14話
「父様、これを使ってみてくれませんか?」
私は無限収納からある物を出した。
「それは?」
「万年筆という筆記用具です」
「万年筆……」
キャップを外し父様に手渡す。
「書いてみてください」
受け取った万年筆で1枚の書類に署名すると、しばし固まり、またすぐに別の書類に署名していった。
「インクが切れないな」
「そうです。これはインクが補充できるので、羽根ペンよりも多くの文字を書くことができるんです。インクも報告書だけを書くと考えた場合なら1日は持つでしょう」
「これはいいな」
「その万年筆は父様に差し上げます。ぜひ、皆様の前でお使いください」
父様の万年筆は父様の瞳をイメージし、紺色に金色を散りばめた感じになっている。ペン先やキャップのクリップ部分などの金属は父様の髪をイメージした銀色だ。
「エノックも」
シルバーグレーの髪とパープルフローライトのような瞳をしているエノックの万年筆はグレーと紫のグラデーションにした。
「それぞれ、髪と瞳の色を取り入れてみました」
「なるほど。皆に見せびらかせばいいんだな」
「お願いします」
そこでエノックの反応がないことに気づく。
「エノック? 気に入らなかったかしら?」
「い、いえ。こんなに素晴らしい物を、ありがとうございます……」
──? なんか変な感じ。
「あ、こんなのも作ったんですよ」
再び無限収納から取り出す。
「これは……ガラスですか?」
「そう。ガラスペンよ」
「ガラスでペンを?」
「はい」
そう。取り出したのはガラスペン。
「文字数の多い書き物にはあまり向きませんが、羽根ペンよりは書けるので、こちらも作ってみました。デザイン性はばっちりです」
「これどうなってるんです?」
「ペン先に溝があるのよ。その溝がインクを吸い上げるの」
「なるほど。よくこんな物を思いつきましたね」
私が考えた訳じゃないので、笑って誤魔化しておく。
「こちらも2人目をイメージして作らせたので、よかったら使ってみてください。さて、次は服と装飾品です。どうぞ」
ガラスペンを渡して次に進める。
「凄い量ですね……」
「アシェル……商会長が張り切ってね」
服と装飾品はアシェルが腕を振るってくれた。2人を見ているとインスピレーションがじゃんじゃん湧いてくるらしく、こちらはかなりの数が用意されている。素材はもちろん帳蜘蛛の布と糸ですよ!
「帳蜘蛛の布と糸って……この服だけで大白金貨が何枚飛んでいくんですか?」
「これはオーダーメイドだから帳蜘蛛の布と糸を使ってるけど、既製服は普通の布や糸を使うから平民でも買える値段設定にしてあるわ」
「既製服とは?」
「あらかじめいくつかのサイズを決めておいて大量生産した服のことよ。オーダーメイドだと平民は手が出せないでしょ? そうなると、自分で作るしかなくなる。でも、ある程度余裕のある家ならいいけど、余裕のない家は子供だって働かなきゃやっていけないのが実情。そうすると服なんて作ってる暇がない。そんな時、既製服があればどう?」
「服を作る時間を仕事に充てられる」
「そう。多くの平民は貴族と違って服のデザインやオリジナリティにはあまり興味がない。だったら、大量生産された服でも満足できるでしょう?」
「なるほど……」
この世界の服は全てオーダーメイド。貴族なら好きなだけ作れるだろう。だが平民はそうはいかない。だから、その家の女……母親なんかが服を作るし、破れたり丈が短くなったら繋ぎ合わせて使う。仕事と家事をしながら服を作るとなれば、睡眠時間を削るしかない。睡眠時間が削られれば寝不足や集中力の低下を引き起こし、仕事に集中できずミスをする。しかし、既製服があれば? 家の女たちは服を作る時間を睡眠時間に充てられる。そうすれば、寝不足も解消され仕事にも集中できるようになる。
──前世みたいに好きな時に服を買いに行けないなんて……みんな困らないのか不思議だったんだよね。
貴族は他の人と同じ服を着るのを嫌がる。自分だけの物が好きなのだ。そのくせ、1度着ると同じ服は2度と着ないって人もいる。1度着た服はタンスの肥やしになってるらしい。いや、勿体ないな!? 私が思うに貴族は無駄が多い。意味がわからん。
私はちゃんと最後まで着てる。ただ、全く同じだと良くないから、その都度リメイクしてもらってる。着れなくなったらバザーに出したり私の経営する孤児院に寄付したりしている。最後まで無駄にはしませんよ。はい。
「ティア。お前はあまり買い物をしないようだな? 毎月お前に割り振られている金がほとんど減っていないと報告があがっているが」
──私たち兄弟姉妹には毎月決まった額が割り振られている。その額、大白金貨2枚。つまり2千万!! 1ヶ月で使い切れるか!! 前世での癖が抜けないのかな? でも、欲しい物も必要な物も買ってるんだよ? それでも8割残る。どうしろっちゅうねん……。
「レティシアには叔母上の言う通り、お前たちの半分だけ割り振っているが、すぐに使い果たしてしまうらしい。そのうえ、足りないと言っている」
──マジかよ。使い過ぎだろ? 私より使ってんじゃねぇか。
「まあ、私の残った分は貯金しておいてください。必要になる時が来るかもしれませんし」
「そうしておこう」




