プロローグ
手違いで消してしまった先週分です。
目を覚ますと、そこは何もない真っ白な空間だった。
「……ここ、何処?」
「気が付いたか」
声がしたかと思えば、目の前に1人の男が現れる。
「……誰ですか?」
「神だ。其方は死んだのだ」
「…………じゃあ、ここは……?」
「神界……天国のような場所だと思ってもらえればいい」
死んだと言われても驚きもショックもなかった。それよりも気になることは……
「……私は、どうなるんです?」
「其方には選択肢が与えられた」
「選択肢?」
「本来なら死者の魂は輪廻の輪に還るが、其方はあまりにも憐れだった。それ故、慈悲を与えることにした」
「……それで、私に与えられる選択肢は?」
「……他に言いたいことはないのか?」
「……」
「我は神だ。心を読むこともできる。憐れだと言われた時、ムカついただろう? 何故それを言葉にしない?」
「……神相手にそんなこと言えないでしょう」
「思ってもいないことを……。では、こうしよう。思ったことは素直に言葉にしろ。敬語も不要だ」
「「…………………………………………」」
◇◇◇
「…………変な奴」
長い沈黙が続き、折れたのは私の方だった。
「心の内を隠される方が面倒だからな」
「……あっそ。で、選択肢は?」
「我が創造した異世界・プレアティアへの転生か、このまま輪廻の輪へ還るか」
「異世界? 所謂、テンプレってやつ?」
「そういうことだな」
「ちなみに、その異世界ってどんな感じなの?」
「よくある剣と魔法の──」
「じゃあ、転生で」
「……話は最後まで聞け! ったく……それにしても即答か。少しは悩んだらどうだ?」
「悩むだけ無駄じゃない? 異世界転生とか面白そうだし。異世界ファンタジーの小説とか、よく読んでたから」
──アニメとか漫画とか好きだったんだよね~。ファンタジー小説もよく読んでたし。
「まあ、それで良いのなら構わないが」
「てかさ、無理して神っぽくしなくてもいいんじゃない? すでにボロが出てるし」
「……そんなことはな──」
「あるから」
「…………1度ならず2度までも神の言葉を遮るとか、お前肝座ってんなぁ」
「心の内を隠されるのは嫌なんでしょ?」
「チッ……お前さぁ、もう我慢したり諦めたりするなよ。転生したら俺の世界を楽しむんだぞ! 不幸になったりしたら許さねぇからな!」
「ふふふ、そうだね。せっかく転生するんだから、楽しまなくちゃね」
「おう。兄貴から頼まれた時は面倒だと思ったけど、話してみたらお前面白いし当たりだったかもな」
「兄貴って?」
「地球の神」
「へ~」
この神、アデミウルという名前らしい。話を聞くと、アデル(本神がそう呼べと言った)のお兄さんである地球の神が私の死を憐れみ、もう1度地球へと転生させようとした。しかし、私の魂がそれを拒絶した為、地球への転生がダメなら異世界への転生ならいいんじゃないかと言うことで、弟である異世界の神に話を持ち掛けたそうな。
初めは面倒だと思ったアデルも、お兄さんに何度も頼まれ、断り切れずに押し切られる形で承諾したんだそう。
──アデルって、なんだかんだ押しに弱いんだな。
それから色々と話した。主に私の過去こと。
私は人見知りということもあり、人付き合いが苦手だった。そのうえ、目つきが悪いとか、黙ってたら怒ってるみたいだとか散々言われた。学校なんて苦痛でしかなかった。中学の時に一時期不登校になったりもした。頭も良くなかったけど、なんとか卒業して高校にも合格した。高校はそれなりに楽しかったけど、それも在学中だけ。
大学に行く余裕なんてなかったから、高校を卒業して就職した。それからはずっと働き詰め。両親は私が高校を卒業すると、親の務めは果たしたと言わんばかりに何もしなくなった。
「自分のことは自分でできるでしょ?」
「もう子供じゃないんだから家から出ろ」
「毎月の仕送りは欠かさないでね」
「今まで育てた分これから親孝行しろ」
そんなことばかり言われた。私からすれば、親らしいことなんて何もしてなかったと思う。両親は家に居ることがほとんどなかった。それもそのはず。両親の仲はとっくに冷えきっており、お互いに愛人が居てその愛人の家に入り浸り。父は愛人に貢ぎまくり、母は愛人に貢がせていた。時々家に帰って来るが、それだって1年に数回だけ。父は一応必要な支払いなんかはしてくれたけど、それも高校まで。
小さい頃は、両親がいつ帰って来てもいいように、掃除なんかもきちんとやっていたが、それが無駄だということは中学に入学する前にわかった。それからは最低限のことしかしなくなった。
高校を卒業して家を出て、職場から近いアパートを借りた。一生懸命働いて稼いだお金も、家賃や光熱費を抜いて全部実家へ仕送り。仕送りが遅れればアパートまでやって来る。アパートへは寝に帰るだけ。職場はブラックではなかったけど、私には仕事しかなかったから残業だろうと休日出勤だろうと構わなかった。
20代の半ばになった頃、いい加減結婚したらどうだと言われたけど、あの両親を見て育った私には家庭を持つなんて考えただけで気分が悪くなる。愛だの恋だのバカらしい。人付き合いが苦手だったとは言え、友人ができなかった訳じゃない。でも友人だと思っていたのは私だけで、見ていない所で陰口を叩かれていた。恋人もそうだ。相手が居たことはあったが、結局は裏切られた。だから全てが嫌になった。人を信じること、愛すること、全てがバカらしくなった。傷ついて裏切られるくらいなら最初から1人でいい。そう思って生きてきた。
「……お前、よく耐えたな」
「ん~、耐えたと言うか諦めてたって言う方が正しいかも。何を言っても聞いてもらえない。口答えすれば殴られることもあった。だから言いなりになった。そうすれば痛い思いもしないし、面倒にもならない。私が我慢すればいい。1番楽な方法が諦めることだったってだけ」
「……さっきも言ったけど、転生したら我慢したり諦めたりするなよ。俺の世界を楽しまなきゃダメだからな! 不幸になったら許さねぇぞ!」
「わかってるよ。そんなの私だって願い下げ」
「そうか。ならいい……あ、そうだ! 俺がお前の友達になってやるよ」
「謹んでご遠慮させていただきます」
「ご遠慮するな! 今から俺はお前の友達! これは決定事項! 神が友達なんて嬉しいだろ?」
「創造神が友達なんて、バレたら面倒にしかならない気がする」
「面倒言うな!」
こうして私は創造神の友になったのだった。