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14.5話




「エノックは結婚しないの?」


「ごほっ……な、ん、ですか、いきなり」


「いや、エノックもいい歳でしょ? なのに結婚どころか恋人が居るって話も聞かないからさ。いい人が居ないなら私が見繕ってあげようか? あ、それとも男が好きとか? 父様が好きだったりするの?」


「違います! なんでそうなるんですか?! はぁ……俺はいいんですよ。結婚する気ないんで。それと普通に女が好きですから変な勘違いしないで下さいね。ゼルのことは普通に尊敬してるだけなんで」


 父様を広告塔にする具体的な話し合いが終わって、私とエノックは一緒にお茶を飲んでいた。父様は居ない。そこで私はエノックのことをよく知らないと思い出し、色々聞いてみようと思ったのである。


「私偏見ないよ?」


「本当に違いますから……」


「そうなの? でも、勿体ないわね。エノックなら若いご令嬢とかにも人気だと思うんだけど。それこそ、結婚したがる人は多いんじゃない?」


「……じゃあ、お嬢様がもらってくれません?」


「尻に敷かれてくれるならいいわよ」


「……そこは断ってくださいよ。俺が殺されるじゃないですか」


 ──実際、私は結婚するなら尻に敷かれてくれる人がいい。貴族の、しかも公爵家の娘だから結婚は避けられない。政略結婚だろうと構わないけど、こちらの条件を呑んでくれる人じゃないとダメだ。私のやることに口を出さない人。詮索しない人。深入りしてこない人。その他諸々。条件さえ呑んでくれれば年の差なんて気にしない。


「……お嬢様。俺は本当に結婚はいいんですよ。仕事してる方が何も考えなくていいから楽ですし、楽しいので」


「…………」


「俺ね、家族とは縁を切ってるんですよ。まだ家名は名乗ってますけど、実質絶縁状態なんです」


「……どうして?」


「俺は家族の誰とも似てないんですよ。父親は俺を不義の子だと言って顔を合わせることすらしません。母親は俺のせいで父から不貞を疑われて俺を憎んでいる。実際、母が不貞をしたのかは……わかりません。兄たちも両親が不仲なのは俺のせいだと言って嫌っています。そのうえ、兄2人より整った顔してますし優秀でしたから、学園に入学する頃になると女性にモテたんですよ。兄たちの婚約者や想い人まで俺に言い寄って来たんです。そのことで、ますます兄たちに嫌われて。女性関係にも家族にもいい思い出がないんですよね。だから嫌になっちゃったんです。何かに期待して裏切られるのが。なのに俺がゼルの側近になったら擦り寄って来たんです。今まで邪険にしてきたくせに。だからね、余計な人間関係は要らないなって」


「……そう」


 エノックの気持ちは痛いくらいよくわかった。前世の私に似ているから。兄弟は居なかったけど、親に憎まれる悲しさや自分は何もしていないのにという怒り。でも、心の何処かで期待してしまっている事実。気づけば必要以上に人と関わることを避けている。


 ──私には何も言えない。私は諦めてしまった側だから。でも……。


「エノック、それで後悔しない? この先、どうしようもなく好きになる人が現れるかもしれない。エノックの全てを受け入れて好きになってくれる人が現れるかもしれない。それでも、その考えは変わらない?」


「……後悔しないかは、正直言ってわかりません。でも、俺の考えは変わりません。ゼルに要らないって言われるまでアイツに仕えますよ。1人孤独に死んでいくのかと思うと少し寂しい気もしますけど」


「あら、その心配はないわ。貴方が全てをかけて命尽きるその時まで父様に仕えると言うのなら、私が責任を持って貴方の最後を看取り、送ってあげる。寂しさなんて感じないくらい振り回してあげるし、どんな敵からも守ってあげる。貴方が安心して最後まで父様に仕えられるように、貴方を煩わせるものは私が排除してあげる」


「……はっ、ははは。あっははははは」


 ポカンとしたかと思えば次の瞬間、大声をあげて笑い始めた。


「そんなに笑う?」


「す、すいません。まさかそんなことを言われるとは思っていなかったので……はっははは。あー、ダメだ腹痛い……。俺なんかを守ってくれるんですか?」


「ええ。貴方を守ることは父様を守ること。ひいては公爵家を守ること。父様が仕事をスムーズに進められるのは貴方のサポートがあってこそ。貴方に何かあれば父様の仕事が滞ってしまう……そして何より父様を完璧にサポートできるのは貴方だけ」


「お嬢様……いえ、これからはティア様と呼ばせていただきます」


「どうしたのよ」


「ティア様、ありがとうございます。実を言うと俺、誰かから贈り物を貰ったことがないんですよ。だから、ティア様から万年筆とガラスペンを頂いた時は泣きそうになりました。これからはクレセンティア公爵家の為に仕えさせていただきます」


 ──だからあの時、様子がおかしかったんだ。


 エノックは立ち上がり、右手を胸に当て左手は後ろに回して礼をした。


 ──これなんだっけ? カーテシーの男版のやつ? あと執事がやるやつ? まあいいか。


「頼りにしてるわ」


「やっぱり親子ですね。ティア様が1番ゼルに似てますよ」


「そうかしら? 色合いは似てると思ってるけど」


「ティア様が成長したら傾国父娘(おやこ)って呼ばれるんじゃないですか?」


「……面白くないわね。国を傾けるより奪う方が楽じゃないかしら?」


「やっぱり似た者父娘(おやこ)だ。同じこと言ってる」


「あら、父様も同じことを言ったの?」


「そうですよ。学生の時、当時皇太子だった陛下にそう言われて、傾けるなんてまどろっこしいことせずに国を奪う方が楽だろうって」


「あらあら。ふふふ」


「ティア様。怖いですよその笑顔」


「本当に失礼ね。ふふっ」




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