」
「どうしてそんなこと聞くの?」
「だって……れてぃしあねーしゃまが、みんな、りしゃーるがきらいだって」
「「「は?」」」
「リシャール?」
「……」
「寝ちゃったみたいだね」
眠ってしまった弟を部屋に送り届け、兄様たちが待つ談話室へやって来た。
「さっきのどういうことかな?」
「どうもこうも、アイツがリシャールに嘘吐いたんだろ。いつもみたいに」
「どうして?」
「自分が孤立しているのを自覚して、リシャールを味方につけようとしたとかですか?」
「可能性はあるな」
「リシャールが起きたら詳しく聞いてみます」
「そうだね」
「場合によっては父様に報告しなくちゃいけませんね」
とりあえずリシャールが起きたら詳しく話を聞くということで解散になった。しかし、レティシアは何を考えているのか。幼い弟にみんなはお前のことが嫌いなんだって嘘を吐くなんて。
2時間程してリシャールが目を覚ましたと報告があり、部屋へ行き話を聞いた。すると、レティシアからリシャールは母親を殺して生まれてきたから、みんな自分から母親を奪ったリシャールのことを恨んでいると言われた。でも自分だけはそんなリシャールの味方だから、自分の言うことはちゃんと聞かなくちゃいけない……などと言われたらしい。
──アイツ! まだ3歳になったばかりの弟になんてこと言ってんの?! 馬鹿でしょ!? どういうつもりだよ!? ホント、ムカつく!!!
泣きじゃくる弟をあやしながら、私も兄様たちも、もちろん父様もリシャールのことを恨んだりしていないこと、リシャールのせいで母様が死んだわけではないことを言い聞かせた。最初はなかなか信じようとしなかったが、何度も繰り返し言い聞かせると漸く信じてくれた。
リシャールはその言葉を気にして私たちに甘えることができなかったらしい。意地悪を言ってきたレティシアの言うことを聞くのも嫌だった為、ずっと孤独な時間を過ごしていたようだ。
「これからは私や兄様たちにいっぱい甘えていいからね」
「うん!」
──これは完全に父様に報告する案件だね。エノックに聞いた話だと、父様はリシャールが自分を怖がっているみたいだと密かに落ち込んでいたらしいし。それがレティシアのせいだと知ればどうなるか……。
「リシャールは父様が怖い?」
「こわくない。でも、きらわれてるって……」
「怖くないならそれでいいんだよ。父様はリシャールを嫌ってなんかないからね」
泣き疲れて再び眠ってしまったリシャールを侍女に任せ、兄様たちに聞いたことをそのまま話した。ジュール兄様は激怒し、いつもおっとりした優しいイシュメルお兄様も今回ばかりはレティシアにかなりお怒りのようだった。結局この件は絶対に父様に報告するべきだと兄様たちが断言したので、執事に父様が帰って来たら教えてほしいと伝えた。
──私も泣きじゃくりながら話すリシャールを見た時から、絶対に父様に報告する案件だと思ってたから大賛成。
父様が帰って来たのは日付が変わる頃だったが、すぐに会いたいと伝えると執務室ではなく自室の方に呼ばれた。
──自室に呼ばれたのは初めてだな。
父様は屋敷に在宅時は大抵執務室で仕事をしている。皇宮に行く時は帰りが遅くなることが多いし朝は早い。魔法騎士団の団長として遠征に行ったりもするので、何日も屋敷を空けることが多い。私たち兄弟姉妹は基本的に早寝なので時間が合わなかった。でも今の私にとって夜更かしはなんてことないので、この時間まで起きて父様の帰りを待つこともできるのだ。
私は父様にどう説明しようか考えながら、執事に案内され父様の自室へと向かった。